iPhone「eSIMを使う人」だけ知っている便利機能

QRコードを読み込んでいるiPhone

QRコードを読み込んでインストールするのが“定番”だったiPhoneのeSIMだが、今では環境が整備され、設定や機種変更がより簡単になっている(筆者撮影)

こなれた技術を後から搭載し、使い勝手を高めて普及を図るイメージのあるアップルだが、ことeSIMに関しては、Androidスマホメーカーよりも動きが早かった。

iPhoneは、2018年に発売したiPhone XSシリーズから同機能に対応しているほか、2021年に登場したiPhone 13シリーズでは、2回線ともeSIMで利用できる「デュアルeSIM」を採用している。

iPadも同様で、eSIMの前身ともいえるソフトウェアで書き換え可能な「Apple SIM」を搭載したのは、2014年のこと。eSIMに関しては、一昔前から取り組んでいる。

AndroidにもeSIM対応スマホが広がったほか、通信事業者のオンライン専用ブランド/料金プランが登場したことで、徐々にその存在感を高めているeSIMだが、まだまだマジョリティにはなり切れていない。物理的なカードを入れ替えるだけで済むSIMカードに比べると、自ら設定が必要なぶん、「難しそう……」というイメージもつきまとう。

eSIMに切り替えたいけれど、手続きがわからない?

例えば、2023年2月にMMD研究所が発表した調査結果では、eSIMを現在利用中の人の割合はわずか6.1%にとどまっていた。

1年前のデータだが、数字が一気に伸びるとは考えづらい。とは言え、iPhone、iPad側のeSIMに関連した機能も徐々に進化しており、よりかゆいところに手が届くようになっている。そんなeSIMの最新テクニックを紹介していきたい。

eSIMに切り替えてみたいものの、どうやって手続きすればいいのかわからないという人もいるはずだ。SIMカードの変更と聞くと、どうしてもキャリアショップを訪れたり、オンラインサイトで手続きしたりするイメージがつきまとう。よくわからないので何となく、物理SIMを使い続けている人もいるだろう。

「eSIMに変更」ボタン

切り替えは、「eSIMに変更」ボタンを押して画面の指示に従うだけ。大手4社が対応しており、複雑な手続きはいらない(筆者撮影)

実はiPhoneを使っていれば、物理SIMからeSIMに変更する手間はほとんどかからない。あたかも設定の変更をするかのように、端末内の「設定」アプリから簡単にeSIMへの切り替えができる。

この機能を利用するには、通信事業者側が対応している必要があるものの、日本ではドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4社が対応済みだ。

MVNO(格安スマホ)の場合は利用できないものの、大手通信事業者(UQ mobileやワイモバイルなど大手のサブブランドを含む)を契約していれば、iPhoneだけでeSIMへの変更手続きが完了し、そのまま物理SIMから情報を移せるというわけだ。キャリアによってはIDやパスワードを入力することもあるが、基本的にはiPhoneの画面に表示された指示に従っていくだけで、すぐにeSIMが利用可能になる。

eSIMに変えるメリットは?

設定方法は次のとおり。SIMカードを挿した状態のまま、「設定」アプリから「モバイル通信」を選択。SIMカードを挿している場合は、ここに「eSIMに変更」というボタンが表示される。すでにeSIMを入れている時には、変更した通信事業者を選択し、その画面の中で「eSIMに変更」をタップする。

あとは画面の手順に従い、確認のためにサイドキーをダブルクリックすると通信事業者側のサーバーと連携し、iPhoneに挿してあるSIMカードが自動的にeSIMに切り替わる。手続きは非常にシンプルだ。ただし、一部の古い料金プランが対応していない場合もある点は注意しておきたい。

物理SIMからeSIMに変わったからといって、特に何か大きな違いが出るわけではないが、複数回線を切り替えるときに抜き差し不要になるのはメリット。SIMカードの接触不良も起こらない。

海外に着いてから現地の空港などでプリペイドを買う場合、eSIMがあるのはまれで(韓国や台湾は例外)、ほとんどが物理のため、物理SIMスロットが埋まった状態では国内用のSIMを抜かなければならず、電話などが受けられなくなる。国内用はeSIMにしておき、スロットはどうしてもSIMカードしかない場合に備えておくと安心だ

eSIMは他の端末に移しづらいなどのデメリットもあるため、そのバランスを考えて選択するといいだろう。

クイック転送でスムーズな機種変更

eSIMは、物理SIMのように簡単に取り出せないのがメリットの1つ。端末が盗難にあった場合、特に海外だとSIMカードだけ抜かれて通信を使われてしまうといった被害が起こりうる。SIMカードはピンさえあれば簡単に取り出せるため、画面ロックをかけても意味がない。eSIMであればそもそも取り出せないので、こうした被害は防げる。

