無印良品の「冷凍食品」結局どれが売れているのか

店頭で気になっている人も多いはずの無印良品の冷凍食品。いったいどれが売れているのだろうか(撮影:梅谷秀司)

長引いたコロナでのステイホーム期間もあり、ますます食卓に浸透した冷凍食品。今年2月に行われた消費者実態調査でも、その人気が際立った。食品の購買動向で「減った」割合が最も高いのがスナック菓子だったのに対し、「増えた」割合が最も高いのは冷凍食品だったのだ。

日々何かと忙しい私たちにとって、冷凍食品は時間を生み出してくれる必要不可欠なものになっている。だが、子育て中の人をはじめ、冷凍食品を使うことに抵抗感・罪悪感を覚えている人も少なくない。

それだけにおいしさ、利便性以外の観点が求められているが、そうした中、気になる存在がある。無印良品だ。

無印良品は、50種類を超えるレトルトカレーのヒットをはじめ、加工食品分野では多数の成功を収めてきた存在だ。一方、冷凍食品については、最近話題になった「素材を生かしたアイス チョコミント」など、一部商品が注目されることはあるものの、全体としては大ブレイクまではいっていないように見える。実際、都心の店舗を複数回って、食品売り場の客の行動を観察してみると、冷凍食品を買う人はあまり多くないように見える。

いったい無印は冷食市場をどう攻略しようとしているのか、良品計画本社に取材に行ってみると、意外な経緯と現在地が見えてきた。

無印良品の冷凍食品は好調なのか?

「無印の食品では、売れ行きとしてはカレーやお菓子が先行し、冷凍食品はその次のターゲットと位置づけています」

そう語るのは、食品部冷凍・飲料担当カテゴリーマネジャーの日向桃子さん。現在、冷凍食品を取り扱うのは、国内約600店舗のうち258店舗。2018年に都心の4店舗からスタートしたが、現在は2021年から始めた郊外型の店のほうが、都心の店よりも売れ行きとしては好調だという。

【写真】無印良品の冷凍食品の中で、代表的な商品である「キンパプルコギ」。一時、欠品となるほど人気化した「塩こうじからあげ」のほか、”変わり種”も。

食品部冷凍・飲料担当カテゴリーマネジャーの日向桃子さん(撮影:梅谷秀司)

冷凍食品売り場が広い郊外の店のほうが売れ行きがいい傾向がある(撮影:梅谷秀司)

郊外型のほうが好調な理由のひとつとしては「陳列スペース」の違いがある。無印の冷凍食品のアイテム数は現在75ほどあり、その豊富なバラエティが特徴であり売りだったりするが、店頭に並べられる数は冷凍ショーケースの大きさ次第になる。その点、郊外の店舗のほうが多数の商品を陳列しやすく、実際、お客が手にとることが多い。

筆者が、無印良品の冷凍食品の売り場に人が少ないと思うのは、日頃、都心の店舗を見ているからであって、地方の店をまわれば、また違った売り場風景が見えてくるのだろう。

「キンパ」がヒットした理由

それでは、実際にはどんな商品が売れているのだろうか。代表的なものとして日向さんがあげるのは、冷食に参入した当時からラインナップされている「キンパ(韓国風のりまき)」だ。

冷凍食品の中で、代表的な商品がキンパプルコギだ(画像:無印良品サイトより)

当時、冷凍のり巻きというコンセプトの商品は日本市場にヒット商品がなく、ライバルがいない状態だった。そこに目を付けた無印は、具沢山な見た目が際立つキンパのシリーズを開発して投入。熱烈なユーザーを獲得しているという。

「解凍したとは思えないご飯の質感、といった感想を多くいただきます。また、ご飯に対する具材の割合が多く、ひと口食べた時の満足感が高いといった味のバランスも評価いただいているようです」(日向さん)

(画像:無印良品サイトより)

単品の「キンパ」の他に「サムギョプサル」「ヤンニョムチキン」といった、キンパと韓国料理をセットにした商品もある。それらも当時から常に売り上げ上位をキープしてきたそうだ。

今年2月には、「キンパ」の具材を約1.5倍に増やして「キンパ プルコギ」とする全面リニューアルを行ったほか、「野菜ナムル」を追加。また、欠品を起こすことがないように製造キャパも改善したという。

今年2月の全面リニューアルで中身の具財が1.5倍に(画像提供:無印良品)

キンパ同様に冷凍食品だと思えないという声が多く届いているのが、コロッケだ。衣のサクサク感、ジャガイモのほくほく感が、評価につながっているという。

そのほか、「塩こうじからあげ」と「もち麦ごはんの枝豆塩昆布おにぎり」も売れ行きが好調という。いずれも比較的最近の商品だが、どちらも発売時にSNSで話題となり、一時、欠品を起こすほどの人気になった。

一時、欠品となるほど人気化した「塩こうじからあげ」(画像:無印良品サイトより)

