「しょせん他人事」描く炎上事件の"リアルな過程"

『しょせん他人ごとですから~とある弁護士の本音の仕事~』 中島健人

『しょせん他人ごとですから ~とある弁護士の本音の仕事~』(写真:番組公式Xより引用)

今夏は芸能人やスポーツ選手のSNS炎上騒動が続いた。そんな中で、夏ドラマ『しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~』(テレビ東京系)が注目を集めている。

本作は、 “しょせん他人事”をモットーにし、ネットトラブルの訴訟を得意とする弁護士・保田理(中島健人)が主人公。SNSの誹謗中傷や、悪意のあるデマなど、誰もが“しょせん他人事”だと軽い気持ちで見る炎上事件を、リアルかつ詳細に描き、安易な匿名発信や情報拡散に対する警鐘を鳴らしている。

そんなドラマの各回では、主婦やアーティスト、喫茶店の店主など、保田の元にさまざまな案件が舞い込む。

※以下、1話から5話のネタバレがあります。ご注意ください。

誹謗中傷を書き込まれた主婦ブロガー

第1話では、ネットで事実無根の誹謗中傷を書き込まれたうえ、個人情報までさらされて精神的に不安定になってしまった人気主婦ブロガーの桐原こずえ(志田未来)が保田を頼った。

保田が訴訟に向けた手続きをはじめると、情報開示請求から同じマンションに住む主婦による書き込みだと判明。内容証明郵便での謝罪と慰謝料請求を経て民事裁判に進んだ。ところが誹謗中傷の書き込みをした主婦は分割払いの慰謝料の支払いに合意はしたものの、やがて滞納するように。

そこで保田は裁判所による動産執行手続きに進む。執行官が自宅を訪れ、財産を差し押さえする大事になり、主婦がそれまで家族に隠していた誹謗中傷行為のすべてがバレてしまった。その顛末が2話にわたって詳細に映し出されている。

『しょせん他人ごとですから~とある弁護士の本音の仕事~』 中島健人

『しょせん他人ごとですから ~とある弁護士の本音の仕事~』(写真:番組公式サイトより引用)

第2話後半から第3話では、きょうだいアーティストユニットによる中学生時代のいじめ動画だとされる映像がネットで拡散されて炎上。しかし、この動画はまったくの別人による動画で事実無根だ。兄の双葉リオ(野村周平)は、誹謗中傷と徹底的に戦うことを決意。拡散した全員を特定しようとし、プロバイダーからの意見照会が拡散者の元に届く。

その拡散者の1人が、会社のPCから中傷コメントを付けてリポストしていた広告代理店の部長(小手伸也)。誹謗中傷した行為は、会社にも家族にもバレて職を失い、家庭での立場はなくなってしまった。

第4話では、保田がネットトラブルに深く関わるようになったある事件が物語のメインに。

店主の柏原麻帆(片平なぎさ)が切り盛りする喫茶店は、スイーツにプラスチック片が混入していたという画像とともに店の電話番号が拡散され、誹謗中傷を受けるように。

情報開示請求を進めていくと、その店のアルバイトがストレスとイライラからやっていたことが判明。店主は、大事になって言い出せなかったという彼の謝罪を受け入れる一方で、やったことへの責任を取らせた。

『しょせん他人ごとですから~とある弁護士の本音の仕事~』 中島健人

『しょせん他人ごとですから ~とある弁護士の本音の仕事~』(写真:番組公式サイトより引用)

その回では、バカッターと呼ばれる事例にも触れられている。ある大学生が居酒屋のアルバイト仲間とその場のノリで撮った、食材にキスする動画が流出し、炎上。アルバイト先から損害賠償を求められた。それだけに終わらず、デジタルタトゥーとして残ることで、就職活動などその後の彼の人生に大きく影響を及ぼすことを痛切に伝えた。

直近の第5話では、10年前に自身が起こしてしまった傷害事件に関するネット記事や、書き込みをネット検索結果から削除したい黒川大樹(浅利陽介)が保田を頼る。保田はネットメディアに記事を削除させるが、当時の事件被害者が加害者となる事故を起こしたことで、10年前の傷害事件も再び掘り起こされてしまった――。

加害者がそろって口にすること

これらのエピソードは、どれも実際に起こりえる話。それぞれのケースは異なるが、加害者たちに共通しているのは「悪気はなかった」「みんなやっている」「自分は悪くない」と口を揃え、加害者の立場で訴訟を起こされるなど想像もしていなかったことだ。

そんな彼らに対して、被害者たち全員が毅然とした態度を取る。謝罪は当然だが、反省しているからといって、それで終わることはありえない。裁判手続きの詳細な過程を含めて、人を傷つけることの重さと、それによって加害者たち自身が受けるそれぞれの人生の負の影響を生々しく映し出す。

さらに中島健人の主演や、20時からという放送時間、ポップで楽しく見られる映像演出からは、スマホが日常の欠かせないツールになっている若い世代に向けて、SNSやネットにおける安易な発信や情報拡散への警鐘を鳴らそうとする意思も感じられる。

そんな本作だが、気になることもある。

さまざまな炎上ケースにおける、誹謗中傷などの発端となった加害者たちのリアルな姿とその末路をまざまざと映し出すことには、社会的意義があるだろう。

同時に、誰にでもある一度の失言や失敗を掘り起こし、意図的に大事件に仕立て上げるネット社会の“炎上仕掛け人”たちの悪意と、その存在自体の醜悪さや害悪をこそ、もっと描いてほしいと感じるのだ。

メディアにも責任がある

本作に登場するような誹謗中傷を、最初に発信または拡散した加害者たちには、悪意の有無や、理由の如何にかかわらず、当然ながら責任が生じる。

しかし、炎上仕掛け人をはじめ、それをネットニュースやトップニュースとして取り上げるポータルサイト、世の中ごととして報じるマスメディアにも責任の一端があるのではないだろうか。彼らはみな炎上という過剰なバッシング社会システムの構成要員になってしまっているのだから。

また炎上仕掛け人の中には、彼らなりの正義感や承認欲求から動く人や、愉快犯的な人たちのほかに、インプレッションを増やして収益を得ることを目的にするインプレゾンビも少なくない。

直接の加害者だけではなく、結果的に加担しているバッシングの構成要員の醜悪さこそ、ドラマのなかで描いてほしいと望む視聴者は少なくないのではないだろうか。そこから無益な炎上で苦しむ人たちが少しでも減ることを、大多数の良識ある世間の人たちは願っていることだろう。そして、その期待感をこのドラマに見いだしている気がする。

本作は後半に差し掛かっている。前半の事例を受けて後半ではどのようなネットトラブルを掘り下げ、社会へメッセージを投げかけることで、世論に訴えていくのか。視聴者に気づきを与えながら、共感と話題性をより高めていくことが期待される、社会的注目度の高いドラマだ。

(武井 保之 : ライター)

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