有吉も苦言「芸能人の盗撮」やめない週刊誌の切実

有吉弘行

盗撮をくり返す週刊誌に対して、Xで苦言を呈した有吉弘行さん(写真:時事)

「盗撮をして。一般人の写真を載せたり 生後数ヶ月の子供の写真に 未成年の犯罪者みたいにモザイクかけてまで 掲載。まあイヤでしょ。 週刊誌の人って家族いないんですね。スゴっ これ訴えると倍返しなんですよね。怖っ!」

「土下座しますし 芸能人の情報タレコミますし お金もある程度払います 命令、要求なんでも従いますので どうか家族の盗撮やめてください。」

敬語の丁寧な文章ながら、その切実さが伝わったからなのか。有吉弘行さんがX(旧Twitter)で週刊誌の盗撮に苦言を呈したことが、今なお波紋を呼んでいます。

また、有吉さんの投稿前後には、石田ゆり子さんや菅野美穂さんらのオフショットを掲載した週刊誌があり、家族の姿こそなかったものの、スタッフらしき人の映り込みはありました。

さらに今回は掲載していないだけで、編集部やカメラ内に保存されている盗撮写真もあると考えられるだけに、怒りたくなってしまうのではないでしょうか。

有吉弘行

有吉さんが行ったXへの投稿(画像:有吉弘行公式Xより)

看過できない、いじめや誘拐のリスク

有吉さんが苦言を呈したことに関して2人の友人から、「何で週刊誌の盗撮はなくならないの?」という質問を受けました。過去には福山雅治さんや賀来賢人さんらも怒りの声をあげたにもかかわらず、なぜ盗撮はなくならないのでしょうか。

週刊誌における芸能記事の現状、今の時代にどんな姿勢が求められるのか。各編集部と長年のつき合いがあり現場を知る立場から掘り下げていきます。

3年前の2021年7月、福山雅治さんが自身のラジオで週刊誌報道に対する怒りの声をあげました。

その言葉は「守られるべきものが守られていない」「とても怖いこと」「一線どころか随分超えたところまで来ちゃった」などと厳しく、「これまでは完全スルーという姿勢でやってきましたが、もはや黙っていることはできない」などと宣言していたのです。

温厚でユーモアあふれる印象の福山さんがこれほど怒りをあらわにした理由は、子どもが背負うことになるリスクの大きさ。

福山さんは「『黙っている』っていうのは『子どもに対して説明がつかないな』と思った」などと苦言を呈した理由を語っていました。ただ実際のところ、子どもに対するいじめや誘拐などのリスクも大きいのではないでしょうか。

写真に目隠しを入れていたとしても、それ以前にカメラマン、編集部員、デザイナー、印刷やウェブの関係者など多くの人びとが子どもの顔を見て知っているし、当然ながらデータ流出のリスクを排除することは難しいでしょう。

つまり、盗撮された瞬間や掲載期間だけでなく、データがどこかで保有される限り、リスクが続いていくことになります。

有吉さんは「生後数ヶ月の子供の写真に 未成年の犯罪者みたいにモザイクかけてまで 掲載。まあイヤでしょ」とつづっていました。そんな無慈悲な行いに加えて、この先、子どもが記者やカメラマンを怖がることなどの心理的な不安も考えられます。

有吉さんは有名人ですが、そうではない子どもに“有名税”という言い訳は通用しませんし、“報道の自由”という決まり文句も理解を得られないでしょう。

実際、有吉さんの投稿には、「売れるなら何でもするってイメージしかない」「対象が著名人だと逮捕されないのも不思議」「デタラメだろうがなんだろうが書いたもん勝ちだもんね。賠償金より売上の方が大きいのも問題」などの週刊誌批判が殺到。中には「記者を実名で晒せ」「廃刊に追い込め」などの強烈なコメントもあり、擁護の声はほとんどありませんでした。

「怒った人は追いかけない」スタンス

実は福山さんと近い時期に、賀来賢人さんも子どもに対する週刊誌報道に苦言を呈していました。その後、2人の家族に対する記事は出ておらず、再び怒るような事態には至っていません。

賀来賢人

2021年に賀来賢人さんも抗議の声をあげていた(画像:賀来賢人公式Instagramより)

