ChatGPTが難点?フォルクスワーゲン最新3モデル

今回、ドイツ現地で乗った最新フォルクスワーゲン、左がティグアンで右がゴルフ(写真:Wolfgang Grube/Volkswagen)

今回、ドイツ現地で乗った最新フォルクスワーゲン、左がティグアンで右がゴルフ(写真:Wolfgang Grube/Volkswagen)

フォルクスワーゲンが、モデルラインナップを刷新中だ。2024年に「ゴルフ」と「ティグアン」をマイナーチェンジ。「パサート ヴァリアント」のモデルチェンジも行った。

いまフォルクスワーゲンは、どこへ向かおうとしているのか。これらのモデルの試乗とともに、ドイツで行った乗用車部門の首脳陣の談話を通して垣間見えた、フォルクスワーゲン・プロダクトの近未来について触れてみよう。

私が上記の3モデルに乗ったのは、2024年7月のドイツでのことだ。一部のモデルは、すでに国際試乗会での印象をまとめた記事がメディアに掲載されているものの、私にとっては3台とも初めて接するモデルだった。

フォルクスワーゲンの看板車種であるゴルフは、2019年に発表された8代目。マイナーチェンジをもって、一部の人は「ゴルフ8.5」などと呼んだりする。今回の変更は、小さく見えて、実は大きい。

目玉は新世代のオペレーティングシステム(OS)

「ゴルフはつねに顧客のニーズを反映してきたため、世界的なベストセラーの座を守ってきました」

フォルクスワーゲン乗用車部門のトマス・シェファーCEOは語る。そして、今回のマイナーチェンジについて、次のように続けた。

「最新の進化形として効率、快適性、品質が向上するとともに、オペレーティングシステムが新しくなりました」

新しいゴルフでは、ヘッドランプまわりを含めた一部のスキンチェンジもさることながら、新世代のオペレーティングシステム(OS)を使ったインフォテインメントシステムの採用が、大きな目玉なのだ。

フロント部分のデザインなどが新しくなったゴルフ(写真:Wolfgang Grube/Volkswagen)

フロント部分のデザインなどが新しくなったゴルフ(写真:Wolfgang Grube/Volkswagen)

「フォルクスワーゲンは、テクノロジーを民主化する(安価に広く提供する)ことを製品づくりのモットーとしてきました。最新のゴルフは、ChatGPTも導入して、むずかしい操作をすることなく簡単に、そして毎日の生活の中でAIの恩恵にあずかれるようにと開発しています」

取締役のメンバーで開発担当のカイ・グリュニッツ氏は、上記のように述べている。

【写真】ゴルフ/ティグアン/パサート ヴァリアント「新世代フォルクスワーゲン」のデザインを見る

ドイツをはじめ、ヨーロッパで販売されてきた従来のフォルクスワーゲン車でも「Hello IDA(アイダ)」の発声で起動するボイスオペレーティングシステムが搭載されており、これはこれで便利なのは、私も知っていた。ナビゲーションの目的地探索から設定まで走行しながら行えるし、エアコンの温度設定などもできた。

「IDAも便利ですが……」とグリュニッツ氏は続ける。「ChatGPTによって、インフォテインメントシステムの可能性はさらに大きく広がります」と言う。

右上に「hi,I'm IDA」の表示と会話状況が見える(写真:Wolfgang Grube/Volkswagen)

右上に「Hi,I'm IDA」の表示と会話状況が見える(写真:Wolfgang Grube/Volkswagen)

「AI(人工知能)によって得られる情報はさらに拡大し、ツーリストにお勧めの場所案内、サッカーなどの試合の結果、さらに数学の問題の解き方まで、自分の使っている言語で話しかけるだけでいいのです」と、グリュニッツ氏。

ChatGPT搭載OS「MIB4」を試す

実際にゴルフのハンドルを握りながら「ハロー・アイダ」と話しかけると、システムが起動。「ここから空港までの近道を教えて」と、よくある質問をすると、いくつかのルートを示してくれた。そこから、提案されたルートプランの番号を選べばよい。

このあたりはIDAの守備範囲だ。「このクルマに乗っている子どものために、恐竜の物語を語ってくれる?」と告げる。ここからは、ChatGPTの出番だ。

そして、物語を語る音声が流れ出す。物語は、あるジャーナリストが、YouTubeにアップした動画のものだった。「ティラノサウルスはどんな恐竜?」とか「ジュラシックパークってどんな映画?」といった質問についても、車載ChatGPTが答えてくれる。

アメリカに住む知人が、「長い距離の移動のときは、音楽よりもオーディオブックがいい」と言っていたのを思い出した。こういう人にも福音かもしれない。

ステアリングホイールのスイッチは、タッチスイッチを廃止してすべて物理スイッチになった(写真:Wolfgang Grube/Volkswagen)

ステアリングホイールのスイッチは、タッチスイッチを廃止してすべて物理スイッチになった(写真:Wolfgang Grube/Volkswagen)

ChatGPTを組み込んだ今回のオペレーティングシステムを、フォルクスワーゲンでは「MIB4」と名付けている。モジュラーインフォテインメントシステムの第4世代だ。

「レディ・トゥ・ディスカバー」や「ディスカバー」など、グレードによって中央のモニターの大きさが異なり、最大のものでは12.9インチになる。

私がドライブしたゴルフは、「eTSI Life」というグレード(日本に導入時には「Active」と呼ばれるそう)。85kWの1.5リッターターボエンジンに、モーターを必要に応じてトルク増強に使う、48ボルトのマイルドハイブリッドシステムが組み合わせてある。

