東海道新幹線ホーム「黄色い無人店舗」売れるのか

東京駅 東海道新幹線 東京ばな奈

東京駅の東海道新幹線ホームにある無人店舗「TOKYO BANANA express(東京ばな奈エクスプレス)」(記者撮影)

人手不足解消への一手なのか――。

東京駅の東海道新幹線16・17番線ホーム9号車付近で「TOKYO BANANA express(東京ばな奈エクスプレス)」という無人店舗が営業している。

東京ばな奈(正式名称は『東京ばな奈「見ぃつけたっ」』)とはバナナカスタードをスポンジ生地で包んだバナナ型の菓子で、東京駅で人気のお土産である。バナナを思わせる黄色い店舗は新幹線ホームの中央にあたり、ほかのホームからでも目立つ存在だ。お盆明けのある平日の昼下がり、外国人観光客の一行がもの珍しそうに店舗の写真を撮影していた。

バーコード読み取りも不要

コロナ禍後、出張や旅行需要が回復基調にある。駅構内の売店では商品を買い求める客が列をなす。そんななか、JR東海グループのJR東海リテイリング・プラス(JRプラス)が4月18日にこの店舗をオープンした。販売アイテム数を絞り「見ぃつけたっ」のほか、「シュガーバターサンドの木」と『東京ばな奈「見ぃつけたっ」 ブリュレタルト』、計3種類の商品が売られている。

購入手順はいたって簡単。商品を手に取り、レジに行くとディスプレーに商品名や価格などの情報が表示されており、内容を確認して決済するだけだ。支払い方法はバーコード決済、交通系電子マネー、クレジットカードで、現金での決済はできない。お土産用に必須の紙袋はレジ横に置いてある。

コンビニやスーパーなどで採用されているセルフレジよりも一歩進んでおり、手軽かつ短時間で会計が終わる。セルフレジでは会計時に商品に付けられたバーコードをレジの機械に読み取らせる必要があるが、この店舗ではその手間がない。

東京駅 無人店舗 レジ

レジでは手に取った商品が自動でディスプレーに表示される(記者撮影)

その理由は、店舗上部に取り付けられた多数のカメラや棚に設置されたセンサーが、客が手に取った商品を判別しているからだ。商品を手に取ったが、買うのをやめて棚に戻すといった動きもカメラやセンサーがきちんと捕捉する。

商品支払いまでのプロセスがあまりに簡単なので戸惑う客もいるのではないか。こんな質問に対し、JRプラスの担当者は、「無人店舗のため、なかなかリサーチしづらい」と前置きしたうえで、「初めてご来店されるお客様が多いと思われる連休時期でも、とくにトラブルなくご利用いただいていた」と説明する。

商品アイテム数を売れ筋に絞ったほか、音声案内や多言語表示対応、使いやすいレジも利用しやすい一因だという。お盆の時期の販売状況については「数字で開示できるものはない」とのことだったが、「非常に多くのお客様にご利用いただいた」という。

東京駅 無人店舗 商品棚とディスプレー

店舗にはディスプレーで利用方法を表示。商品アイテム数は絞っている(記者撮影)

「ホーム上」での展開に意味

この無人店舗販売システムを展開するのはJR東日本グループのタッチ・トゥ・ゴー(TTG)である。技術開発を手掛けたシステム開発コンサルのサインポストとJR東日本が合弁で2019年に同社を設立し、2020年3月に開業した高輪ゲートウェイ駅の駅ナカコンビニでこの無人決済システムが採用された。

JR東日本のコンビニ「NewDays(ニューデイズ)」に先んじてファミリーマートがこの技術にいち早く関心を寄せた。2020年11月にファミマとTTGが業務提携を行い、翌2021年3月に都内で第1号店を出店した。また、同年8月には西武鉄道とファミマが共同で展開する西武線の駅ナカコンビニ「トモニー」にも無人決済システムを導入した。

TTGの無人決済システムはコンビニ業界以外からも広く注目を集め、ANAグループのANA FESTA(エーエヌエーフェスタ)が羽田空港や中部国際空港で展開する空港ギフトショップや、化粧品会社のオルビスの直営無人販売店舗などにも採用されている。金融機関店舗での導入としては初の事例として、城北信用金庫の王子北本通り出張所にも導入されたし、出遅れていたニューデイズでも2024年6月、このシステムを初めて導入した店舗が飯田橋東口にオープンした。

JR東海との関係では2023年6月、焼津駅にTTGのシステムを採用したファミマがオープンしている。今回は在来線ではなく東海道新幹線のホーム上である。JR東海との連携にどのような意味があるのか。TTGの阿久津智紀社長にこんな質問を投げかけると「それはちょっと……」と苦笑いした。JR東日本とJR東海の関係に関する質問は現場でビジネスをする人たちには的外れだったようだ。

阿久津社長によれば、今回の取り組みの意義は、ホーム上での展開という点にある。これまでは店舗内にカメラが設置されていたが、今回はホーム上といういわば「屋外」である。東海道新幹線のホームという人の往来が激しい場所でカメラが購入する人の動きを捕捉するのはシステムにとっても難易度が高い。

東京駅無人店舗 カメラ

店舗の上部に取り付けられた多数のカメラ。客が手に取った商品を読み取る(記者撮影)

しかも屋外に設置していることで、雨や風の影響も受けやすい。今回はホームに屋根があるが、ここで得られた知見は将来、完全な屋外での無人販売に活用される可能性もある。

車内での商品販売にも生かせる?

今回東海道新幹線のホームに出現した東京ばな奈の黄色い店舗は、急いで新幹線に乗りたい人が素早く商品を購入できるという点で便利な存在だが、それ以上に、バーコード読み取りの必要すらないというユニークな購買体験を実感してもらいたいという狙いもある。確かに鉄道ホーム上での無人店舗で土産を買えば、その経験も「土産」話となりそうだ。

今回の店舗は「無人決済のトライアル店舗」という位置付け。今後については利用状況を見ながら、商品アイテム数の拡大や設置場所について検討していきたいというが、無人化・省力化というメリットを生かせば、活用できる場所はいくらでもある。

たとえば、ホーム上にシャッターが下りたままの店舗は多数あるし、さらにいえば東海道新幹線の車内ワゴン販売の廃止により、車内で商品を買いたいというニーズも存在する。今回の「トライアル」で得られた知見が今後どのように鉄道の小売りビジネスで生かされるか、鉄道関係者の多くが注視している。

(大坂 直樹 : 東洋経済 記者)

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