北陸新幹線「米原ルート」 所要時間を計算したら「小浜ルート」よりも速かった!

詳細ルートへの疑念

北陸新幹線(画像:写真AC)

北陸新幹線(画像:写真AC)

 北陸新幹線小浜・京都ルートの詳細なルートが発表された。京都市の西側から入り、嵐山付近で三つのルート案に分かれる形で、急カーブが続くその案を見た人々はX(旧ツイッター)で「こんなルートならプラレールでやれよ」といった声が上がるほどだった。

 京都駅前後の長い減速区間により、当初の金沢~新大阪間は1時間21分との前提も崩れることは必至だ。しかも、特に新大阪駅の工期が長く、新大阪延伸には最低でも25年の歳月と3.9兆円もの費用がかかるという。さらに今後の物価上昇により5兆円越えの可能性もあるとのことだ。

 この状況を考えると、以前当媒体で「混迷する「北陸新幹線ルート」 あなたは小浜派?米原派? 鉄道ジャーナリストの私は、どう見ても「小浜ルート」一択です」(2024年7月28日配信)という記事を書いた筆者(北村幸太郎)も、いくらリダンダンシー(多重性)のためとはいえ、小浜・京都ルート推進に疑念を抱かざるを得ない。

 米原ルートとの差額約3兆円を使って、与党整備委員会の西田昌司議員が推す山陰新幹線や、本土で唯一新幹線がない四国に新幹線を作った方が国益になるのではないか。工期もあまりに長すぎる。石川県知事も「その頃まで生きているかなぁ」と会見で漏らしているほどだ。

 さらに、以前の記事に添付した米原ルートの想定ダイヤをより詳しく検討した結果、国が出した悪条件の試算では「金沢~新大阪間1時間41分」となっているが、小浜ルートよりも1分速い「金沢~新大阪間最速1時間20分」が明らかになった。

 また、金沢~名古屋間については、米原駅での乗り換えを考慮しても最速1時間14分になるとの試算が出た。料金面でも、国は小浜ルートより2000円高くなるとの試算を2016年に出しているが、これも現行の制度を無視した

「かなり盛った数字」

であることがわかった。料金面については別の機会に詳しく述べるが、今回はまず所要時間の面で米原ルートのメリットをお伝えしたい。

米原ルート否定論は「進歩の否定」

2024年7月28日配信の北村氏の記事「混迷する「北陸新幹線ルート」 あなたは小浜派?米原派? 鉄道ジャーナリストの私は、どう見ても「小浜ルート」一択です」

2024年7月28日配信の北村氏の記事「混迷する「北陸新幹線ルート」 あなたは小浜派?米原派? 鉄道ジャーナリストの私は、どう見ても「小浜ルート」一択です」

 米原ルートのダイヤ試算にあたって、米原ルート否定論への反論といくつかの前提条件を示したい。米原ルート否定論の多くは設備面に関する問題が指摘されている。以前の記事への反響として、Xでいくつかの否定論を目にしたが、主に次の5点が挙げられていた。

1.運行管理システムが分岐・合流に対応していないシステムである(これは国交省もいっていた)
2.車両の規格が合わない
3.東海道新幹線は16両しか受け入れない
4.線路容量の観点で無理
5.JR西日本は収益が減って嫌がるはずだ

というものであるが、特に「1」と「2」については「進歩の否定のオンパレード」といわざるを得ない。

 前回の記事では運行管理システムについて

「どの道、佐賀県の西九州新幹線や岡山から四国新幹線や伯備新幹線を分岐させるときに問題になるほか、国交省自ら新大阪駅の山陽新幹線地下ホーム増設の際に北陸新幹線との直通も検討するとしているのだから、今解決しないなら問題の先送りをしているだけだ」

と述べたがそれだけではない。新幹線システムの海外輸出の観点でもいいことではないはずだ。

 欧州などの海外勢では新幹線と在来線の直通や分岐・合流、デルタ線などが複雑に絡む運行管理をしている。ということは当然、それに合わせたシステムが普通であり、JR東海のように実質、

「単一の路線にしか合わない運行管理システム」

が、欧州のそれに勝てる訳がない。だから日本は新幹線発祥の国なのに、新幹線輸出で海外勢に負けていることの方が多いのではないか。

 ならば、この米原ルート整備は海外にも受け入れられる新幹線システム開発のチャンスと捉えるべきではないか。このシステム改修に国は本腰を入れてJR東海を全面的に支援していくべきだ。

新幹線輸出のレパートリーが増やせる

「2」の車両面でも同じことがいえる。

 JR東海はN700Sをどんな長さの編成にも4両単位で自由に設計変更できる仕様で開発したとして、8両編成での運転試験を披露している。編成の長さも大事だが、さまざまな国へ展開するなら寒冷地にも対応できる仕様も開発すべきだ。

