コンビニから宇宙まで、KDDIとOpenAIが描く先

高橋誠社長

KDDIの高橋誠社長(筆者撮影)

KDDIとOpenAIが描く未来像とは──。急速に進化するAI技術を日本社会にどう実装していくのか。少子高齢化や地方創生など、日本が直面する社会課題にテクノロジーはどう貢献できるのか。こうした問いに対する答えの一端が、KDDIの最新ビジネスイベントで明らかになった。

KDDIは9月3日~4日にかけて、ビジネス向けイベント「KDDI SUMMIT 2024」を開催している。このイベントでは、KDDIの未来戦略や最新のテクノロジートレンドについて、幅広い議論が展開された。基調講演では、KDDIの高橋誠社長とOpenAI Japanの長崎忠雄社長が登壇、両者による対談も実施された。

KDDI高橋社長の登壇

KDDI高橋社長の講演の中心となったのは、ローソンとの提携を軸としたリテールテック戦略だ。

高橋社長は「フィーチャーフォンの時代には顧客接点を持っていたが、スマートフォンの普及でそれが失われた。ローソンとの提携は、新たな顧客接点を創出する機会だ」と語った。9月中旬に予定されているローソンとの戦略発表会を控え、ローソンをデジタル技術で変革する「ローソンタウン」構想を示した。そこではリテールテック、次世代モビリティ、買い物難民救済、災害時のStarlink衛星の活用、再生可能エネルギーなど、多岐にわたる構想が含まれる。

KDDIはローソンに50%出資し、三菱商事との共同経営に乗り出した

KDDIはローソンに50%出資し、三菱商事との共同経営に乗り出した(筆者撮影)

高橋社長は、この構想について「高齢化社会、地方の課題の中でソーシャルにインパクトを起こすことができるのではと思っている」と述べた。

その象徴的な計画として、ローソン店舗全国1000箇所にドローンを配置することを挙げた。「事件があったときに10分以内にドローンで駆けつけることができる」と説明する。ドローンの配備が進んでいるニューヨーク市警の例を引き合いに出しながら、その実現可能性を示唆した。

ローソンにスマートドローンを配備する計画。治安維持などで役立てるという

ローソンにスマートドローンを配備する計画。治安維持などで役立てるという(筆者撮影)

KDDIのスマートドローン

遠隔操縦で発着できるKDDIのスマートドローン。KDDIの通信センターの警備業務で試験運用を行っている(筆者撮影)

リテールテックに取り組む意義

高橋社長は、ローソンとの提携について投資家からの理解を得ることに苦心したことを明かした。「小売りは利益率が高くない。なぜそんなところに投資するのかと言われて大変だった」と語り、出資後の半年間は投資家からの批判に直面したことを説明した。

しかし、高橋社長はこの取り組みの意義を強調した。「先月、ハイパースケーラー(クラウドサービスを大規模に展開する巨大IT企業)を訪ね歩いたんですが、特に北米では、リテールテックがものすごい勢いで進んでいます。彼らが最も重視していたのは、ソーシャルインパクトがあるという点でした」と述べ、アメリカの企業では収益性だけでなく、社会にどれだけインパクトをもたらせるかが重要な判断基準になっていることを指摘した。

ローソン以外については、高橋社長は通信事業の未来像について、5Gの重要性を強調しつつ、2024年内にStarlink衛星とスマートフォンの直接通信サービスを開始することを紹介した。

2024年内にスマホとStarlink衛星の直接通信サービスを提供開始する

2024年内にスマホとStarlink衛星の直接通信サービスを提供開始する(筆者撮影)

生成AI分野での取り組みとしては、業界特化型AIプラットフォーム「WAKONX(ワコンクロス)」の開発を紹介。日本らしいバリューの創出を目指すとし、AIベンチャーELYZAとの協業による日本語モデルの最適化や、三井物産との合弁会社アルティウスリンクを通じたコンタクトセンターでのAI活用など、具体的な施策を説明。これらのAIサービスを支える基盤として、シャープ堺工場跡地や多摩、小山でのデータセンター建設計画も明らかにした。

スタートアップ支援については支援数を増やすだけでなく、スケールアップを積極的に目指す方向性を強調。KDDIのアセットを活用した育成プログラムやパートナー企業との連携など、具体的な支援策も紹介された。講演全体を通じて高橋社長は、テクノロジーを通じたソーシャルインパクトの創出を重視する姿勢を示し、「社会課題解決こそが新たなビジネスチャンス」と強調した。

会場展示

会場展示では、Starlink衛星を活用した持ち運べる携帯基地局も展示されていた(筆者撮影)

OpenAI Japan社長の登壇

講演の後半では、OpenAI Japanの長崎忠雄社長が登壇した。高橋社長が「ベールに包まれたOpenAIさん」と表現した。OpenAIはグローバルで従業員2000人のスタートアップ企業だ。日本法人は日本の企業や官公庁向けの営業窓口として、2024年4月に営業を開始したばかりだ。

