英国で「税金未納者」をグッと減らした強力な言葉

集結するイメージ

人は「みんながやっているなら自分もやろうかな」と思い、行動にうつします(画像:サイクロン/PIXTA)
「努力が続かない自分」に嫌気がさすことはありませんか。
でも実は努力は、行動経済学や心理学の観点から捉え直すことで、才能や性格に関係なく、仕組み化することができるんです。
根性論ではなく科学的に努力を継続させる方法を3回にわたって紹介します。
(本稿は『努力は仕組み化できる 自分も・他人も「やるべきこと」が無理なく続く努力の行動経済学』から一部を抜粋・再構成したものです)

「他人の力」を借りるナッジ

1人で努力を続けるのは難しいことです。友人や仲間と一緒だったから頑張れた、そんな経験がある人も多いのではないでしょうか。

しかしもしかしたら、1人でやっていても同じくらいの結果は残せたかもしれません。または、1人でやっていたら、もっとすごい結果を出せていたかもしれません。「みんなで頑張る」ことは本当に効果的なのでしょうか?

前回の記事で、人間の意思決定や行動の特徴を利用しながら、望ましい選択に誘導する「ナッジ」を紹介しました。ナッジは日本政府や自治体でも注目されており、様々な取り組みがなされていますが、海外政府でも同様に、いえ日本以上に利用が進んでいます。

イギリスには、政府のナッジユニットとしてスタートしたBehavioural Insights Team(BIT)という組織があります。BITは、効果的なナッジのポイントを「EASTフレームワーク」としてまとめており、次の4つに集約しています。

①「簡単にする」こと(Easy)
②「興味を引く」ようにすること(Attractive)
③「社会的にする」こと(Social)
④「タイムリーにする」こと(Timely)

この4つのポイントの頭文字を取るとEASTになるので「EASTフレームワーク」と呼ばれているのですが、3つ目のポイントに「社会的にすること」が入っており、行動変容を促す際に周囲の力を用いることが効果的であることをわかりやすく示しています。

実際に、周囲の力を用いたナッジは多くの分野で効果をあげています。よく見かけるのは「みんな○○してますよ」という情報を与えるナッジです。

納税率を5%上昇させたメッセージ

例えば、BITが行った納税に関する実証実験があります。納税通知書を送る際に、「皆さんは期限内に納税しています」というメッセージを送ると、期限内に納税する人が増えるというものです。

具体的には、メッセージは「①あなたと同じような未納の方も、もうほとんどが納税を済ませました」というものと、「②あなたと同じ町内の人は、もうほとんどが納税を済ませました」の2種類が用意されていました。2つの視点から「あなたと似ている人」の行動を知らせているといえます。

(グラフ:『努力は仕組み化できる』より)

23日後の納税率を見ると、通常の通知メッセージを送った対照群の納税率は33.6%だったのに対し、「①あなたと同じ町内の人は、もうほとんどが納税を済ませました」というメッセージを受けた人の納税率は35.8%、「②あなたと同じような未納の方も、もうほとんどが納税を済ませました」というメッセージを受けた人では36.6%、①と②の両方のメッセージを同時に示したグループでは38.6%となっていました。両方のメッセージを見せると、何も見せないときよりも納税率が5%上昇したのです。

5%と聞くと小さいように感じますが、これは120万ポンドの税収増につながったそうです。

『努力は仕組み化できる 自分も・他人も「やるべきこと」が無理なく続く努力の行動経済学』書影

BITの他の実証では、「遺言に慈善事業への寄付を書き加えたいと考えている人は多くいます」という説明を加えておくと、慈善事業に寄付する人の割合が9%から13%に増加したという結果も出ています。「みんながやっているなら自分もやろうかな」と思い、行動にうつすということでしょう。

アメリカの電力会社が行った実験でも、各世帯の電力消費量を知らせる際に、省エネに成功している近隣世帯と比較する形で情報を提供したところ、電力消費量が2~4%減少したという結果が示されています。

身近なところでいうと、前回の記事で紹介した、ホテルに泊まったときの「80%のお客様にタオル・シーツの再利用にご協力いただきました」のようなカードも周囲の力を使ったナッジです。「周囲の人のふるまい」という環境の力は、かなり強力なのです。

参考文献
・Behavioural Insights Team. (2014) “EAST: Four simple ways to apply behavioural insights”. https://www.bi.team/publications/east-four-simple-ways-to-pplybehavioural-insights/( 参照 2024-06-11)

(山根 承子 : パパラカ研究所 代表取締役社長)

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