米ディズニー、テーマパーク「超大型投資」の野心

ディズニーのファンイベント「D23」で今後の戦略を発表するジョシュ・ダマーロ氏(記者撮影)

アメリカのウォルト・ディズニーがテーマパークやクルーズ船、ゲーム事業への投資を拡大する。ディズニーは8月10日、2年ぶりに開催された大規模なファンイベント「D23」で、今後の具体的な計画を明らかにした。

ディズニーは昨年9月、今後10年間でテーマパークなどに600億ドルを投資すると発表。今年5月にはディズニーランド・リゾートのあるカリフォルニア州アナハイム市とリゾートの拡張について合意し、テーマパークやホテル、ショッピングエリアの開発を進めると発表していた。リゾートは、現状比で5割拡張する可能性があるという。

今回の発表は、これらの計画を具体化したものといえる。テーマパークなどを統括するディズニー・エクスペリエンスのチェアマン、ジョシュ・ダマーロ氏は「ディズニーは野心的な成長とイノベーションを加速させる道に乗り出す」と宣言した。

3時間の「ライブショー」で発表

8月10日、アナハイム市にあるスポーツ施設・ホンダセンター。1万人以上を収容する会場はディズニーファンで埋め尽くされていた。ディズニーは約3時間にわたってテーマパークなどの新しい計画をファンにお披露目。音楽や映像、ミュージカルを交えた発表は、見事なライブショーだった。

世界中でテーマパークへの投資が行われるが、特に大きく変わるのが、フロリダにあるウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートだ。発表の中でも大きな歓声が上がったのが、マジックキングダム・パークに登場する「ヴィランズ・ランド」。ディズニー映画に登場する悪役たちに特化した世界初のエリアとなる。

ファンもひときわ沸いた「ヴィランズ・ランド」のイメージ(写真:ウォルト・ディズニー・ジャパン)

カリフォルニアのディズニーランド・リゾートでは、2025年から創業者ウォルト・ディズニーの生涯を基にした新しいショーを始める。会場にはウォルト氏の甥であるロイ・P・ディズニー氏も参列し、新しいテーマパークの拡張計画を祝った。

テーマパークは、当たり外れの大きい映画や競争の激しい動画配信を含むエンターテイメント部門に比べて、安定的な収益が見込める。ディズニーにとってテーマパークへの投資は、成長のために不可欠な要素だった。

ファンも期待を寄せているようだ。カリフォルニア州在住の20代男性は「最近はユニバーサルに勢いがある。ディズニーはもっとテーマパークをがんばってほしい」と声を弾ませた。

アメリカのメディア大手・コムキャストの子会社、NBCユニバーサルは2025年フロリダにテーマパーク「ユニバーサル・エピック・ユニバース」を開業する。5つのエリアで構成され、その中の1つとして任天堂が「スーパーニンテンドーワールド」を展開する計画。フロリダでのテーマパークの強化は、こうした競合の動きをにらんだものでもある。

後発のクルーズ船は質で勝負

テーマパークの拡張と併せて発表されたのが、クルーズ船事業の強化だ。

現在5隻ある保有船を2031年までに13隻に拡大する。オリエンタルランドが先日発表したクルーズ船もこの中に含まれる。2025年には初めてアジアを拠点とするクルーズ船が、シンガポールを母港に就航する見込みだ。

クルーズ船を現在87隻保有する最大手のカーニバルコーポレーションなどと比べると、ディズニーは後発だ。その中でディズニーは質で勝負する。クルーズ船の開発は、テーマパークの開発を一手に引き受けるディズニーの社内部門、イマジニアリングが担当。1隻ごとにコンセプトやデザイン、船内で展開されるショーなどを作り込む。

オリエンタルランドは7月にクルーズ事業参入を発表。投資総額は3300億円だ(撮影:風間仁一郎)

「デスティニー号」「トレジャー号」など、船名は単なる名前ではなく、それらのテーマに沿った物語を体験できるようにするという。クルーズ船の責任者であるトーマス・マズルーム氏は、「クルーズ船は独立した事業ではない。テーマパークから学び、連携した事業となる」と話す。

ゲーム部門も開発を加速する。アメリカのゲーム大手、エピックゲームズとディズニーキャラクターを活用したゲーム開発の構想を明らかにした。

会場では、ディズニーアニメーション、ピクサー、マーベル、スターウォーズの各制作のトップが顔をそろえ、ゲームにおける新しいストーリー展開の可能性について語った。

ダマーロ氏(右)と今後のゲームの可能性について語るディズニーの各スタジオのリーダーたち(記者撮影)

戦略はバラバラにも見えるが…

ディズニーは今年2月、エピックゲームズに15億ドルを出資すると発表している。それは、取締役の選任について、物言う株主との激しい攻防戦の最中だった。4月の株主総会では会社側の提案が支持され決着したが、協業について早期の成果を求められていた。

テーマパーク、クルーズ船、ゲーム。バラバラにも見えるが、これらはディズニーが保有するIP(知的財産)の具体化という点で一貫性がある。

ゲーム部門を担当するショーン・ショプトウ氏は「テーマパークに行けない人も、ゲームでデジタル空間に招き入れることができる。そこでつながりを築き、われわれの物語に触れて、実際にテーマパークや映画に行くようになることを期待している。このエコシステムこそが重要だ」と語る。

ただし、レジャー事業には感染症や災害などのイベントリスクが付き物で、市場が順調に拡大するとは限らない。その中で、現経営陣がいかに長期のビジョンを実行できるか。改めて手腕が試される。

(並木 厚憲 : 東洋経済 記者)

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