東京「どの駅」「どの区」が今後、価値が上がるのか

住宅購入

「マイホームは一生もの」という価値観を捨て、10年先を見据えて居住地を選ぶ戦略が重要になっていく(写真:SoutaBank/PIXTA)

住宅購入は人生で一番大きな買い物。それは令和の現在も変わらない。しかし東京23区では新築マンションの平均価格が1億円を超えるなど、一部のエリアでは不動産価格の高騰が止まらない。

不動産市場の変遷や過去のバブル、政府や日銀の動向、外国人による売買などを踏まえ、「これからの住宅購入の常識は、これまでとはまったく違うものになる」というのが、新聞記者として長年不動産市場を研究・分析してきた筆者の考え方だ。

新刊『2030年不動産の未来と最高の選び方・買い方を全部1冊にまとめてみた』では、「広いリビングルームや子ども部屋はいらない」「親世代がすすめるエリアを買ってはいけない」など、新しい不動産売買の視点を紹介。変化の激しい時代に「損をしない家の買い方」をあらゆる角度から考察する。

今回は「昼間人口」「夜間人口」に注目した「住むべきエリア」のとらえ方について紹介する。

「昼間人口」で、さらに膨れ上がる東京

現在、東京都には全国の人口の1割を超す約1400万人が居住し、さらに東京圏として神奈川県、千葉県、埼玉県を従えている。

2030年不動産の未来と最高の選び方・買い方を全部1冊にまとめてみた

2020年時点の東京都の昼間人口は約1675万人で、夜間(常住)人口は約1405万人、昼夜間の人口比率は119だ。

「昼間人口」とは、就業者や通学者の数を反映した昼間の人口、「夜間人口」は勤務先や学校から帰ってくる常住者の人口のこと。夜間人口の多いエリアは、いわゆるベッドタウンといわれる。

東京都の昼間就業者は1018万人、昼間通学者は186万人。東京都への流入人口は336万人で、神奈川・埼玉・千葉で95%を占めている。

夜間人口の多いエリアでは、自治体の頼みの綱は住民税だ。一方、昼間人口の多いエリアは企業が多く、税収や雇用創出などのメリットがある。

住宅地として将来性があるかどうかは、そのエリアの昼間人口比率でつかむことができる。

昼間人口の決め手のひとつに、交通アクセスがある。

東京圏で「交通アクセスの指標」となる駅は、5つある。次に示す5駅に近いエリアは、価格は高いが、将来も値上がりの可能性が高い。

【東京圏における5つの指標駅】

・東京駅(千代田区・中央区)
・品川駅(港区・品川区)
・渋谷駅(渋谷区・目黒区)
・新宿駅(新宿区、中野区)
・池袋駅(豊島区)

ちなみに、東京駅と品川駅、渋谷駅と新宿駅は、エリアとしての境目が明確でなく、統合される方向で動いていると見られている。

もともと新宿駅は渋谷区に属する部分があり、品川駅はオフィスビルやタワマンが急速に増えている港区に立地する。

データで見る「23区の昼間人口」ベスト5は?

次に、昼間人口比率の多い23区内の区と、昼間人口の多い23区内の区を、2020年のデータでチェックしてみよう。

【昼間人口比率が多い区ベスト5】
*( )内は定住人口100人当たりの昼間人口

①千代田区(1753)
②中央区(456)
③港区(453)
④渋谷区(259)
⑤新宿区(258)

5区とも過去より増えているが、港区が大きく伸びている。

【昼間人口が多い区ベスト5】

①港区(118万人)
②千代田区(116万人)
③新宿区(90万人)
④世田谷区(80万人)
⑤中央区(77万人)

