NTT西日本、「顧客情報流出」の先に待つ2つの難題

NTT西日本のロゴ

昨年秋にグループ会社の不祥事が発覚したNTT西日本。新社長の下で立て直しを図れるか(撮影:ヒラオカスタジオ)
グループ会社による顧客情報不正流出事案が昨年秋に明らかになった、NTT西日本。今年3月には、トップが辞任する事態にまで発展した。
社会的信頼という通信会社の屋台骨が揺らぐ中で、前社長の森林正彰氏の後を継いだのが北村亮太氏(59)だ。直近までNTT東日本の副社長を務めた北村氏は、海外経験が長かった森林氏とは対照的に、持ち株会社の経営企画や総務といった中枢部門を歩んできた。
事案の再発防止を徹底し、顧客からの信頼を取り戻すことが喫緊の課題となる一方、NTT西は事業面でも大きな課題を抱えている。5月に発表した2025年3月期の通期業績見通しでは、営業利益が前期比4割強の大幅減益予想となった。前期に不良資産の売却益を計上した反動があるとはいえ、固定電話の市場環境が厳しさを増す中で事業構造の転換が急務となる。
これからのNTT西の命運を握る2つの難題に対して、新トップとしてどのように取り組むのか。4月に就任した北村新社長に考えを聞いた(取材はオンラインで実施)。

全30支店を回ってわかったこと

――顧客情報の問題で森林前社長が辞任し、思わぬ形での社長就任になったと思います。就任後の4カ月、どんなことに取り組んできましたか。

事業構造の転換期でもあるので、就任以降、30支店を全部回り、社員からいろんな声を聞いてきた。この間、900くらいの意見が上がり、80件くらいの改善要望も聞いた。

社員は「これから新しく事業ポートフォリオを広げるに当たり、どう貢献していけばいいか」と、けっこう前向きにとらえてくれている。こうした改善要望も含め、経営トップが小さい課題から解決していくことが大きな変革に結びつく。そういったところをしっかりしないといけないと、改めて思った。

――さまざまな社員の声に触れる中で、とくにこれから重要だと感じた部分はありますか。

今まで通信をベースにして仕事をしてきたが、そこから通信の周辺領域、まったく新しい領域にチャレンジしていこうとすると、「人の力」が非常に大事になる。設備だけで稼ぐ会社ではなくて、人の叡智で稼ぐ会社にしていかないといけない。

スキルチェンジやスキルアップなど人材育成に対する社員のニーズや思いはひしひしと感じたので、どういう分野にチャレンジしていくか、どういうスキルを身につけてほしいかをしっかり知らせていくことが大事だと感じた。

――持ち株会社のNTTの島田明社長は7月に行ったインタビューで、北村社長を「オールマイティで危機のときにふさわしい」人物だと評していました。西のトップとして、どのような色を出していきたいですか。

事案(顧客情報不正流出問題)もあったので、今、西日本グループが最優先で取り組んでいかないといけないのはお客様の信頼回復だ。それと、経営的にいま非常に厳しい状況なので、来期以降に向けて事業成長をしていくこと。「信頼回復」と「事業成長」が重要な局面だ。

NTT西日本の北村亮太社長

北村亮太(きたむら・りょうた)/1965年生まれ。東北大法学部卒。1988年NTT入社。同社経営企画部門長、総務部門長などを歴任。NTT東日本副社長を経て、2024年4月よりNTT西日本社長(写真:NTT西日本)

いわゆる危機管理的なベースのところはしっかりやるとして、やはり社員、人の力が非常に大事になる。それに対して(社員に)腹落ちしてもらいながら、前を向いてもらうよう訴えていく熱量やパッションは、私としてはそれなりにあるほうだと思う。

また、事業領域を大きく広げようとすると、物の考え方を柔軟にしていかないといけない部分がたくさんある。多様性を受容して新しいことにチャレンジし、柔軟な発想をうまく経営の中に取り入れていきたい。

物言える「組織風土」が必要

――信頼回復、ガバナンスの強化という意味では、再発防止に向けて、グループのセキュリティ人材を集めた「セキュリティ&トラスト部」が7月に始動しました。改めて見えてきた課題はありますか。

セキュリティ&トラスト部で、セキュリティに関しては「2線」(管理部門)の部分で専門部隊を作り、しっかり見ていく体制ができた。加えて、「1線」(事業部門など)、2線、3線(内部監査部門)で考えると、内部監査部(長)も役員ポストにした。持ち株会社からきた役員をヘッドに、私の手足となってしっかり動いてもらえるので、ここの体制も強化する。

「ガバナンス体制」という意味では確立できたと思うが、ガバナンスを徹底して効かせるには、組織風土から変えないといけない。前回の事案から見えた課題は、悪い情報でもしっかりと上げ、自分の意見を言える風通しのよい組織にしていくことだ。組織の壁も取り払いながらやっていくことが大事ではないかと思う。

――とはいえ巨大な組織だと、風土を変えるのは難しい部分もあるのでは。

一例でいえば、今「さん」づけ活動をやっていて、私に対しても「北村社長」ではなくて、「北村さん」と言うようにお願いしている。組織のコミュニケーションの壁を低くして、そういった(自分の思った)ことを言い合えるように、トップ自らが発信して実践していく。