 北陸新幹線米原ルート実現のためには、N700系列で統一されている東海道新幹線内の車両性能に合わせるため、当然、新大阪乗り入れ車両は北陸用12両のN700系にする必要がある。北陸用だからN700H系となるだろうか。これも寒冷地国へ輸出できる車両の開発のチャンスといえるはずだ。

 また、糸魚川駅付近にある50Hz送電区間にも対応できる形にすれば、新大阪~長野間直通で最速2時間28分にすることもできる。車両側で対応が難しければ、今からでも変電所にJR東海の富士川以東の変電所のように、50/60Hzの変換装置を付けられないだろうか。将来の羽越新幹線直通(上越妙高~長岡・新潟間)も見据えて検討いただきたい。

「3」の16両しか受け入れないということもあり得ない。車両を東海道新幹線のぞみと共通運用にするならそうかもしれないが、そんな運用を組むことはまずあり得ないだろう。

1.6兆円で解決可能

新大阪~鳥飼間複々線イメージ(画像:北村幸太郎)

新大阪~鳥飼間複々線イメージ(画像:北村幸太郎)

「4」の線路容量の観点についても、そりゃあJR東海も現行設備のままじゃ受け入れないだろう。

 敦賀~米原間にばかりフォーカスした議論だからそういう話になる。東海道新幹線で最も線路容量を食っているのは新大阪駅と新大阪駅の京都方10kmのところにある鳥飼車両基地までの間である。

 ここの区間だけ複々線化し、鳥飼車両基地分岐部と複々線合流点の配線を工夫することにより、同区間の回送列車・新大阪折返の列車と山陽新幹線直通列車との新大阪駅での平面交差と線路容量の圧迫を完全になくすことが可能となる。

 この建設費は小田急の代々木上原~登戸間複々線化のときの費用が3200億円であったことを参考に、小浜ルート並みの物価上昇(2.1兆円→3.9兆円)を考慮しても6000億円もあればできるだろう。これと敦賀~米原間建設費1兆円を足しても

「1.6兆円」

と、小浜ルートの半額以下である。

半額以下で得られる投資効果

北陸新幹線開業後の米原駅配線図予想(画像:北村幸太郎)

 ここまですれば北陸新幹線列車は1時間最大5本の乗り入れが可能となる。

 また、米原駅部についてもどんな運用でもできるような配線にしてダイヤ設定の自由度を高めてあげたらいい。JR東海も多少は考えてくれるだろう。

 リニア開通まで待てばそんな投資は要らないとか、京都駅のホーム増設や、京都側からも鳥飼基地へ入れる線路の増設などで京都発着にすればいいとかの声も筆者に寄せられているが、JR東海の丹羽社長は

「リニア建設は(名古屋を境とした)東西同時施工不可・名古屋開業も2034年」

と発言をしており、全線開業は早くて2044年との公算が大きい。米原ルートで開通ならそれよりも早いだろうし、リニア開通後もダイヤの安定性向上とダイヤ設定の自由度向上を鑑みれば、新大阪~鳥飼間複々線化は必要な投資といえよう。

 極論、小浜ルートの半額以下になるなら何千億円でもかけていい。JR東海を納得させるためならそこまでするのが筋である。

あとは「5」のJR西日本は収益が減って嫌がるはずだという点については、次回の料金面の記事で触れたいと思う。

金沢~新大阪1時間20分の可能性

 次に、今回のダイヤ試算の前提条件についてお示しする。

 国が2016年に想定した米原ルートの所要時間1時間41分はかなりの悪条件での想定だ。これは東海道新幹線への乗り入れはせず、米原駅での乗り換え時間15分を前提としたダイヤである。

 これに対し筆者は前述の運行管理システム改修により新大阪直通を前提としたほか、米原駅には高崎駅付近の北陸新幹線と上越新幹線の分岐部にも採用されている160km運転でも通過可能な分岐器を、駅の名古屋方に通過線から北陸新幹線本線に入れる形で設置し、速達列車については160kmで米原駅を通過するものとした。

 また、金沢~福井間は現状、最速達列車でも24分となっているが、筆者が次の条件で試算してみると……

1.255~260km運転(秒速70m)で試算。
2.金沢~福井間75.9kmを秒速70mで割って所要時間を出す。
3.停車駅の前後1.5kmずつは105~110km運転(秒速30m)になるものとして時間差1分を加算。
4.加速・減速分の時間差3分を加算。