ただ、取り出しにくくなるのは自分自身も同じ。機種変更時には再発行をかける必要があり、少々面倒に感じる人もいるだろう。これを解決するのが、iPhoneの「eSIMクイック転送」だ。この機能は、iCloudやBluetoothを通じてeSIMをほかの端末に移すためのもの。裏側では再発行をかけているが、iPhoneの設定だけで完結するため、手軽に利用できる。

当初は一部キャリアでしかこの機能を利用できなかったが、現在はドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルやそのサブブランドもきちんと対応している。iPhone同士、iPad同士という制約があり、iPhoneからiPadに移したり、iPhoneからAndroidスマホに移したりといったことはできないが、iPhoneやiPadの機種変更をするには便利な機能だ

モバイル通信設定画面

eSIMクイック転送は、Apple IDなどを設定する初期設定時に画面が出るため、バックアップを復元する流れでそのままeSIMまで設定できる。手順に従っていくだけでいいので、考えようによってはSIMカードを抜き差しするより簡単。また、設定済みのiPhone同士でeSIMを移したいときには、次のようにしてeSIMクイック転送を呼び出す必要がある。

まず、eSIMを移したい側で「設定」アプリを開き、「モバイル通信」で「eSIMを追加」を選択する。次に、「近くのiPhoneから転送」を選ぶ。続けて、近くにあるeSIMが入っているiPhoneにeSIMを転送する画面が出たことを確認。移す側の端末に検証コードが表示されるので、これを旧端末側に入力し、転送をかける。

IDやパスワードなどを入力し、場合によっては本人確認も必要になる通信事業者のサイトを経由するよりも、手順はシンプルだ。ただし、MVNOなど、一部の通信事業者はeSIMクイック転送に非対応。先に挙げたようにプラットフォームをまたがることもできない点には、注意が必要だ。

3つのeSIMを切り替えながら使う

デュアルSIMと同じ文脈で語られることが多いiPhoneのeSIMだが、格納しておけるキャリアは2つだけにとどまらない。機種にもよるが、8つのeSIM情報を書き込んでおくことが可能だ。ただし、そのうち有効にできるのは2つまで。残りのeSIMは、通信に使うことができない。別の場所に抜いたSIMカードをしまっておくことをイメージすれば、理解しやすいだろう。

とはいえ、SIMカードより切り替えは簡単。インストール済みのeSIMは「設定」アプリの「モバイル通信」にズラッと並ぶため、有効にしたいものを選択し、「この回線をオンにする」のボタンを押すだけでいい。すでに2つのeSIMが有効になっている場合、どちらか一方をオフにする画面が表示される。

そんなに回線は必要ない……と思うかもしれないが、複数回線を入れておくメリットは多い。例えば日本で、3キャリアぶんのeSIMを入れておけば、よほどのことがない限り通信を続けられる。普段はドコモとソフトバンクを使いつつ、万が一、そのどちらもが圏外だったり通信速度が出づらかったりしたときには、KDDIに切り替えるといったことが可能だ。

オフにする選択肢

3つ目のeSIMを有効化しようとすると、すでに設定されている2回線のうち、どちらか一方をオフにする選択肢が表示される。切り替えはこれだけででき、非常に簡単だ(筆者撮影)

メインブランドだと料金がかさんでしまうが、povo2.0のように基本料が0円のオンライン専用ブランドもある。こうしたキャリアを組み合わせれば、基本料を抑えつつ、最強の通信環境を作れる。また、国内では2回線を使いつつ、海外用のトラベルeSIMを入れておく手もある。最近では、UbigiやAiraloといった、海外での通信に特化したサービスも存在する。こうしたeSIMを入れておき、渡航時のみ切り替えれば料金を抑えられる。

ほかにも、電話番号を使い分けたいときにeSIMの切り替えは有効だ。仕事用、プライベート用のほかに、コールセンターなどへの問い合わせだけに使う電話番号を持っておくといったことができる。普段オフにしていると着信も受けられないが、電話番号を教えたくないときに発信専用の番号を1つ持っておいてもいい。SIMカードに比べると入れ替えが簡単なため、複数回線を持ちやすくなったと言えるだろう。

(石野 純也 : ケータイジャーナリスト)

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