動画プロモーションが下手な会社に欠けた視点

(写真:mapo/PIXTA)
各企業が動画関連のプロモーション活動に注力するようになっています。動画プロモーションが、商品販促やサービスの集客、優秀な人材、自社ブランディングなど、企業の経営活動をさまざまな面で後押しする強い力を発揮しているからです。特に、最近の傾向のひとつに大企業にも見劣りしない、目立った成果を出す中小企業が増えている点が挙げられます。
本記事では、『ズームイン!!朝!』や『ZIP!』、『ゆうどきネットワーク』『ビビット』など地上波テレビ番組を手掛けたテレビ映像ディレクターで書籍『動画プロモーション入門』の著者である小笠原剛氏が、中小企業にとっての動画プロモーションの優越性を、実際に成功している中小企業の事例を交えて解説します。

「動画の品質」よりも「視聴者の興味」が重要

中小企業にとって動画プロモーションは勝機ある施策です。下記の図を見てください。

2018年にGoogle社は3200人を対象に動画に関する調査を行ないました。その結果によれば、視聴ユーザーは「動画内容の品質」そのものよりも自分の興味・関心を1.6倍重視することがわかりました。同様に、著名人が出演しているかどうかよりも自分の興味・関心を3倍重視する傾向があることも明らかになりました。

このことから、有名タレントを起用したり、お金をかけた映像でなくても、視聴者が興味あるコンテンツをどのように取り上げるかが重要であることが読み取れます。逆にいえば、中小企業でも視聴者層を明確に設定して、そのターゲットが興味を持つ内容をうまく自社商品やサービスと関連づけて訴求することができれば、動画プロモーションを成功させることができるということです。

さらに、現在は動画制作の環境は大きく変わりました。もちろん、プロの映像制作会社に動画制作を依頼すれば、100万円以上かかることは変わりありません。しかし、自社で低コストかつ高クオリティのコンテンツを簡単に実現できるようになっており、特に撮影カメラや編集作業は最低限の費用で済みます。

例えば、撮影カメラはスマホ1台あれば十分です。スマホのビデオ録画機能は日を追うごとに向上しており、最近では映画やミュージックビデオをスマホで撮影した作品がリリースされているほどです。

もし所有しているスマホの型式が古かったとしても動画が撮れればOKです。なぜなら効果的なBGMや字幕、画面の拡大や切り替えなど高度な編集作業が簡単にできるからです。また、その編集作業も「Filmora(フィモーラ)」という編集ソフトを使えば、予算1万円以内で始めることができます。スマートフォンは、ほとんどの社会人が持っているでしょうから、初期費用の1万円を除けば、継続的に動画を制作するコストは0円に抑えることだってできるでしょう。

一方で、大企業の場合、中小企業に比べ、社内各部署への確認(承認や許諾)や連携、社外のステークホルダーとの調整が必要となり、膨大な時間がかかることがあります。1人の権限が大きい分、中小企業のほうが、動画制作、配信に素早く対応できるといえます。

4つのプロモーション動画ですべてのビジネスは訴求できる

動画プロモーションを制作する一連の流れを理解したところで、動画プロモーションの種類を見ていきます。大きく4つのジャンルに分けられます。

① 「専門知識」の動画
② 「商品販促」の動画
③ 「サービス集客」の動画
④ 「自社ブランディング」の動画

①「専門知識」の動画

自社が保有している専門知識を一般向けに解説することで視聴回数を稼ぎ、自社のプロモーションにつなげる動画です。例えば、税理士や弁護士などが展開するYouTubeチャンネルをイメージしてもらえばわかりやすいでしょう。税理士のチャンネルだと、確定申告の手続き方法、インボイス制度についての解説をしたり、弁護士のチャンネルでは、法律の知識、著作権の解釈、契約書の文言を解説したりする動画などをわかりやすく配信して人気を集めています。

税理士が扶養控除について解説しているシーン。職業上の専門的な知識を一般向けにわかりやすく解説するのはもちろんのこと、日常生活で役立つトピック&時事と絡めた内容ほど人気を集めやすい

