「定年後の再就職」知らないと損する3つの給付金

定年後に「働く意欲がわかない人」を応援する制度もあるという(写真:IYO/PIXTA)
定年後も働くという選択をする人は増えていますが、喜んで働く人ばかりではなく、「仕方なく働く」人もいるかもしれません。ですが、社会保険労務士で人気YouTuberでもある「社労士みなみ」さんによれば、定年後に働くことは給与以外のメリットも多数あるとのこと。
老後の働き方の「コツ」について、「社労士みなみ」さんの著書『もらう×増やす×出費を減らす 年金最大化生活』より、一部抜粋、再編集してお届けします。

ポイントは雇用保険に加入できるかどうか

「定年後も働いたほうがいいでしょうか?」

そんな質問を受けることがあります。

「今まで頑張って働いてきたのだから、のんびりしたい」

「もう年だし、体も若い頃のようには動かない」

そんなお考えの方もいるでしょう。しかし私は、定年後も働けるなら働いたほうがいいと思います。後ほど詳しくご説明しますが、給与収入が増えるだけでなく、国の制度を活用することでメリットがたくさんあるからです。

体力的な面を心配されているのであれば、現役時代のようにフルタイムで働かなくてもいいのです。私は、週3日だけ働く「週3ワーク」を推奨しています。これくらいゆるい働き方なら、負担も少なく続けやすいですよね。できるなら、70歳までは働くことをお勧めします。

人生100年時代といわれるようになりました。100年生きると考えると、60歳、70歳になったとしても老け込むのはまだ早いのです。これから人生はまだまだ続きます。家に引きこもっているよりも、働いたほうが何かといいことがあります。

定年制を定めている企業の約8割は60歳定年ですが、多くの企業が、60歳を過ぎても再雇用契約や嘱託契約など雇用形態を改めて、働き続けられるようになっています。また、2025年4月からは、65歳までの継続雇用制度が義務化されるため、働き続けたいと希望すれば65歳まで働くことができるようになります。

実際、65歳を過ぎても働いている人はたくさんいます。人口に占める労働力人口の割合である労働力人口比率にみると、65~69歳は52%。2人に1人は働いていることになります。

働くことの恩恵は、現役時代のようにばりばり働かなくても受けられます。そもそも、年金があるので、仕事重視ではなく生活重視でほんの少しだけ働いて人生を楽しみたいという人もいるでしょう。そんな人たちのために、70歳までのお得な働き方を紹介します。

雇用保険に入ると得られる「3つの給付金」

定年後も会社で働く際のメリットになるのが、雇用保険です。加入要件は次のようになります。

●1週間の所定労働時間が20時間以上であること
●雇用見込みが31日以上であること

上記の要件を満たし、雇用保険の適用事業者で働く人(パート・アルバイトも含む)が加入できます。20時間といえば、およそ週3日程度ですね。私が「週3ワーク」を推奨する理由の1つがこれです。

雇用保険に加入するメリットは、給付金が受け取れることです。もしも、あなたが60歳を迎えて、働き続けようかどうか迷っているとすれば、理由のひとつは、雇用形態が変わることによる収入減でしょう。

多くの場合、再雇用や嘱託契約になると、それまでの給与から3~4割減るといいます。同じ仕事を続けるのに給与が下がれば、誰でもモチベーションが下がります。

働きたいけど、働く意欲がわかない。そんな人たちを応援する制度が、少なくなる給与を補填してくれる「高年齢雇用継続給付金」です。

給付金ですから、該当する人は、申請すれば誰でももらえます。しかも、非課税です。60~65歳限定の給付金ですが、その間は、給与以外に、税金がかからないお金を国からもらえるということです。

(出所:『もらう×増やす×出費を減らす 年金最大化生活』より)

※外部配信先ではイラストを全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください

給付金をもらえる人は、60歳以降の賃金が、60歳時点の賃金と比べて、75%未満になった人たちです。例えば、60歳時点で月給48万円もらっていた人が、60歳以降の賃金が月給36万円未満になったらもらえるということです。定年後も働いている人たちの話を聞くと、75%未満という条件を満たす人はかなりの割合でいるようです。

もらえるお金は、賃金の低下率によって決まります。具体的には、60歳時点の賃金より61%以下にまで落ち込んだ場合は、賃金の15%を補助。61%超~75%未満の場合は、賃金の15%以下の給付金が支払われます。

