ファーウェイ「新型高級EV」ベンツ・BMWに挑戦状

ファーウェイは北京汽車と共同開発した「享界 S9」をベンツやBMWの対抗馬と位置づける(写真はファーウェイが配信した発表イベントの動画より)

中国の通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)は8月6日、国有自動車大手の北京汽車集団と共同開発した新型高級EV(電気自動車)「享界(ステラト) S9」を発売した。

ファーウェイは、同社のスマートカー技術を採用する複数の自動車メーカーと「鴻蒙智行(HIMA)」と呼ぶアライアンスを組み、ブランド形成やマーケティングを主導している。享界S9は鴻蒙智行が投入する初の(政府機関や大企業向けの)エグゼクティブカーであり、メルセデス・ベンツの「Sクラス」やBMWの「7シリーズ」などを競合車種に想定している。

その希望価格は上級グレードが44万9800元(約920万円)から、標準グレードが39万9800元(約818万円)からに設定された。これは5月末に販売予約を開始した時点で示された45万~55万元(約920万円~1125万円)より、5万~10万元(約102万~205万円)も安い水準だ。

「エンドツーエンド」の自動運転

享界S9の売り物の1つは、ファーウェイが開発したインテリジェント運転支援システムの最新バージョン「ADS 3.0」を初搭載したことだ。

鴻蒙智行の説明によれば、享界S9は現時点の量産車の中で最高水準の精度を持つLiDAR(ライダー、レーザー光を用いた3次元センサー)を搭載。出発地から目的地までの(切れ目のない)自動運転が可能なほか、自動駐車や遠隔操作での移動もこなす。

「ADS 3.0は(センサーやカメラからの情報を瞬時に演算してハンドル・アクセル・ブレーキなどを動かす)『エンドツーエンド』のソリューションを採用し、公道上の複雑な状況に素早く、正確に対応できる」

ファーウェイの自動車関連事業のトップを務める余承東氏は、享界S9の発表イベントでそう胸を張った。同社は今後、鴻蒙智行で協業する他メーカーの車種にもADS 3.0を搭載する計画だ。

「中国のエグゼクティブカー市場では(外資系メーカーが圧倒的に強く)、2023年の中国メーカーのシェアはわずか8.3%だった。見方を変えれば、中国メーカーにとっては巨大な潜在市場だ」

北京汽車集団の董事長(会長に相当)を務める張建勇氏は、享界S9の発表イベントでそう述べ、外資系メーカーからの市場シェア奪取に意欲を見せた。また、北京汽車集団の立場から見たファーウェイとの協業関係について、張氏は次のように語った。

「ファーウェイには複数のパートナーがいるが、わが社と彼らのパートナーシップは緊密だ。自動車メーカーの本分は、自社独自のイノベーションと社外とのオープンな協業を通じて、消費者によりよいプロダクトを提供することにある。独自開発の殻に閉じこもる必要はない」

鴻蒙智行の販売実績は、現時点ではファーウェイと賽力斯集団が共同で立ち上げた「問界」ブランドが大部分を占める(写真は鴻蒙智行のウェブサイトより)

張氏の発言の背景には、自社のクルマに搭載する自動運転システムを独自に開発すべきか、それとも(ファーウェイなどの)社外のプロバイダーに任せるべきかという、中国の自動車業界内で続く論争がある。

鴻蒙智行の評価はこれから

例えば、国有自動車最大手の上海汽車集団の董事長を務める陳虹氏は、自動運転システムの独自開発にこだわる立場を取る。陳氏はかつて公の場で次のように発言した。

「自動運転はクルマの魂と言える技術だ。自らの手中にしっかり握らなければ、自動車メーカーは“ドンガラ”を作るだけの存在になってしまう」

一方、鴻蒙智行に参加した自動車メーカーは、自動運転システムの開発を事実上ファーウェイに委ねた。その決断が正しかったのかどうか、評価するのはまだ時期尚早だろう。

鴻蒙智行は2024年上半期(1~6月)に合計19万4000台を販売した。その大部分は、ファーウェイと民営中堅メーカーの賽力斯集団(セレス)が共同で立ち上げた「問界(AITO)」ブランドが占めている。

ファーウェイは2023年11月、国有中堅メーカーの奇瑞汽車と共同開発した高級EV「智界(ラグシード) S7」を鴻蒙智行の第2弾のブランドとして投入したが、目下の販売実績は月間3000台前後にとどまっている。

(財新記者:劉沛林)
※原文の配置は8月6日

(財新 Biz&Tech)

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