その結果22分と出た。この2分の差はなんなのか。24分で走る場合の速度を推定したところ、230キロで走らせているようだ。

 実際にユーチューバーの方の側面展望と衛星利用測位システム(GPS)による速度計を付けた動画で最速達列車の運転を見てみると、金沢~福井間はほぼ全区間を230km前後で走行。これで23分30秒となっており、発車時の秒数が30秒だったので時刻表上は24分となっていた、ということのようである。ほかのユーチューバーによる列車の編成長300mを駅通過時の通過秒数で割った計算でも230kmであったので、230kmでほぼ誤差はないといえるだろう。

 このようにして敦賀での特急との接続などの余裕時分を考慮して2分余裕を持たせているのだろうが、新大阪まで1本となればこの余裕時分は不要となる。

 なお、筆者試算ではその代わりに東海道新幹線への合流時の余裕時分として、福井~京都間において、同駅間無停車の列車の所要時間42分に対し、福井~米原間で2分の余裕時分を足して44分としている。この余裕時分を含めた上で、金沢~新大阪間、新大阪方面は最速1時間22分、金沢方面は最速1時間20分としている。

金沢~名古屋間は1時間14分か

 ただし名古屋方面については直通ではなく乗り換えとした。直通でも線路容量上は問題ないものの、名古屋駅の番線運用上困難であるという試算結果となったからだ。

 リニア開通後、東海道新幹線の本数が減少するまでは米原乗り換えとすることはやむを得ないと考えられる。新大阪までの直通OKをもらう代わりに名古屋直通を諦めるのが落とし所としてはいいのではないか。

 また、米原でスイッチバックするにしてもそれなりに停車時間を食うため、直通でも乗り換えでも大きな時間差にはならない。名古屋直通を諦める代わりに、現在、京都で「のぞみ」の待ち合わせをしている「岡山ひかり」を米原で「のぞみ」通過待ちに変更することにより、名古屋~新大阪間の所要時間を変えずに米原停車を増やして、富山~名古屋間の乗車・乗継チャンスを増やす方が現実的ではないだろうか。

 なお、「岡山ひかり」活用の場合の乗継時間は7分となり、これにより金沢~名古屋間は1時間14分との試算結果となった。

新大阪駅の在線時間節約

 新大阪駅発着容量の圧迫を防ぐため、在線時間を食う折返列車を少なくする必要がある。そこで1時間最大5本の直通の内1本を博多まで、2本を岡山まで乗り入れとし、新大阪折返は毎時2本までとして折返を分散させることとした。岡山行きが多ければ新神戸や姫路など、関西の広範囲から北陸へ乗り換えなしになるほか、四国からも北陸に乗り換え1回で行けるチャンスが増える。

 このほか、筆者のXにはこんな案も寄せられていた。

1.九州新幹線の新大阪折返列車との直通運転にする案
2.8両編成での運行とした上で、山陽新幹線区間は九州新幹線列車と併結して16両編成で運転する案

 熊本や鹿児島までの直通は長すぎるが、山陽新幹線内完結の列車や、同じく折返ホームの問題が発生する、将来整備される四国新幹線との直通ならいいかもしれない。実際、四国新幹線整備促進期成会から国への要望内容のなかには、新大阪駅容量増加事業の際に、四国新幹線の列車が入ることを前提に設計してほしい旨の要望も入っていることから、四国にも同じ悩みがあり理解を得られやすいだろう。

 四国新幹線と直通しても

1.松山~新大阪間:1時間38分(四国新幹線整備促進期成会試算)
2.新大阪停車時間:2分
3.新大阪~富山間:1時間45分(新高岡停車タイプ)

とすれば合計3時間25分と長すぎない。

敦賀駅の待避駅化準備設備は使える

北陸新幹線全線開業後の敦賀駅配線図予想(画像:北村幸太郎)

北陸新幹線全線開業後の敦賀駅配線図予想(画像:北村幸太郎)

 敦賀駅は金沢方面については待避新設の準備工事がなされている。ただ片方向だけ待避の準備があるのがどうも不思議だ。九州や北海道のように上り線だけ待避の駅と下り線だけ待避の駅が隣り合っている構造はあるが、小浜に大阪方面の待避線を作るのかというとそういう話でもない。

 グーグルマップでよく見ると大阪方面の本線に合流できるポイントを付けられるように高架橋ができているようだ。

 また、米原ルートだと越前たけふ駅の待避設備は位置的に使い勝手が悪い。おそらく小浜ルートだったらちょうどよい位置だったのかもしれない。代わりに待避設備の増設準備がされている敦賀駅と、加賀温泉駅での待避を上下線ともメインとすると、キレイな15分サイクルに整ったダイヤができる。敦賀駅の構造は米原ルートに変更されてもいいように考えられていたのかもしれない。