走り始めると、スムーズな加速とともに重めのアクセルペダルやしっかりした操舵感覚が印象的で、アウトバーンの時速130km制限区間では、気持ちよく流れに乗って走ることができた。

余談になるが、速度無制限区間では、走っているとその横を速い車両が一瞬で通りすぎていく。ドイツ人は、“飛ばす”のだ。

アウトバーンにてパサート ヴァリアントの後ろ姿(写真:Wolfgang Grube/Volkswagen)

アウトバーンにてパサート ヴァリアントの後ろ姿(写真:Wolfgang Grube/Volkswagen)

ゴルフの足回りは硬めで、ハンドルや足裏への振動はよく抑えてある。一方、シートのクッション性というか耐振動性がいまひとつ。身体に伝わってくる路面からのバイブレーションが、高い質感を期待していた私にはやや残念な点だった。

感心したのは、運転支援システムだ。アダプティブクルーズコントロール(ACC)とレーンキープを統合制御する「トラベルアシスト」がそなわっている。

本国仕様では、さらに交通標識認識機能(TSR)が加わっており、アウトバーンでも一般道でも、自動で速度を調整。さらに「プリディクティブACC」という機能が、ナビの地図データを読み取り、たとえばカーブの手前で減速するなど制御を働かせる。一般道でも車線がきちんとあれば、ハンドル操作は車両に任せて走れるのだ。

これらとともに、先述のボイスコントロールシステムを使うと、“このベクトルでクルマは進化していくのか”と、納得する気持ちになってくる。

同様のシステムは、ティグアンとパサート ヴァリアントにも搭載。どちらのモデルでも高い利便性を体験できた。ただし、いまのところChatGPTは日本仕様につかないようで、それだけは残念でならない。

ティグアンはフルモデルチェンジにより3代目となった(写真:Wolfgang Grube/Volkswagen)

ティグアンはフルモデルチェンジにより3代目となった(写真:Wolfgang Grube/Volkswagen)

ティグアンは「満ち足りた気分になる」

ティグアンは、「TDI 4Motion R-Line」という、142kWの2.0リッター・ディーゼルエンジンに、4MOTIONと名付けられた全輪駆動システムが組み合わされたモデルをドライブした。「アダプティブシャシーコントロールDCC Pro」をそなえていたモデルで、しっかりした操縦性が光っていた。

しっとりとした乗り心地と、過敏でも鈍でもないステアリングの設定も絶妙で、運転席にいると、たいへん満ち足りた気分になる。ただし、後席は合成繊維のシート地のせいで身体が微妙に滑って、落ち着かなかった。

皮革(本革)を使わない内装のことを「ビーガンインテリア」といったりして、動物由来の素材を回避する傾向が出てきている。ただしこのように、素材を含めて過渡的な状況なのかもしれない。

人工皮革が使われるティグアン TDI 4Motion R-Lineのインテリア(写真:Wolfgang Grube/Volkswagen)

人工皮革が使われるティグアン TDI 4Motion R-Lineのインテリア(写真:Wolfgang Grube/Volkswagen)

パサート ヴァリアントは、ゴルフの上に位置するセダン「パサート」のワゴン版だ。といっても、パサートとして9代目となる新型が、ヴァリアントに1本化され、セダンの設定はないという。

「ビジネスクラスの車両であると同時に、ファミリー向けのオールラウンダー」というのが、フォルクスワーゲンによるパサート ヴァリアントの定義。この新型もやはり「市場もっとも先端的なテクノロジーを搭載した」ことが、特徴の第一点としてうたわれている。

私が乗った「eHybrid R-Line」は、1.5リッターエンジンを使うプラグインハイブリッド。最高出力は130kW(日本導入車両は110kWになるという)。

フォルクスワーゲンによると、ドイツを含めたヨーロッパ各国においての“1回の移動量”の平均は、95%が50km未満で、99%が100km未満なのだそうだ。だから、「(このeHybridでは)すべての移動の99%を電力のみで走行できる」と説明する。

水平的なデザインだったパサート ヴァリアントはやや尻上がりのウェッジシェイプのスタイリングに(写真:Volkswagen AG)

水平的なデザインだったパサート ヴァリアントはやや尻上がりのウェッジシェイプのスタイリングに(写真:Volkswagen AG)

なお、日本では、1カ月で平均370kmほどしか走らないというから、ヨーロッパの人の走行距離よりもだいぶ少ない。プラグインハイブリッドなら、ガソリンを使わずに生活ができるだろうか。

乗ってみればスムーズな加速感が特徴的で、重心高も低く感じられ、高速走行における安心感が高い。室内も、前後席ともに空間に余裕があって快適だった。

もちろん、このパサート ヴァリアントでも、MIB4によるインフォテインメントシステムの恩恵にあずかれる。

12.9インチのモニターは、さすがに存在感が強い(写真:Wolfgang Grube/Volkswagen)

12.9インチのモニターは、さすがに存在感が強い(写真:Wolfgang Grube/Volkswagen)

日本仕様にもChatGPTを!

日本ではゴルフとそのワゴン版であるゴルフ ヴァリアントが、2024年9月の受注開始で、2025年1月以降の発売。ティグアンとパサート ヴァリアントはやはり9月開始で、発売は11月以降だそうだ。

昨今の情勢を考えると価格は上がってしまいそうだが、きっと購入して損のないクルマになると思う。願わくば、日本仕様にもChatGPTを早々に導入してほしい。

【写真】巨大なインフォテインメントシステムを搭載する最新フォルクスワーゲン3モデル

(小川 フミオ : モータージャーナリスト)

ジャンルで探す