就職や昇進だけじゃない「資格」の思わぬ副産物

「FP」の資格を得たことで、思いがけない副産物まで手にしたという(写真:mits/PIXTA)
資格は自分を"想像しなかったすごい世界"に連れて行ってくれる。そう語るのは、お笑い芸人「女と男」の市川義一さん。「カッパ捕獲許可証」に「ラグビーC級レフリー」「日曜大工士」など、実に47にもおよぶ資格を持つ市川さんですが、最初に取得した「FP」の資格には、思わぬ副産物があったといいます。
※本稿は市川さんの著書『「地味な資格」だけで人生は豊かになる: 資格で人生を激変させた「資格芸人」が教える処世術』から、一部を抜粋・編集してお届けします。

資格マスターへの第一歩となった「FP」の取得

僕は学生時代からコンビを結成して、芸人を目指していました。

でも当時の相方が芸人を辞めることになって、コンビを解散しました。相方が警察官になったことを機に、僕も金融関係の会社に就職します。

1年間サラリーマンをしていましたが、芸人になる夢を捨てきれなくて仕事を辞め、また芸人になる道に戻ってきました。新しいコンビ「男と女(※現在は「女と男」に改名)」を結成して活動を開始するも、なかなか売れない……。

だけど3年くらい経った頃、関西で相方だけがピンの仕事で売れ始めました。

相方のワダちゃんは週に5、6日は仕事が入っているのに、僕は週に1日だけとか、そんな日が続きました。そこで空いた時間をアルバイトで埋めるのもいいけど、それより資格を取ろうと考えました。

きっかけは、たまたまラジオ番組でとあるファイナンシャル・プランナーの方と一緒になったことです。その方は元芸人。芸人を辞めてから営業の世界に飛び込んでトップセールスになるなどし、活躍している方でした。

「市川くん、大学で経済学部出たんなら、お金の芸人やったら面白いんちゃう?」。その人にこう言われて「なるほど! その手があったか」と思いました。「ほんなら僕も、資格取ります!」となったわけです。

もともと、お金には興味がありました。ファイナンシャル・プランナーの資格(僕が取得したのは、FP技能検定)は、生活をするうえで必要になってくるお金全般の知識を広く学べる資格です。

具体的には、「ライフプランニングと資金計画」「リスク管理」「金融資産運用」「タックスプランニング」「不動産」「相続・事業承継」の6つのカテゴリーに分かれていて、それぞれの分野を体系的に学びます。どれも「知らないと損をする」知識ばかりです。

この資格を取れば、ファイナンシャル・プランナー(以下、「FP」とも記載)になって人にアドバイスできるようになることはもちろんですが、何より自分自身がお金に強くなれます。

当時はまだそこまでメジャーじゃなかったこの資格を取ることを決め、専門スクールに通い始めました。この資格こそ僕が初めて取った資格で、その後、資格マスターになっていく道を切り拓いたスタートでもあります。

「宵越しの銭は持たない」のが芸人の世界

時は今から15年ほども前――当時の芸人の金銭感覚って、ハッキリいって、かなりテキトーでした。入ったお金は遊びにパァーッと使っちゃうし、お金がなくなったら先輩に奢ってもらって食って飲んで、なんとかなるっていう感じです。

周りの芸人友だちも貯金なんてしないし、「宵越しの銭は持たない」なんて雰囲気。だけど吉本所属の芸人はほとんどが個人事業主なので、お金の出入りは自分で管理しないといけませんでした。

そこで、てんやわんやになるのは毎年、確定申告の時期です。個人事業主は毎年、3月に昨年1年間の収入から必要経費を引いて所得を算出し、税務署に申告しなければいけません。ただし、収入が一定以下の低所得では申告が不要になるケースもあります。

そもそも仕事が少なくて収入が雀の涙ほどしかない芸人も多い中で、「確定申告って何? やったことない」っていう人もいました。

けれども、売れ始めると急に収入が増えるケースもあります。確定申告は収入に応じた税額を決めるために必要なので、申告をしなければ悪意がなくても脱税と見なされてしまう場合があります。

一方で会社からもらう報酬は所得にかかる税金が引かれて振り込まれるので、低所得の場合は確定申告をすることで、年間の収入に対して払い過ぎた税金があれば還付されるというメリットもあります。

でも、この仕組み自体を知らない人がほとんどでした。会社勤めの経験をせずにお笑いの世界に入ってくる人もいるので、仕方ないといえば仕方ないのかもしれません。

「確定申告」で芸人仲間から引っ張りだこに

そこで僕は、FP技能検定の資格を活かして、そんな友だちに給与明細の見方や、年明けに会社から送付される支払調書の意味を教えてあげていました。そのうちに評判が広がって(?)周りに頼られるようになっていきます。

「市川、ごめん。支払調書とかいうのが届いたけど、これって何?」。2月になると、芸人友だちや先輩からこんな電話がひっきりなしにかかってくるようになりました。頼ってもらえると人間、悪い気はしません。むしろ嬉しい。

最初は1人ひとり電話で教えていましたが、数が多くなると追いつかなくなってきました。そこで会議室を貸し切って、30人くらい集めて教えたこともあります。

給与明細や支払調書のサンプルを見せながら、みんなの前で、

「ここに書いてあるのがあなたの年間の収入ってことですよ」

「ここから経費を引いたのを"所得"といいます」

「収入が〇〇○万円までなら税率はこのくらいですよ」

とか、そんな感じでお金の基本的な知識を教えていたのです。

FPは、個人の収入に応じたライフプランを組み立てるにあたって、お金のアドバイスをしてあげられる専門家です。

その延長で「今度、結婚しようと思ってるんやけど、このくらいの貯金でマンションを買えるかな?」というような、人生のイベントに際したお金の相談を受けることも増えていきました。

冠番組をいくつも持つあの人気コンビや、M-1グランプリで優勝して一躍有名になったあのコンビの収入事情が、僕のもとにわさわさと集まってきます……。

お金の資格があることで獲得できた「厚い信頼」

そこで気づきました。

「地味な資格」だけで人生は豊かになる: 資格で人生を激変させた「資格芸人」が教える処世術

普通、自分の収入って人にはあんまり言いたくないですよね?

でも、お金の資格を持っている人には割と簡単に言っちゃいませんか?

お金の資格は他の資格にも増して人から信用してもらえるようにも思ったんです。

そんなわけで最終的には、当時、関西で活動していた吉本芸人の貯金額はほぼ知っていました。

もちろん、そうやって知った情報を口外はしませんが、

「ニイさん、こんなにもらってるんや!」

「あれだけ売れたら、年収はこのくらいになるのか」

と、もう1つの意味で、僕はお金の事情にさらに詳しくなっていきました(笑)。

【FP技能検定3級】
難易度   ★★★★
習得時間  ★★★(3カ月)
人脈広がり ★★★★★
費用    ★★★★(試験代8000円(学科と実技)、専門学校代2万円)
収入アップ ★★★★★
試験方法  試験会場にて受験

(市川 義一 : お笑い芸人)

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