文字だけでは伝えきれない情報を発信

②「商品販促」の動画
自社が生産(販売)している商品をメインに紹介する動画です。商品の魅力を解説することで、その認知度を高めたり、売上を伸ばしたりする効果を狙います。主にメーカー企業や小売り販売店で取り組まれることの多いジャンルです。動画プロモーションは商品紹介との相性がよいといわれています。文字の説明だけでは伝えきれない情報――商品のラインナップ、性能、使い方など――を映像と音声で一挙にまとめて発信でき、高い訴求力を見込めるからです。

特定のブランドの靴アイテムをバイヤー視点で紹介している動画。商品販促では、取り上げる商品の時期やタイミングなどを意識して投稿することが重要だ

③「サービス集客」の動画
自社のサービスを紹介する方法です。ここでのサービスとは、モノではなくて、「体験」や「行動」などを提供することです。例えば、宿泊業やテーマパーク、教育、福祉といった分野を本書ではサービスに含んでいます。サービス集客の動画では、消費者視点からの利用方法やメリットを解説することで、自社やサービスの認知度を上げて顧客創出を目指します。②とは違って、サービスそのものは目に見えませんので、それをどのように映像化していくかが腕の見せ所です。

美容師に髪を切ってもらい、利用者が喜んでいるシーン。サービス集客の動画プロモーションでは、このように顧客へのサービスを実際に撮影した動画をSNS投稿することが多い

自社ブランディング動画で採用につなげる

④「自社ブランディング」の動画
自社のブランディング価値を高める動画です。会社が生み出す商品や価値、会社で働く社員の様子を伝えることで、会社の社会的なイメージアップや優秀な社員を採用することにつなげるのが目的です。そのため、この動画ジャンルは業種や業態を問いません。具体的には、社員インタビューや社員の一日に密着したドキュメンタリー動画、オフィスや工場などの自社環境を紹介する動画などが当てはまります。なかには社員教育や会議の内幕、社員の仕事術、さらには社員同士の衝突などを赤裸々に公開して視聴者を楽しませている企業もあります。

新人社員の1日に密着した自社ブランディングの動画。どれだけ社内のリアルな姿を動画で表現できるかがポイントになる

では、実際に中小企業が動画プロモーションで成功するにはどうすればいいのでしょうか。私が注目したのが、トゥモローゲート株式会社が運営するYouTubeチャンネル「西崎康平 ブラックな社長」です。

上記の4つの動画チャンネルでは「自社ブランディング」に分類される動画プロモーションで、チャンネル登録者は19.1万人。ドキュメンタリー感満点の動画コンテンツで、多くの視聴者を楽しませているのが特徴です。自社そのものを動画コンテンツの企画にしながら、エンターテイメント性抜群の動画に仕上げるセンスは一級品といえるでしょう。

「西崎康平 ブラックな社長」に見る成功の秘訣

「西崎康平 ブラックな社長」チャンネルからわかることは、動画制作のポイントのひとつは「リアリティ」だということです。例えば、採用活動のために配信した動画が「リアル」な情報でなければ、優秀な社員は集まらないはずです。実際に入社してみて、動画とは全然違っていれば、すぐに人は辞めてしまうでしょう。また、普段の社員の取り組みや葛藤を表現してこそ会社の熱意や商品・ サービスにかける思いが伝わるものです。

動画プロモーション入門:最前線のテレビ映像ディレクターが教える

その点、「西崎康平 ブラックな社長」の動画制作担当者は「作られたように見せたくないため、台本などは用意していません。実際に起こっている様子を撮影している」と語っています。

機材も1台のカメラで撮影した動画を編集で加工していますが、2画面ワイプにしたり、強調するところに変化をつけてみたりするほか、テロップも数種類のデザインを駆使することで視聴者にわかりやすく見せるなど工夫が見られます。その結果、同社ではさまざまなプロモーション効果が見られるといいます。

「例えば、新規売上では1億7000万円ほどの波及効果がありました。また採用面でもSNSだけで年間約10名ほど採用しています。従来は求人広告・ 人材紹介会社を利用しコストをかけていたやり方から、コストをかけずに採用できるようになりました」(同社・制作担当者)

このように中小企業にとって動画プロモーションは大きな力となっています。

想像してみてください。新商品が出れば、自社の動画コンテンツで効果ある販促ができ、採用面では共感してくれる人材の募集を見込むことができる。高額な広告料をかけずとも自社の顧客ターゲット層に効果的にアプローチすることができる動画プロモーションは企業にとって“大きな飛び道具”となっているのです。

(小笠原 剛 : 映像ディレクター)

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