零細企業が駐車場事業で大手参入を退けた理由

駐車場シェアリングサービス「アキッパ」。なぜ楽天やリクルート、ソフトバンク、ドコモなど大手テックカンパニーの参入にも打ち勝てたのでしょうか(写真:akippa提供)
 たった1人ではじめた零細企業から会員登録数400万人のITサービスを運営するテックカンパニーへと成長した注目の国内スタートアップがある。駐車場シェアリングサービス「アキッパ」は、なぜ楽天やリクルート、ソフトバンク、ドコモなど大手テックカンパニーの参入にも打ち勝てたのか。創業者である金谷元気氏が解説する。
※本稿は、金谷元気著『番狂わせの起業法』の一部を再編集したものです。

零細企業が大手テックカンパニーのライバルに

私、金谷元気は現在、akippa株式会社(以下、akippa社)の創業者兼代表取締役社長CEOを務めています。

創業は2009年。当時、24歳でした。

アキッパは、使っていない個人宅の駐車場や、契約のない月極駐車場の車室をアキッパのプラットフォームにまず登録していただきます。それを、駐車場を借りたいユーザが15分〜1日単位で、アプリやWebで予約して利用できる駐車場シェアリングサービスです。

2024年現在、貸主を除く累計会員登録数(以下、会員登録数)は400万人を超えています。

5万円の資本金を元手にたったひとりで大阪のワンルームマンションから始めた零細企業でしたが、試行錯誤しながら事業をここまで発展させてきました。 

アキッパをスタートさせた際、「サービスを伸ばしていくと、いつか大手テックカンパニーが参入してくる」と、そんな話をしていました。

アキッパの事業が成長軌道に乗り始めた2016年から2018年にかけて、大手テックカンパニーが、こぞって駐車場シェアリングサービスに参入してきました。

参入してきたのは楽天グループ、リクルートグループ、ソフトバンクグループ、ドコモグループ、光通信グループ。これだけの規模の会社が、それも一気に何社も入ってくるとは……。

かつて私たちは光通信系の会社を経由してインターネット回線の営業代理店をやっていて、ソフトバンクの携帯電話をたくさん売っていました。

「ソフトバンクの携帯電話を売っていたら、一生ソフトバンクを超えられない」

そう思い、自社サービスを始めたという経緯があります。そのソフトバンクが、私たちがつくっている市場に入ってきた……。私はすごく興奮して、当時「note」に「ソフトバンクがライバルになった日」というタイトルで文章を書いています。

昨日、新たにソフトバンクさんが参入を発表した。
(略)
1人ワンルームのマンションでソフトバンクさんの商品を売ってた会社が、ソフトバンクさんのライバルになることができる。これは感慨深いものがある。
そして何よりこんなに燃えることはない!
しかし最も見なければならないのはユーザー。
提供するものは駐車場そのものではなく、人と人が会う手助けである。
「困りごと解決企業として、世界一のモビリティプラットフォームをつくる」ことで、世の中はより良くなると信じている。モビリティの未来をしっかり創っていきたい。
Always Beyond.
2018年7月14日 金谷 元気

大手企業にも負けない強さの理由

このころは大手テックカンパニーが参入するたびにNewsPicksなどで「アキッパは終わったな」といったニュアンスのコメントを書かれていました。

社内の雰囲気は絶望的でした。と言いたいところですが、「人生賭けてる俺たちが負けるわけがない」とアドレナリン全開の雰囲気でした。

ただ、気持ちだけではダメです。私たちは大手テックカンパニーの参入に対し、着々と対抗策を打っていきました。

2019年までに合計で35億円の資金調達をしたこともそうですし、採用をさらに強化したこともそうです。このときまでに、全チームのマネージャーが入れ替わりました。マーケティングチームも、プロダクトチームも、広報チームも、駐車場開拓チームも、マネージャーは新たな転職者に替わりました。

もともといた社員は、いままで営業に邁進してくれていた人たちです。アキッパという未知の事業モデルで、しかも専門領域ではない仕事を任されていたので、不安を抱えていたのでしょう。普通は、新しく入ってきた人がいきなりマネージャーとして着任して彼らにマネジメントされるのは面白くないはずです。

ところが、古くから在籍している社員には、彼らのバックグラウンドに敬意を払って、温かく迎え入れるマインドがありました。これは本当にすごいことだと思います。

もっとも、私は昔から折に触れ、「会社が成長していったら、私たちは能力が追いつかなくなる。そのときまでにスキルを成長させるか、もしくは自分より優秀な人を受け入れるマインドを養っておかないといけない」と、そんな話をしていました。

そのような風土が組織に根づいていたのかもしれません。みんな新しく入ってきた人をリスペクトして、彼らの活躍、そしてakippa社の文化を支える存在になってくれました。

会社の規模が大きくなるときは、組織内のいろいろなバランスが崩れるときでもあります。一時的にひずみが生まれることもありますし、会社を去っていく人も出てくるかもしれません。

しかし、akippa社には長く働いてくれている人が大勢いて、みんなが支えあっています。そのあたりもアキッパの強さの理由だと思っています。

楽天グループに勝つというジャイアントキリング

楽天グループ、リクルートグループ、ソフトバンクグループ、ドコモグループ、光通信グループが、アキッパと同様のサービスを始めた際に、私たちから見て脅威だったのは楽天グループです。

楽天グループは、楽天の各種サービスで使える「楽天ポイント」を武器に、「楽天経済圏」を築いています。何千万人といる会員たちがユーザーになれば、アキッパは一瞬で追い抜かれてしまうかもしれません。

しかし、実際にやってみるとそれほどうまくいかなかったようです。参入してきた大手テックカンパニーは現在までにすべてサービスを終了しました。

このビジネスは、駐車場の数が勝負です。ユーザーにとっては、使える駐車場がたくさん登録されているほど便利です。

駐車場がたくさん登録されていると、「このサービスは使いやすい」と評価が広がっていき、ユーザーが集まりやすくなります。ユーザーが集まれば駐車場オーナーが儲かるようになるので、駐車場を貸し出してくれる駐車場オーナーがさらに増えていきます。このようなサイクルを「ネットワーク効果」と言います。

アキッパのような売り手(駐車場オーナー)と買い手(ユーザー)の両方を引き合わせるビジネスは、売り手の数が多くないと大きく成長させることが難しいのです。

私たちは、駐車場オーナーに直接営業して、契約をとってきてもらうための駐車場開拓代理店システムを全国につくり、泥臭いことを徹底してやりきっていました。その部分で、他社を圧倒してきたところがあると自己分析しています。

また、「駐車場がどこにあるか」も重要です。人が移動をするときには、絶対に「目的地」があります。自動車での移動の場合、駐車場というのは目的地に至るまでの「経由地点」ですから、目的地の近くにないと使ってもらえないのです。

「あのアプリを見れば絶対に目的地のそばに駐めるところが見つかる」というぐらい駐車場が密度高くあるかどうかで、ユーザーがサービスの善し悪しを判断します。目的地から遠いところにポツリポツリとある程度では、誰もそのサービスを使いません。

私たちは各地に人員を投入し、粘り強い駐車場開拓活動を通じて「目的地のそばに駐車場がある」という状態をつくりあげたのが、大手テックカンパニーに打ち勝った要因だと思います。

サッカーでは、弱小チームが強豪に勝つような番狂わせを「ジャイアントキリング」といいます。私たちの「ジャイアントキリング」はまさにこのとき起きたのでした。

(金谷 元気 : akippa創業者兼代表取締役社長CEO  )

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