メルカリが台湾へ、透ける「米国リストラ」の教訓

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イギリス、アメリカで苦戦してきたメルカリ。仕切り直しのカギを握る台湾事業の戦略とは(撮影:今井康一)

「世界のメルカリ」に向けて、仕切り直しの第一歩だ。

フリマアプリ大手のメルカリは8月29日、台湾への進出を発表した。日本で出品された商品を現地のユーザーが購入できる「越境EC」の形をとり、繁体字の「美露可利(メルカリ)」の名を冠したサイトを立ち上げた。

メルカリは2019年から、BEENOSグループなど74社のパートナーと連携し、約120の国・地域で間接的な越境ECを展開。海外での人気が根強い日本のアニメやマンガの関連グッズ、比較的状態がよいとされる中古のブランド品・デジタルカメラなどが牽引し、同社の越境EC事業のGMV(流通取引総額)は前年比約3.5倍に成長している(実数は非公表)。

中でも台湾は訪日経験を持つ消費者も多く、メルカリにおける越境ECで、取引金額・件数ともに中国に次いで2位につける市場だ。足元では、物価上昇を受けて節約志向が高まり、現地のリユース品への需要自体も強まっている。

創業間もなく海外進出に挑戦するも…

こうした理由から、台湾ではパートナーが運営するサイト上での販売だけでなく、自社サイトで直接的な接点を持つに至った。越境EC担当の執行役員である迫俊亮氏は「メルカリは今後もグローバルマーケットプレイスの実現に向けて、越境を軸としたグローバルへの挑戦を続けていく」と意気込みを語った。

メルカリの山田進太郎CEO

8月に実施したインタビューで、アメリカ事業について「投資が大きすぎたという、経営としての反省はある」と語っていた山田進太郎CEO(撮影:今井康一)

創業者である山田進太郎CEOの強い思いの下、当初から世界展開に意欲的だったメルカリ。創業翌年の2014年にアメリカへ進出し、2015年にはイギリスでも現地法人を立ち上げた。

しかし、思うような成果が得られなかったイギリスからは早々に撤退。ここ数年はアメリカでも激しい競争やインフレ影響などに苦戦し、今年6月には大規模なリストラを迫られた。

海外進出に黄信号が灯る中、仕切り直しのカギを握る台湾進出には、アメリカをはじめとする海外での教訓が多く盛り込まれている。

1つ目が、効率的なリソースでの事業展開だ。台湾への進出に際しては、イギリスやアメリカのような現地法人は設けず、スマホアプリも展開しないため、人件費や開発費などが抑制されている。

一方で、自社サイトならではのUI・UXを提供することや、独自のキャンペーン展開は可能となる。顧客データも直に手に入るため、将来的な現地でのサービス拡大に向けた布石ともなる、“リーズナブル”な展開なのだ。

メルカリの台湾サイト(左)と、越境ECで人気が高い出品アイテム(右)(記者撮影)

メルカリが台湾で立ち上げた自社サイトのイメージ(左)と、越境ECで人気が高い商品の一例(記者撮影)

2つ目が実需へのフォーカスだ。進出から10年が経つアメリカでは、商品の出品・購入の双方が可能となっているが、今年3月には出品手数料の無料化に踏み切るなど、出品の活性化に苦心している。

対して今回の台湾進出に当たっては、現地での出品機能を用意していない。無理にフルスペックのサービスを提供するのではなく、需要が明確に見えている購入に特化した。「購入も出品もやるかたちで進めると、どうしても時間がかかってしまう。会社としていろんな新しい取り組みをスピード感をもって進めていきたいので、まずは最速で購入を実現しようと考えた」(迫氏)。

課題は「もっと早く」「大胆に」

今後は台湾と同様のスキームを用いて、越境ECによる海外進出を加速する方針だ。需要がみえてきたエリアでは、出品機能の追加も検討する。

ほかにも、韓国のフリマアプリ「雷市場(ポンジャン)」と、現地で出品された商品を日本の消費者がメルカリ経由で購入する実証実験を進めており、これについても将来的に横展開していく計画が公表された。

金融事業の成長などが牽引し、メルカリの全社業績は堅調に拡大している。ただ、国内フリマアプリのGMVの成長鈍化や赤字を垂れ流すアメリカ事業が不安要素となり、株価は今年に入って過去最安値近くまで落ち込む場面もあった。

山田CEOは今年8月、東洋経済のインタビューに「海外・国内ともにすごくポテンシャルを感じているので、もっと早く、大胆なことをするというのが、今の組織的な課題だ」と語っていた。今回、越境ECに関する矢継ぎ早の展開はもちろん、その実現に向けた「スピード感」を重視する発信からは、同社の本質的な軌道修正も感じられる。

世界の壁にぶち当たったメルカリが、再起に向けて繰り出した台湾進出。その成否が、成長の再加速を懸けた試金石となる。

(森田 宗一郎 : 東洋経済 記者)

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