「映えるビジネス文書」を作るフォント選びのコツ

「フォント」の基本を知っておくだけで、作成する資料に差がつくという(写真:Fast&Slow/PIXTA)
フォントには数えきれないほど種類があり、その大きさ、かたち、色……組合せは無限大です。何となくフォントを使い分けても、見やすくない、美しくない、なかなかしっくりこないことも多いでしょう。簡単に、読みやすくきれいな資料を作成できるように、フォントの基本と、定番の使用法・組み合わせを解説します。
『企業実務』の記事を再構成し、日本つかみ協会代表の森田翔さんが解説します。

読みやすい「明朝」、見やすい「ゴシック」

フォントとは、印刷物やデジタルメディアにおける文字のスタイルやデザインのことを指します。

フォントには莫大な種類があるため、どれを使うべきか判断が難しく、多くの人は標準設定のまま資料等を作成しています。

しかし、使用するフォントによっては、読み手に強烈なインパクトを与えたり、ストレスなく読むのを助けたりするなど、さまざまな効果があります。すなわち、目的にあったフォントを選び、その設定に工夫を加えることで、資料の理解を助けたり、説得力を持たせたりすることにつながります。

●フォントの種類と特徴

(1)和文フォント

和文(日本語)のフォントは、「明朝体」と「ゴシック体」に大別できます(図表1A)。明朝体は、横線に対して縦線が太く、横線の右端や曲がり角の右肩に三角形の山(ウロコ)がある書体です。ゴシック体は、横線と縦線の太さがほぼ同じで、ウロコが(ほとんど)ない書体です。

(出所:『企業実務6月号』より)

※外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください

選択基準は、「可読性(読みやすさ)」と「可視性(見やすさ)」です。

明朝体は可読性に優れ、本文などに適しています。線にメリハリがあるため繊細さや上品さを演出し、伝統的でフォーマルな印象を与えます。医療や法律関係など、高い信頼性が求められる業界に向いていると言えます。

ゴシック体は可視性に優れます。最初に注目を集めたいタイトルはゴシック体の出番です。線幅が太いので力強さを感じさせ、若々しくモダンでカジュアルな雰囲気を醸します。

長文のビジネス文書に最適な「游明朝」

*お薦めの和文フォント

お薦めの明朝体は「游明朝」です。文字の大きさがそろった漢字と、正統派な仮名の組合せが特徴です。一般的に、硬い内容の書類に使用されることが多く、長文のビジネス文書に最適です。

「ヒラギノ明朝」はクセがないため汎用性が高く、定番のフォントです。文字どうしの間隔が等しく、文字が綺麗に並びます。

お薦めのゴシック体は「メイリオ」です。スクリーン上で美しく表示できること、横組や英文との組合せに適していることをコンセプトに開発されました。1文字が大きく表現されており、まさに「明瞭」がその名の由来です。

加えて、レギュラーとボールド(太字)のコントラストが大きい点も魅力であり、迷ったらメイリオを選べば間違いないでしょう。

また、明朝体とゴシック体を組み合わせる場合、「游明朝」なら「游ゴシック」、「ヒラギノ明朝」なら「ヒラギノ角ゴシック」を使用するのが無難です。ごく普通なだけに使い勝手のよいフォントです。

(2)英文フォント

英文フォントは「セリフ体」と「サンセリフ体」の2つに大別できます(図表1B)。

(出所:『企業実務6月号』より)

「セリフ」は文字の線の端にある爪状の飾りを指し、セリフを有するのがセリフ体、セリフがないのがサンセリフ体です(「サン」は「〜がない」の意)。この飾りによって視線が誘導されるためセリフ体は可読性が高く、より単純であるサンセリフ体は可視性が高いと言えます。

「Garamond」はAppleやAdobeのロゴにも使用

*お薦めの英文フォント

セリフ体の代表格といえば、「Garamond」です。堂々としたたたずまいから、企業のロゴマークとして人気で、AppleやAdobeも使用しています。

イギリスのタイムズ紙が新聞用書体として開発した「Times New Roman」は、小さくても読みやすいように配慮されており、論文などでよく使用されています。

サンセリフ体では、「Segoe UI」が最もお薦めです。特筆すべき点は、和文と英文を併用してもフォントのサイズ差が小さく、メイリオとの相性が抜群です。和文をメイリオ、英文をSegoe UIに設定してスライドマスター(スライドを一括編集できるPowerPointの機能)に登録しておくと便利です。

また、デザイナーの支持を集めるサンセリフ体に「Helvetica」があります。シンプルながら説得力に富む力強さが持ち味で、出版・広告業界では必要不可欠なフォントとされています。なお、Helveticaを使用できない場合は、「Arial」が代替になります。