「塩こうじからあげ」は「鶏むね肉×塩こうじ」の組み合わせ、「もち麦ごはんの枝豆塩昆布おにぎり」は「もち麦×枝豆」の組み合わせだ。こうした組み合わせが、健康志向の消費者の注目を集めたようだ。

価格競争も激しい冷食市場では、安価な競合商品が多数存在する。その点「塩こうじからあげ」は240gで390円と激安ではない。それでも選ばれる理由について、日向さんは「『冷凍むね肉なのにぱさぱさ感がなく、冷めてもおいしい』ことが評価されている」とその強みを説明する。

無印の食品には”変わり種”が多いのも特徴のひとつに感じるが、実際、そう感じている人は多いのではないだろうか。冷凍食品についても同様で、「雲呑麺」「担々麺」などがそれにあたるかと思う。

冷凍食品にも変わり種が目立つ。写真は「雲呑麺」(画像:無印良品サイトより)

普段、食卓に並びにくいメニューだが、実際に食してみて、手軽に本格的な味を体験できる商品だと感じた。冷凍食品というと、どうしても「手抜き料理」だと家族にも思われたりしがちだが、こうした凝ったメニューであればそう感じにくい。子どもと大人の両方に満足してもらえる味にもしているそうで、それは日々のメニューに悩む親、とくに母親のニーズに応えている。

冷凍総菜に対する抵抗感・罪悪感を軽減する工夫

「冷凍食品=手抜き」という、料理をする人が持つ罪悪感を払拭するのはなかなか簡単でないが、そうした消費者の心情にも、無印はアプローチしている。たとえば、10分以内で作れることを売りにした冷凍食品シリーズ「フライパンでつくるミールキット」シリーズがそれだ。

冷凍食品にはレンジであたためるだけ、という商品が多いが、このシリーズでは、あえて最後の仕上げは自分自身でするように設計されている。しかし、手作り感のために、消費者にわざわざフライパンを汚す手間をかけてもらうだけのメリットはあるのだろうか。聞くと、理由が2つあるという。

「フライパンでつくるミールキット」シリーズの中でも人気の「海老といかのアヒージョ」(画像:無印良品サイトより)

「まずこの商品は、味と食感の両面で、具材とソースを分けたほうがおいしくなるためです。もうひとつは、冷凍総菜を使うことへの罪悪感を払拭してもらいたいためです。フライパンでの加熱と、フライパンからお皿への盛りつけだけはご自身でやっていただく。このひと手間にも価値はあると考えました」と日向さんは語る。

「海老といかのアヒージョ」。具財とソースをわけた形となっている(画像:無印良品サイトより)

バリエも豊富なミールキット(画像:無印良品サイトより)

なお、この商品は、発売時には一袋の容量が1人分に設定されていた。これは都市部での単身世帯比率の高まりを考えてのことだったという。ところが家族世帯からの要望に応えるかたちで、当初のコンセプトを捨て、昨年末に容量が2人分へと変更された。

同時に、袋の中身全体が見える透明のパッケージから、中身も確認できながら調理後のイメージが伝わるパッケージにリニューアルされた。

結果はすぐに数字に表れた。味は変えていないのに、販売個数は前年同期比で3.5~4倍に達しているという。この伸びは、無印の狙いどおり、冷凍食品を使うことに罪悪感を覚えるファミリー層も取り込めているからなのかもしれない。

家族の時間、ひとりの時間をもっと特別に

さて、ここまで無印の動向を見てきたが、ここから「冷凍食品の未来図」が見えてくる気もした。

今年4月に、日本冷凍食品協会が、昨年度の冷凍食品の利用状況について公表したが、人気アイテムのうどん、コロッケ、炒飯、ギョウザが不動のトップ4だったことが確認された。

一方、冷凍食品は以下のようなキーワードで分類されている。「食卓総菜」(主菜になる商品)、「個食化」「健康志向」「環境対応」の4つだ。

健康志向と環境対応の2つは、とくに目新しいキーワードではないが、あとの2つである「食卓総菜」と「個食化」はもちろん、各社の重要開発テーマとなっている。無印の場合は今回紹介してきたような、さまざまな消費者心理に寄り添う形で、差別化しようとしているように感じられた。

コロナ以前から二拠点生活を続けている筆者にとっても、冷凍食品はコロナ禍でぐっと身近な存在になった。たしかに無印の商品に限らず、ちょっとしたこだわりをうたった冷凍食品に対しては、少し高いなと感じる時もある。

一方で、高いだけのおいしさと幸福感を与えてくれるなら、ぜひ買いたいという気持ちにさせられる。これからの冷凍食品に求められる価値をひと言で表せば、「忙しい毎日に、ちょっとしたご褒美を」かもしれない。

無印が、既存の「安い」「手軽」がメインの冷凍食品の、さらに一歩先の市場を掘り起こせるかどうか。今後も興味深い展開を消費者に見せてくれるかもしれない。

(竹下 大学 : 品種ナビゲーター)

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