1位は港区。過去に首位だった世田谷区は順位も人口も大きく落とし、次回調査はベスト5圏外となるだろう

なお、三多摩エリア(東京23区の西側)で昼間人口比率が100を上回るのは、拠点性のある立川市(115)と武蔵野市(110)、それに多摩市(101)だけだ。

昼間人口と夜間人口のそれぞれの絶対数は似たような傾向で、上位は八王子市、町田市、府中市、立川市、調布市、西東京市など。

そのうち、西東京、府中、調布エリアでは働く場もあるが、23区への流出が目立つ。

逆に言えば、西東京、府中、調布エリアを狙って域外から住宅を求めてくる人は少なくなく、それが府中などのタワマンバブルを支えている

やはり先行きが怪しい「世田谷」「横浜」

なお、高級住宅街のイメージから、バブル崩壊後も地価下落が十分でなかったと筆者が見ている世田谷区は、昼間人口の指数でも完敗だった。

夜間人口に依存しがちで、都心からも離れているため、企業誘致も切り札とならず、空き家も目立つ。

「職住分離(人口拡大が原動力)」から「職住近接(人口減が原動力)」の時代になったことも、世田谷にとっては逆風のままだ。

また、ベッドタウンは郊外病進行が懸念され、老人ばかりの街になる懸念もある。

それは市区町村として全国最大の人口を誇るものの、財政難に悩む東京のベッドタウン、横浜市も同じだろう。

東京一極集中の中、横浜市の人口は2年連続で減少している。

人気エリアは東京に近い川崎市など、横浜駅から見て北東の方角エリアにシフトし、横浜市南部の人口減少が目立つ。

同じ横浜市とはいえ、南西部は三浦市や横須賀市のような人口低迷期に入っていると言えよう。

東京都の人口重心(夜間人口)は杉並区のJR中央線の南部にあり、昼間人口重心は、中野区のやはりJR中央線南部あたりにある。

今後都心回帰が進めば、両重心ともゆっくり西に向かい、逆に都心脱出が進めば、ゆっくり東に向かうだろう。

中野区は、隣の新宿区の再開発が限界に近いため、最近は再開発の最前線となっている。

アベノミクス以降、建築価格の高騰もあり、マンション価格は中野区でもつり上がっているが、緩慢な人口重心の特性を考えると、中野区の中央線沿線は、住宅の価値が今後も落ちにくいはずだ。

昼間人口重心が中野の理由は、オフィス集積地の新宿と渋谷区が隣接しているからで、その重心が夜になると杉並区に移るのは、杉並区は南部が23区最大の夜間人口を誇る世田谷区と接している影響がある。

私鉄に後れを取ってきた「JRの宅地開発」

東京の私鉄は南(神奈川)方面に伸びる東急、小田急、京急などが強い。また、東(多摩エリア)に伸びる京王も強い。

一方、千葉と東京をつなぐ私鉄の主力は京成だけで、JR(総武、京葉、常磐など)や地下鉄(東西線など)頼みだ。また、埼玉方面も同じ傾向だ。

したがって、宅地開発が弱かったJRの沿線は、私鉄のそれに後れを取ってきた。

たとえばJR総武線を例にとれば、小岩や市川のほうが都心に近いのに、新宿以西の再開発が盛んで、「逆方向の電車に乗ってしまったのか?」と、勘違いしてしまうほどだ。

なぜ下町は23区の西端にある世田谷区などよりずっと住宅価格が安いのかという理由のひとつがそこにある。

その反動も手伝い、アベノミクスが仕掛けたともいえる開発ラッシュは、JR総武線の小岩駅(江戸川区)において、激しいものになっている。

小岩駅の南側には巨大なビルが建ち、北側には広大なエリアで再開発が行われており、今後は三井不動産などのタワマンが林立するはずだ。

かつて小岩の代わりに開発された隣の新小岩駅周辺など、「新」という名前も古びて見える。

下町の「2つの亀」に大注目

新小岩駅より1つ都心寄りに位置するJR平井駅も、これまで何もないと言われてきたが、駅前にタワマンが建設中だ。

さらに都心寄りの亀戸駅(江東区)周辺にも億ションが乱立し、下町らしさは失われつつある。ここは時計のセイコーグループの城下町だったが、工場用地などが次々と商業開発され、現在はその周辺にタワマンが建設されている。

JR常磐線の亀有駅エリア(葛飾区)でも再開発が進みそうだ。

今後、「亀」のつく地域を見くびってはいけない。

これまで、「都心=オフィス」「郊外=住宅」とされてきた。

しかし住居の都心回帰により、タワマンなど垂直展開が進み、港区や千代田区を中心とした垂直エリアが、郊外の水平的な広大な住宅地需要を奪っている。

オフィスのほか、住宅地の開発フロントは湾岸エリア(築地・豊洲・晴海など)、さらに東部の下町に延びていく。

小岩、亀戸、亀有などの開発によって、千葉県民は(値段は高いが)東京回帰の好機にあるといえる。

その分、幕張副都心などは苦境に陥る。「千葉都民」の通勤の足だった京葉線の快速電車が大幅減となるのも、こうした背景がある。

2024年、いや2030年の東京の昼間人口重心は、さらに東にシフトしているだろう。

もちろん、首都直下地震や富士山噴火の懸念まで重心に影響を与える将来不安は残る。

それを回避するためにも、「マイホームは一生もの」という価値観を捨て、10年先を見据えて居住地を選ぶ戦略が重要になっていく。

(山下 努 : 不動産ジャーナリスト)

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