これは言わば、「怒った人はもう追いかけない」という週刊誌側のスタンスであり、裏を返せば「まだ怒られていない人は掲載するかもしれない」ということ。「完全にあきらめてはいないけど、人を見ながらときどきやりたい」というニュアンスなのでしょう。

週刊誌を発行する出版社はカレンダーや写真集などのビジネスも重要な収入源だけに、芸能事務所の大小による対応の違いこそあるものの、それほど無理をしないスタンスに変わっている様子が見てとれます。

また、週刊誌サイドの背景として見逃せないのは、「以前ほど芸能人のプライベートに興味関心がない」「家族のエピソードや写真は見たくない」という人が増えたこと。

実際、それを掲載しても部数が伸びなくなったことで、「むしろ売るためには写真集のようなグラビアを重視したほうがいい」という考え方に変わった感があるのです。

さらに切実なのは、「取材費の予算が取れないうえに、猛批判を受けるリスクが大きくなった」こと。長時間の張り込みや聞き込みが難しくなり、撮りに行くとしても飲食店、ショッピング、公園、テーマパーク、保育園、学校、習い事などの出入りレベルにとどめる編集部や記者が少なくないのです。

芸能事務所とメディアは「持ちつ持たれつの関係性」

かつて有名人のゴシップを狙っていたパパラッチの知人カメラマンが数人いましたが、いずれも現在は別のものを撮っていますし、仕事としての需要は減っているのでしょう。

もともと芸能人のプライベートを扱う記事のほとんどにジャーナリズムはありませんでした。さらに言えば、それを手がけている編集者や記者に大義はなく、「現在残っているのは苦しい台所事情だけ」というムードが漂っています。

ただそれでもいまだに週刊誌編集部の中には、「家族や友人などもタレントの商品価値の一部」「だから目隠しさえすれば掲載してもいいだろう」「私的な空間ではなく誰もが目にふれる公の場で撮っているからOK」などと都合良く解釈する編集者や記者がいるのも事実。

彼らは「盗撮ではない」と主張するでしょうが、「撮られた子どもや家族にどんな影響を与え、どんなリスクを背負わせることになるのか」などをもっと考えるべき時代に入ったのではないでしょうか。

もう1つ盗撮をめぐる背景としてあげておかなければいけないのは芸能事務所のスタンス。

芸能事務所とメディアは持ちつ持たれつの関係性であり、さらに芸能人の中にはプライベートを見せて稼いでいる人もいます。そのため「事務所全体で怒りをあらわにする」というケースはほとんどなく、「タレント本人が怒る」という個別対応が続いてきました。

しかし、今回の有吉さんも3年前の福山さんや賀来さんも、精神的な負担が大きかったことは想像に難くありません。

ネット上にはしばしば「怒るくらいなら法的措置を取ればいい」という声も見かけますが、その心身にかかる労力の大きさを考えると、あまりに気の毒であり、肖像権やパブリシティー権などのさらなる法整備化も簡単ではないでしょう。

週刊誌よりも怖い「一般人の盗撮」

ここまで主に週刊誌による盗撮を書いてきましたが、似たようなことをしているYouTuberなどのネット配信者もいますし、あるいはSNSの個人投稿なども同様に注意が必要。

約4年前に田村淳さんが一般人による家族への盗撮やSNSへの投稿に苦言を呈したことが話題を集めました。誰もがカメラ機能のあるスマホを持つ時代だけに、すでに稼ぐ術にはなりづらく明らかに縮小している週刊誌報道よりも本当に怖いのはこちらなのかもしれません。

事実、ある俳優にインタビューした際、「週刊誌の記者は何となくわかるし避けやすいけど、一般人の盗撮はわからないし、事前の連絡がないまま容赦なくアップするから怖い」と言っていました。

「いつ誰から盗撮され、直後にアップされるかもしれない」というストレスとリスクは相当なものがあり、ときには「それがきっかけであらぬ疑いをかけられて人生を狂わされてしまう」という危険性もあり得るでしょう。

われわれとしては、週刊誌の記事にしても、ネット上の投稿にしても、盗撮にかかわるものを「見ない」「買わない」「関心を持たない」ことが重要ではないでしょうか。

(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)

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