個人の評価指標、目標設定シートでも、「他者貢献」を評価の仕組みに入れた。自分のところだけがよければいいのではなく、トータルで考えれば、(顧客が商品に出会ってから購入に至るまでの)カスタマージャーニーでは、川上から川下までの一連(の会社の取り組み)がお客様には見えている。

それを実現するうえで、いろんな組織をまたいで仕事をしていくわけだが、その“のりしろ”を補うかたちで他者貢献しながら全体最適を目指していこうとメッセージを出している。そんなことが出来上がると、もう少し風通しがよくなり、物を言いやすくなる文化が育ってくると思う。

“復活”に向けた5本柱

――もう1つの課題である「事業成長」について、今期の通期業績見通しは大幅減益予想となっています。来期以降に向け、どのような反転戦略を描いていきますか。

前期に不稼働資産の売却益があったことに加えて、今期は将来のコスト競争力強化の観点から、老朽化設備を整理し、DXを推進していく先行施策で予算を取った。将来の成長につなげる施策をやっていくことで、いったん非常に大きな減益となっている。だが、ここをボトムにして来期以降は利益成長をしていく。

取り組みの「5本柱」がある。光サービスの拡大、レガシー系サービスを光サービスに着実に移行していくこと、法人事業強化、新規事業の成長拡大、そしてCX(顧客体験)向上とコスト競争力強化だ。この5つをすべて同時にやらないと、力強い復活は厳しい。

――5本柱を実現するうえで、具体的にどのようなことがポイントになるのでしょうか。

光サービスの拡大でいうと、10Gbpsの「(フレッツ)光クロス」の販売が非常に好調だ。「クロスファースト」で、保守サポート系の付加サービスもセット販売し、ARPU(1ユーザー当たりの平均売上高)を上げていく。レガシー系サービスは、サービス終了年度を公表しているメタル専用線などを新しいセキュアなネットワークサービスに移行していくことが当面ポイントだ。

法人事業では、ガバメントクラウド(編集部注・政府共通の行政向けクラウド基盤)が言われている中で、自治体や教育機関、大企業などの間でIT投資の波が2025~2027年にくる。そこに対して、利益率も非常に高いクラウドやマネージドサービスを強化する。そのために、コンサル営業から入ってそれを“型紙化”していく。

新事業は、電子書籍の「ソルマーレ」が順調に成長し、前々期から展開した北米も伸びている。これを成長させると同時に、第2、第3のソルマーレみたいな会社を作りたい。CXについては、お客様から申し込みをいただいてからの一連の業務プロセスにしっかりDX、AI(人工知能)をかませて、WEBベースでフロー化することによって、CX向上だけでなくコスト競争力も強化できる。

――森林前社長の時代は、「成長分野」の売り上げ比率を2026年3月期に半分以上に高める目標を立てていました。この目標を引き継ぐことになるのでしょうか。

50%という非常にチャレンジングな目標だが、旗を降ろさずにやっていきたい。回線を増やすだけではなかなか厳しい状況なので、回線や通信関連の法人ビジネス、あるいはソルマーレに代表されるような新しい事業を拡大していかないとやはり厳しい。

NTT西日本の北村亮太社長

オンラインで取材に応じた北村社長。成長分野で売上高の半分以上を稼ぐという目標に向けて、継続して取り組むという(記者撮影)

――例えば、クラウドのところで言及されたコンサル営業を強化するうえでも、社員のリスキルのようなものが必要になると思います。どのように人を育てますか。

まずは、どのレベルのスキルを持った人たちがどのくらい必要か種別で可視化することから始め、人材のマトリクスを社内で共有する。こういう分野にリソースをこう置きたいというメッセージを発信しないといけない。

そのうえで、スキルは座学ではなく実際の仕事の中で身につくので、実践の場を増やす。そのために、リソースシフトが大事になる。月並みではあるが、既存分野の無駄をなくして生産性を上げ、そこに従事していた人たちを成長分野にシフトする。社員の納得感を上げていくために、CDP(長期的な視点でキャリア形成を支援する仕組み)を描いていくことがポイントになってくる。

万博は次世代通信技術のショーケースに

――大阪・関西万博が来年に開かれます。NTTグループもパビリオンを出す予定ですが、お膝元でもあるNTT西では、どういうかたちで関わっていきますか。

大阪に本社を持つので、万博に対する期待感は非常に強い。西日本だけでなく、グループの総力を挙げてIOWN(アイオン)(編集部注・NTTが開発する光電融合技術を活用した次世代通信基盤)を提供し、盛り上げていきたい。

NTTのパビリオンでは、物理的な距離や心理的な壁を越え、遠くの人や物と、空間や感覚を共有できる新しい体験価値を提供する。リアル・バーチャルで、ワクワクする未来のコミュニケーションの姿を見せたい。

西日本は会場内の通信基盤を構築し、期間中も保守をしていく。そこでしっかり役割を果たしたい。万博をショーケースにアイオンのユースケースを作っていきたいし、万博期間中とは別かもしれないが、それを1つのトリガーにしながらデータセンター事業者や、放送局、エンタメなどの分野の方々にもアプローチを進めていきたい。

(茶山 瞭 : 東洋経済 記者)

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