60歳到達時の賃金月額が48万円で、60歳以降の賃金が29万円だったとします。低下率60%ですから、支給率は給与の15%になります。もらえるお金は、29万円×15%で4万3500円。

65歳までの5年間満額でもらうと、総額261万円です。1年あたり52万2000円のプラスですから、大きなサポートです。

会社の労務・総務担当者が把握していない制度も

この給付金をきっちりいただくには、60歳の時点で必ずしておかなければならないことがあります。それは、会社を通じてハローワークに60歳時点の月額賃金を登録しておくこと。

気をつけなくてはならないのは、この制度があまり浸透していないことです。実は、会社によっては、労務・総務担当者がこの制度を知らないこともあるようです。

「定年後も同じ会社に継続雇用になったから、総務の人がやってくれる」と安易に考えていると、手続きをされていないことがあり得るのです。人任せにせず、給付金の対象になるのかどうか自分で確認し、勤務する会社の担当者にきちんと念押ししましょう。

この制度の時効は2年です。その期間内であれば支給申請は可能なので、もらい忘れに気をつけてください。ただし、この制度は、2025年に60歳に到達する人から、給付率が15%から10%になり、給付額が減ります。65歳定年が義務化され、高齢者の雇用が安定するまでの特別措置だと思われます。

もらえる権利があるうちに、しっかりもらいながら働き続けるのが、賢い選択でしょう。

65歳以上の「失業者」には手厚い給付が

また、失業手当がきちんともらえるのも魅力です。失業手当は、雇用保険加入者が失業したときにもらえる手当(基本手当)ですが、65歳以上になると給付金の種類がガラリと変わります。65歳以上の失業者には、「高年齢求職者給付金」として、支給日数の30日または50日分が一括で支払われます。

(出所:『もらう×増やす×出費を減らす 年金最大化生活』より)

ちなみに、64歳まで受給できる失業手当は、60歳以上65歳未満であれば、自己都合退職で最高150日、倒産や解雇による理由であれば、最高240日間受給できます。

高年齢求職者給付金の受給資格は、次のとおりです。

● 退職日直前の1年間で雇用保険に加入していた期間が通算6カ月以上ある
● 65歳以上で働く意思がある

ちなみに、雇用保険に1年以上加入していれば、50日分がもらえます。高年齢雇用継続給付金の1日分の上限金額は7065円(2024年8月改定)ですので、最大35万3250円ほどの給付を受けられる可能性があります。

高年齢求職者給付金は、所得とはみなされないので非課税です。また、こうした手当は年金をもらいながら、給付を受けることもできます。雇用保険は、要件を満たせば、65歳以上でも加入できます。正社員にならなくてもパート、アルバイト、派遣社員、契約社員でも大丈夫です。

さらに、2028年10月から対象を「週10時間以上の労働時間」まで拡大する予定になっています。となると、週2日程度の勤務でも恩恵を受けられます。ハードルがぐっと下がりますね。

仕事を「掛け持ち」してもサポートはある

また、働くうえで知っておくとメリットがあるのが、マルチジョブホルダー制度です。この制度は、2022年1月から始まった新しい制度なので、知らない人が多いのではないでしょうか。

マルチジョブホルダー制度とは、65歳以上の労働者が複数の事業所で週20時間以上勤務している場合に、雇用保険の被保険者になれる制度です。

● 複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
● 2つの事業所の労働時間を合計して、1週間の所定労働時間が20時間以上であること
● 2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること

この3つが要件です。短時間のパートやアルバイトを、複数掛け持ちしている人に便利な制度ですね。

ただし、通常、雇用保険の手続きは事業所側が行ないますが、マルチジョブホルダー制度は労働者本人がハローワークで手続きを行ないます。

雇用保険のメリットはまだまだあります。例えば、「教育訓練給付金」です。資格取得でお金が戻る給付金制度です。まだまだ学びたいという人にはおすすめです。

支払った受講費用のうちの20%、最大10万円が支給されます。業務独占資格などの取得を目標とする講座を受けた場合、特定一般教育訓練給付として受講費用の40%、最大で20万円が支給されます。

私の友人は行政書士の資格を取りたいと言っていたので、この制度を紹介したところとても喜んでくれました。

第2の人生で新しいチャレンジをしてみたいという方もいるでしょう。仕事につながる資格もあれば、自分の学びのチャレンジにも使えるので、あなたも活用してみてはいかがでしょうか。

(社労士みなみ : 社会保険労務士、YouTuber)

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