「手当が有利に」転職は2025年以降まで待つべし?

(撮影:今井康一)

今、雇用保険のあり方が大きく見直されています。

たとえば、

①仕事を退職したときに、次の職が見つかるまでに受けられる失業給付(雇用保険の基本手当)の制限が緩和されます。

②教育訓練を受ける人への失業給付や支援も相次いで拡充されます。

つまりは転職しやすく、リスキリング(新たな業務に必要なスキルや能力の取得)がしやすくなるのです。

これらは、成長産業への人材の流入を促すための“国策”であり、ステップアップしていきたい人や学びの意欲のある人は、大きな恩恵を受けられるようになります。

以下に具体的なメリットを見ていきましょう。

失業給付の制限期間が短縮

雇用保険には、離職した人が再就職活動をする期間中の生活支援として失業給付のしくみがあります。このうち、自己都合で退職した場合の給付制限が2025年4月から緩和されます。

通常、失業給付を受け取るまでには受給資格が決定してから7日間の待期期間がありますが、自己都合で退職した場合には、さらに原則2カ月(5年間で3回以上の自己都合離職の場合には3カ月)の給付制限期間が設けられています。

これが2025年4月に施行される雇用保険改正により、1カ月に短縮されます。ハローワークでの求職申込などの手続きから1カ月と7日間経過後には、失業給付を受けられるようになります。

退職や転職をする際には、次の仕事に就くまでの生活資金が大きな課題になります。特に自己都合退職の場合には給付制限によって失業給付を受けられるまでに2カ月余りかかるため、まとまった生活資金を退職前に確保しておく必要がありました。

キャリアの安定のためには安易な退職を繰り返すのは望ましいことではありませんが、もしも事情により退職を希望する場合に、失業給付を早く受けられることが支えになるかもしれません(※なお、体力の不足、心身の障害、病気、ケガ、妊娠、出産、育児、家族の病気、ケガなど所定の正当な理由のある自己都合で離職した場合は「特定理由離職者」となり、現行でも給付制限はありません)。

教育訓練を行うとよりお得に

また、離職期間中や離職日前1年以内に自ら教育訓練を行った場合には、給付制限がすべて解除されます。

改正後、自己都合退職の給付制限は1カ月になりますが、スキルアップやキャリアアップに取り組むと、それも解除されるのです。つまり自己都合による退職でも、7日間の待期期間を経れば基本手当が支給されるようになります。

ここでいう教育訓練とは、国の指定を受けた資格取得講座や研修、専門学校・大学・大学院の課程やプログラムです。

具体的には介護福祉士、看護師・准看護師、保育士、大型・中型自動車第一種・二種免許、キャリアコンサルタント、税理士、社会保険労務士、Webクリエイターといった資格の取得講座や、MBA、法科大学院、教職大学院など大学院・大学・専門学校の専門課程、英検、TOEIC、簿記検定、ITパスポートなど、幅広い資格・講座が対象になっています。

こうした教育訓練を受けた際には、費用の補助を受けることもできます。雇用保険の「教育訓練給付制度」というしくみで、講座のレベルなどに応じて受講費用の20%~70%が支給されます。在職中のほか、離職から1年以内(妊娠、出産、育児、病気、ケガなどで延長手続きをした場合は最大20年以内)であれば退職後に受講したものでも給付の対象になります。

この教育訓練給付金についても、2024年10月から給付率が一部引き上げられる予定です。現在約1万6000講座ある教育訓練はレベルなどに応じて「専門実践教育訓練」、「特定一般教育訓練」、「一般教育訓練」に分けられます。

このうち「専門実践教育訓練」(看護師、介護福祉士、データサイエンティスト養成コースといった専門的・実践的な資格講座が該当)は、受講後に資格取得や就職したなどの要件を満たすと、現行でも受講費用の70%(年間上限56万円)が支給されます。

年間上限64万円の支給も

これが今年10月以降、受講後に賃金が上昇した場合にはさらに給付率が10%上乗せされます。受講費用のうち、最大80%、年間上限64万円まで国から支給されるようになります。

また、教育訓練のうち「特定一般教育訓練」(大型・中型自動車第一種・第二種免許、普通自動車第二種免許、宅地建物取引士、税理士、ファイナンシャルプランニング技能検定などの資格講座が該当)の給付率も、現行の40%(上限10万円)から最大50%、上限25万円(受講後に資格取得し、就職などをした場合)に引き上げられます。

(出所)厚生労働省「教育訓練給付制度のご案内」

先述の給付制限の解除は離職前1年以内の教育訓練が対象になりますので、仮に今年10月に受講して、その後、来年4月に退職すると、教育訓練給付金を受け取り、かつ給付制限なしに失業給付を受け取れることになります。

手当を受け取って経済的な不安を軽減しながら、キャリアアップを目指すこともできそうです。

さらに2025年10月には、在職中に教育訓練を受けるために休職などをする場合への支援制度「教育訓練休暇給付金」制度が創設されます。5年以上雇用保険に加入する人が、教育訓練のために仕事を休み無給となった場合に、手当を受け取ることができるものです。

受けられる給付は失業時に受ける失業給付(基本手当)と同額になる予定です。失業給付では離職前6カ月間の賃金を180で割った賃金日額を基準に、その50%~80%(60歳~64歳は45~80%)が失業期間中に支給されます。

「教育訓練休暇給付金」ではこれに相当する金額が、教育訓練のための休業であれば在職中に受け取れるようになります。受け取れる日数は雇用保険の加入期間に応じて90日、120日、150日とされる予定で、これは自己都合退職で失業給付を受ける場合と同様です。

仕事を辞めずにリスキリングに専念する道も

つまり、従来であれば資格取得をしたい、専門職大学院へ進学したいといった理由で仕事を退職していたケースでも、職場に籍を残したまま、失業給付と同額を受け取りながら勉強に専念できるわけです。

法改正が施行されるのは2025年10月で、職場の休暇制度の整備なども必要ですから、個人が実際に利用できるのはまだ先になりそうです。

とはいえ、これまで、働く人が仕事を休んで教育訓練を受ける際に受けられる、生活費を支援する国の制度はありませんでした。

仕事が忙しくてスキルアップの時間が取れない、収入が途絶えてしまうので勉強のために仕事を辞めるわけにいかないといったジレンマを抱えていた人にとっては朗報ではないでしょうか。

どちらか一方のために他方を諦めるのではなく、学習の時間とある程度の収入を両立できるしくみは、キャリアの後押しになるはずです。

(加藤 梨里 : FP、マネーステップオフィス代表取締役)

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