(3)その他の注意事項

ボールドは本文として紙面いっぱいに広げると、可読性が損なわれるため、多用は禁物です。

イタリック、ポップ体やデザイン書体など個性的なフォントも、長文での可読性が非常に低く、読者を混乱させます。アイキャッチ程度にとどめましょう。

なお、和文フォントの多くはアルファベットが等幅となり、見た目が崩れます。原則、英文は英文フォントを使用します。

英数字は「すべて半角」や「原則半角(1文字の場合のみ全角)」といった表記のルールを決めて、それを厳守しましょう。無秩序に全角と半角が混ざっていると、不ぞろいが目立ち、資料の完成度が低下します(図表2)。

(出所:『企業実務6月号』より)

ビジネス文書の色使いは「引き算」を意識して

●ビジネス文書の配色のルール

(1)使用する色は3つまで

色も情報の1つであり、不要な情報が多いと、それだけでわかりにくい資料になります。コツは引き算です(図表3)。

(出所:『企業実務6月号』より)

(2)色の割合と役割

3つの色は、ベースカラー:70%、メインカラー:25%、アクセントカラー:5%の割合で配分すると、全体としてのまとまりがよくなります。色数を増やしたい場合は、グラデーションを用いて濃淡をつけましょう。

ベースカラーとは、資料の背景色に使用する色です。特別な理由がなければ、白を使用します。

メインカラーとは、見出しや主張したい内容など、資料の要所に使用する色です。商品のイメージカラーやターゲット層が好みそうな色、コーポレートカラーが理想です。原色は目がチカチカするので避けてください。

アクセントカラーとは、特に注目すべき内容や、注意書きなどに使用する色です。少ない面積でも目立つ色を選びましょう。赤系の色やメインカラーの補色を使用すると、鮮やかになります。

「パワポ」と「ワード」で異なるフォントの使い方

●目的別のフォントの使い方

(1)PowerPoint(スライド、ポスター、チラシなど)

一般に、スライドなどは要点を端的に説明します。短めの文章が想定され、可読性よりも可視性が求められるため、ゴシック体のみで問題ありません。

①サイズ
目安としては、タイトル:24〜36 pt、本文:12〜20 pt、キャプション(画像や図版の説明文):8〜10 ptです。
通常、手元に配布する資料に比べ、プロジェクターで投影する資料では、サイズを大きくします。
文字サイズは「ジャンプ率」を高めて強弱をつけてください。
ジャンプ率とは、本文の文字サイズに対するタイトルや見出しの文字サイズの比率のことです。ジャンプ率が低いと落ち着いた印象に、高いと躍動感のある印象になります。ジャンプ率は、1.5〜2.0倍が目安です。
②文字組み
行間や字間、サイズを調整して、文字が読みやすくなるように整えます。行間が詰まり過ぎていると読みにくいため、文字サイズに対して1.2〜1.5倍程度の余白を取りましょう。
③その他注意点
スライドなどでは、1行の文字数が多すぎるのは好ましくありません。次の行を見失いやすくなるからです。スクリーンに映っている場合には、文章を目で追うだけで疲れてしまいます。特にキャプションなどは簡潔にしましょう。

(2)Word・Excel(報告書、契約書、請求書など)

WordやExcelでは、フォントを使い分ける工夫をすると好印象です。

見出しや強調したい部分、数値にはゴシック体を、本文には線が細くスッキリした明朝体を使うと見栄えがよくなります。

「MS Pゴシック」は、すべての文字が等幅の「MS ゴシック」に対し、文字幅が調整された(Pはプロポーショナルの意)ものです。通常のテキストでは前者を推奨しますが、文字による表組みやスペースを整えたい場合など、文字幅を均一にしたいときは後者を選択しましょう(図表4)。

(出所:『企業実務6月号』より)

最後に、用途別にお薦めのフォントと注意点をまとめます(図表5)。いつでも参照できるようにしておけば、資料作成時にフォントに関して迷うことはもうないでしょう。

(出所:『企業実務6月号』より)
森田 翔(もりた しょう) *公式サイトはこちら
日本つかみ協会代表、プレゼンテーション・プロデューサー。研修・コンサルティング事業を運営する。エーザイ株式会社の営業職として12年勤務した後、2020年に独立。2023年戸板女子短期大学非常勤講師。主催セミナーの開催数は年間300回、累計受講者数は3000人を超え、24か月連続で人気ランキングNo.1/600講座(ストアカ:プレゼン部門)を獲得。

(企業実務)

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