 最後に、長野経由東京発着の列車の時刻については、今後JR東日本管内での大きな変化(山形新幹線福島駅平面交差解消と北海道新幹線札幌開業)により白紙ダイヤ改正が想定されるため、現状のダイヤに合わせず、現行の東海道新幹線のダイヤパターンに合わせて作成した、本稿の北陸新幹線15分サイクルのダイヤパターンに合わせる方を優先した。

北陸新幹線米原ルートダイヤ概要

北陸新幹線米原ルート新大阪付近複々線化案時刻表上り15分サイクル版(画像:北村幸太郎)

北陸新幹線米原ルート新大阪付近複々線化案時刻表上り15分サイクル版(画像:北村幸太郎)

 こうしてできたのがこの時刻表である。1時間最大8本の運行で、内5本が新大阪直通、3本が米原駅新大阪方に設置の車両基地(国の米原ルート案に示されていた)で折返とした。

 現在、富山~敦賀間のみ運行の列車名は、各駅停車タイプ、速達タイプ、また、接続の特急が「サンダーバード」か「しらさぎ」かを問わず一律「つるぎ」となっているが、わかりやすくするために次の分類に改めた。

1.新大阪直通速達列車「つるぎ」(1時間最大3本)
2.新大阪直通各駅停車「はくさん」(1時間最大2本・一部列車は越前たけふ通過)
3.富山~米原間完結「しらさぎ」(1時間最大2本・うち半数は速達タイプ)
4.東京発着の北陸エリア各駅停車「はくたか」(1時間に1本・リダンダンシーの観点から運行区間を米原へ延長)

このような列車体系で、米原~富山間は速達列車と各駅停車が1時間最大4本ずつ交互に入る形となり、速達列車は福井と金沢で各駅停車に7~8分待ちで連絡となる。各駅停車1時間4本の内、新大阪直通は2本にとどまるが、残りの2本についても米原で「こだま」または「ひかり」に同一ホームで2~5分接続となったので、有効本数ベースでは新大阪~敦賀間で1時間最大4本である。

 速達列車も1時間4本中、新大阪直通は3本だが、米原折返の「速達しらさぎ」は、新たに米原停車とした「岡山ひかり」に同一ホームで6分接続とし、新大阪~福井から先の各駅の間も有効本数ベースでは1時間最大4本を確保できた。

 名古屋方面についても充実の本数だ。メインは「速達しらさぎ」と「岡山ひかり」の7分接続による利用となるだろうが、このほか「はくたか」「はくさん」「しらさぎ(各駅停車タイプ)」と「こだま」「ひかり」との乗継(乗り換え時間4~19分・平均10分・乗り換え時間3分以下のケースは除外)も合わせると、金沢~名古屋間の有効本数は1時間最大3本とこちらも充実の乗車チャンスだ。

 既存の米原駅利用者にも朗報だ。現状、新大阪~米原間を利用できる列車は1時間に2本、23~37分間隔だが、停車本数の増加により1時間最大5本、利用できるようになる。運転間隔も米原駅では7~18分間隔、新大阪駅では6~18分間隔、いずれも平均12分おきで利用できるようになるだろう。

 新大阪~鳥飼間の線増と米原駅の配線の工夫だけで、これだけの運行本数と、接続と追い抜きを考慮した実質的に使える本数である「有効本数」を確保できれば、小浜ルートよりはるかに安くて十分なサービスといえるのではないだろうか。

国は「強引グ・マイウェイ」

北陸新幹線米原ルート新大阪付近複々線化案時刻表下り15分サイクル版(画像:北村幸太郎)

北陸新幹線米原ルート新大阪付近複々線化案時刻表下り15分サイクル版(画像:北村幸太郎)

 いかがだったであろうか。

 米原ルートは所要時間の面でも本数の面でも小浜ルートと比べて遜色なく、新大阪駅の工期は25年からゼロにでき、費用は半額以下になって浮いた予算で四国新幹線など他の新幹線の実現可能性も高まる。

 そして米原ルートの課題を乗り越えられればJRの新幹線輸出も海外勢に勝てる可能性を増やせる。並行在来線問題についても新快速を走らせているあの区間をJR西日本が手放すとも思えない。何か悪いことがひとつでもあるだろうか。

 にもかかわらず、国は小浜ルートが優位かのように他のルートの数字は水増しして、さらにルート見直しの試算はせず、小浜ルートをまさに「夢の超特急の名に恥じないスピード」で強引に進めようとしている。こういうのを

「強引グ・マイウェイ」

というのではないか。次回、料金面と運行事業形態面での米原ルートの検討についてもご期待いただきたい。

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