乳幼児のいる世帯が東京から逃げている納得の訳

(写真:kapinon/PIXTA)

東京都知事選が告示され、少子化対策が選挙戦の大きな争点となっている。一極集中が続くなかで東京都の人口は過去最高を記録しているが、0-14歳の子どもに関しては、東京都は7553人の転出超過となっている。子どもたちは、(親などとともに)東京から出て行っているのだ。

0-4歳の乳幼児は43道府県に対して転出超過

2023年の「住民基本台帳人口移動報告」をチェックすると、日本人は約5万8000人の転入超過。最新5月の推計人口は1417万人と過去最多を更新した。

ところが、子ども人口となると様相が一変する。0-14歳の転入、転出状況をチェックしたところ、驚愕の事実が発覚した。例えば0-4歳。東京都はなんと43道府県に対して転出超過となっている。最多の転出先は埼玉県の1943人。千葉県1295人、神奈川県891人と続く。茨城県269人や福岡県265人も多い。転出超過の総数は6006人である。

5-9歳では、転出超過先は25道府県へと半減するが、それでもトータルでは1708人の転出超過である。埼玉県536人、千葉県426人、神奈川県280人など。茨城県145人は、つくばエクスプレス沿線だろうか。意外なのは長野県。0-4歳が171人、5-9歳も137人の転出超過である。軽井沢周辺への移住者が増えている影響だろうか。

10-14歳は中学、高校受験を控えるためか、東京にとどまるケースが増え、161人の転入超過となっている。それでも13府県相手に転出超過となっている。

一連の数字は、東京は子育てには向いていないことを示している。とくに9歳までの子どもの親の世代と思われる30-39歳の世代に関してみると、埼玉には3821人、神奈川には2348人、千葉には1753人の転出超過となっている。親子で首都郊外に逃げ出している実態が浮かび上がってきた。

転出超過がもっとも多いのは大田区

では、都内の自治体のうち、子ども(0-14歳)の転出が多いのはどこなのか(東京都内での移動も含む)。まずは純粋に転出数だけで見てみると、①世田谷区4208人、②練馬区3317人、③大田区3092人、④江戸川区2983人、⑤杉並区2741人と人口が多い特別区が上位にくる。

では、転出数から転入数を差し引いた転出超過となっているのはどこか。23区全体では1万0883人の転出超過。多い順に見ると以下の表の通りとなった。

(出所)「住民基本台帳人口移動報告」より東洋経済作成

閑静な住宅街が広がる一方、交通の便もいい杉並区はネット上で「子育てしやすい街」として紹介されている。しかし現実は618人の転出超過である。総人口57万2843人(令和6年1月1日現在)で、子ども人口は5万9752人。総人口に占める割合は10.4%しかない。これは全国平均と比べて1ポイント程度低い水準だ。

東京都の総人口が膨れ上がる一方で、未来をになう子どもたちが両親とともに都心からどんどん逃げ出している構図が浮かび上がってきた。

では、東京から流出した人はどこへ向かったのだろうか。子ども人口には限定できなかったが、東京からの転入人口(外国人を含む)が多い、首都圏の主だった都市は次の通りだ。

【神奈川県】横浜市:3万2483人/川崎市:2万7731人/相模原市:7545人/藤沢市:3498人/茅ヶ崎市:2079人

【埼玉県】さいたま市:1万3794人/川口市:9339人/所沢市:5198人/草加市:3493人/新座市:3209人

【千葉県】市川市:8258人/船橋市:6891人/千葉市:6823人/松戸市:6220人/柏市:3933人/浦安市:2688人/流山市:2603人

東京の地価高騰で子育て世代は23区はもちろん、武蔵野市や三鷹市といった23区に隣接している郊外に住宅を求めることも困難になっている。待機児童数で見ると23区内は世田谷区の10人、墨田区の2人を除くとゼロになっているが、市部では国分寺市38人、日野市33人、町田市30人、立川市26人など都全体で286人となっている(令和5年4月1日現在)。

最近、子育ての街として人気の千葉県の流山市は令和3年に待機児童ゼロを達成している。人気上昇で地価が高騰しているが、それでも住宅地の平均は1平方メートル当たり約15万円。東京三鷹市の3割超程度の水準である。これでは東京都内から流山市に子育て世代が流れてもおかしくはない。

東京都はこれまでに、都内に在住する18歳以下の子どもに対し「018サポート」として一人当たり月額5000円(年額6万円)の支給、高校授業料無料化などの支援策を実施しているが、住宅コストが最大のネックだろう。さらにインフレによる生活費の負担増も重い。

この先、「異次元」の子育て支援策を打ち出さない限り、東京は一極集中と少子化が同時進行するといういびつな姿を露呈していくことになる。

(山田 稔 : ジャーナリスト)

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