長崎忠雄社長

OpenAI Japanの長崎忠雄社長(筆者撮影)

主力サービスのChatGPTは爆発的に普及し、GPT-4提供開始から1年でアクティブユーザー数が2億人を突破した。長崎氏は「おそらく歴史的に見ても、これだけ使いやすい形でAIが人々の手に入った例は今までなかった」と述べ、その前例のない普及速度を強調した。

長崎社長は、「OpenAIはミッションドリブンな会社です。AIのことしか考えていません。寝ずに考えています。そういう情熱を持った会社は少ない」と述べて、OpenAIがAI開発に対して強く専念していることを示した。

企業向けのAIソリューションは、ChatGPT Enterpriseなどが、Apple、モルガン・スタンレー、コカ・コーラ、PwCなどの大手企業に採用されている。特にAppleがiOSなどにOpenAIとの連携機能を組み込んだことについては「プライバシー保護に厳格なAppleがAIの最初のパートナーシップとしてOpenAIを選んでくれたことは非常に嬉しい」と言及した。

OpenAIのユーザー数は3月時点で1億人を突破。直近のデータでは2億人を突破しているという

OpenAIのユーザー数は3月時点で1億人を突破。直近のデータでは2億人を突破しているという(筆者撮影)

日本市場への注力についても語り、日本が抱える少子高齢化などの社会課題に対し、AIが解決策を提供できる可能性を示唆した。日本が世界に先駆けてこれらの課題に直面していることから、AIを活用した新たなソリューションの可能性を探る意義を強調した。

AIの進化の速さにも言及し、GPT-3から4への進化で100倍近く性能が向上し、マルチモーダル化も実現したことを説明した。次期モデルでも飛躍的な進化があるだろうと論じ、「AIの旅路はまだ始まったばかり」と述べた。

KDDI社長とOpenAI Japan社長の対談

高橋社長と長崎社長の対談では、AIの社会実装と未来像について活発な議論が交わされた。

KDDIの高橋誠社長(左)と、OpenAIの長崎忠雄社長

KDDIの高橋誠社長(左)と、OpenAI Japanの長崎忠雄社長(筆者撮影)

AIの民主化とソーシャルインパクトについて、長崎社長は「正しくAIを使い、正しいインパクトをもたらすことが重要」と強調した。日本の社会課題、特に少子高齢化に対するAIの貢献可能性について言及し、「日本は世界に先駆けてこれらの課題に直面している。AIを活用することで、新たなソリューションを見出せる可能性がある」と述べた。

社内でのAIの普及に関する課題も取り上げられた。高橋社長が「使う人と使わない人の差が広がることが課題」と指摘すると、長崎社長は「早く使って早く慣れることが重要。AIはマニュアルがないので、トライアンドエラーが必要」と応じた。

コンビニエンスストアでのAI活用についても意見が交わされた。長崎社長は、現状のコンビニサービスで必要な多くのボタン操作をAIとの対話で代替できる可能性を示唆し、「ストレスフリーの顧客体験に近づいていく」と予測した。高橋社長もこの見解に同意し、KDDIとローソンの提携がこうしたAI活用による新しい小売り体験の実現を目指すと述べた。

高橋社長は、ローソンへの出資後、KDDIから社員を出向させる過程で、両社が直面している課題の共通性に気づいたという。顧客とのつながりの維持、AIを活用した業務効率化、労働力不足への対応など、KDDIとコンビニが抱える社会課題は極めて類似していることが分かったと述べた。高橋社長は「そこにAIが入ってきたものだから、このAIをコンビニでこう使うと我々の通信会社でも使えるかみたいな話になってくるので、むちゃくちゃ面白い」と語り、この連携が両社にとって大きな可能性を秘めていることを強調した。

展示

イベントではバーチャルヒューマンとロボットによる未来の接客体験のデモンストレーションも展示されていた(筆者撮影)

特に、生成AIによるカスタマーサポートがコンビニと携帯電話キャリアの両方に適用できる可能性を示唆し、顧客接点の革新に向けた取り組みに意欲を示した。

通信業界では5GとAIの関係性についても言及があり、高橋社長は「5Gの次はAIかもしれない」という見方を示した。これに対し長崎社長は、「AIがエンベデッドされていく世界になる。レイテンシが全くない形で通信の高速化が進む」と予測した。

両社長は、AIがもたらす変革が単なる効率化や利便性の向上にとどまらず、社会構造そのものを変える可能性を秘めていることで一致した。テクノロジーを通じたソーシャルインパクトの創出が、これからの企業の重要な役割であるという認識を共有して対談を締めくくった。

最後に、高橋社長は「グローバルスタンダードをいち早く取り入れ、そこに日本らしい付加価値を乗せていくことが重要」と締めくくり、KDDIが目指す未来像を示した。

(石井 徹 : モバイル・ITライター)

ジャンルで探す