中国BYD「シール」正統派EVスポーツセダンの真価

BYD Auto Japanが日本精機輸入販売モデル第3段モデルとして6月25日から販売を開始する新型スポーツセダン「SEAL(シール)」。今回国内投入されるのは、ベースモデルとなる後輪駆動・シングルモーター仕様の「SEAL」と、四輪駆動・ツインモーター仕様の「SEAL AWD」の2グレードとなる

BYD Auto Japanが日本正規輸入販売モデル第3段として6月25日から販売を開始する新型スポーツセダン「SEAL(シール)」。今回国内投入されるのは、ベースモデルとなる後輪駆動・シングルモーター仕様の「SEAL」と、四輪駆動・ツインモーター仕様の「SEAL AWD」の2グレードとなる(写真:三木宏章)

6月25日、中国の自動車メーカーBYDはフラッグシップBEV「SEAL(以下、シール)」(乗車定員は5名)の日本市場における販売を開始した。セダンタイプで後輪駆動のシングルモーター仕様と、前後輪駆動のツインモーター仕様の2グレードを用意する。これまでのBYD「ATTO 3」「ドルフィン」と比較すると、シールは流麗ながらもオーソドックスなデザインだからこれまで以上に万人受けするのではないか。

今回、発売を前にナンバープレートの取得が済んでいたため公道で試乗することができた。舞台は箱根の山道とその周辺の市街地だ。BYDではシールのセールスポイントを、①高い次元での安全性能、②スポーティな走行性能、③シーンを選ばない快適性能と3つにまとめている。次からは具体的な項目で解説する。

【写真】「ありかも、BYD!」のCMでも気になる中国EV。新型「シール」はどんなクルマ?そのディテールをチェック(41枚)

日本導入3弾となるシールの概要

まずシールの立ち位置。いわゆるDセグメントに属するモデルで、全長4800×全幅1875×全高1460(mm)、ホイールベース2920mm、最小回転半径は5.9mと日本の道路環境でも扱いやすい。ちなみにDセグメントは2022年と2023年の輸入車販売台数において過半数を占める売れ筋ボリュームゾーンでもある。

二次バッテリーには容量82.56kWhのリチウムイオンタイプ「LFPバッテリー」を採用した。AER(1充電あたりの走行可能距離)は、車両重量は2100kgのシングルモーター仕様の場合、WLTCカタログ値で640km(車両重量2210kgのツインモーター仕様は575km)。よって電費は単純計算ながら7.75km/kWh(ツインモーター仕様は6.96㎞/kWh)となる。

格上のEセグメントになるが、メルセデス・ベンツのBEVで二次バッテリー容量90.6kWhの「EQE」と比較すると、シングルモーター仕様の「EQE 350+」はWLTCのカタログ値が624kmで車両重量2360kg(ツインモーター仕様の「EQE 53」は549kmで2510kg)。電費は6.88km/kWh(EQE 53は6.05km/kWh)となる。

BYDが「ブレードバッテリー」と呼ぶLFPバッテリー(正極材にリン酸鉄リチウムを採用)は、体積あたりのエネルギー密度がほかの(正極材に三元系やニッケル酸リチウムを採用した)リチウムイオンバッテリーよりも低くなる傾向だが、熱暴走の可能性が少なく安全で、レアアース17元素を含まないというメリットがある。

駆動モーター出力/トルクは、後輪モーター(永久磁石同期)が312PS/360N・m、ツインモーターも同様でこれに前輪モーター(かご形三相誘導)の217PS/310N・mが加わる。もっとも、この値は最高出力であって、これとは別の値である定格出力が一般的な走行時の出力となり、この定格出力の値をどこに定めるかによって走行性能と電費性能のバランスが図られる。BYDのBEVは、この設定が絶妙で実質の電費性能に優れている。

ツインモーター仕様のシール AWDに試乗

最初に試乗したツインモーター仕様の「BYD AWD」

最初に試乗したツインモーター仕様の「BYD SEAL AWD」(写真:三木宏章)

まずはツインモーター仕様から試乗した。先に記したボディサイズよりも実車は短く、幅広に見える。フロントフード(車両前部にエンジンを搭載した内燃機関モデルのエンジンフードに相当)がストンと傾斜して低く構えていることからそう感じられた。

BEVの電費向上には高効率化とともに、各種の損失を減らすことが重要になる。なかでも空気抵抗の低減は効果的といわれるが、シールでは空気抵抗係数を抑え、同時にセダン形状であることから全高を1460mmとして前面投影面積を小さくした。さらに低い車高との相克関係にある居住性能の確保は、BEV専用の「e-プラットフォーム3.0」のシャーシ技術を用い、車内のフロアを低くすることで対応した。

電動格納式のドアノブ

電動格納式のドアノブ(写真:三木宏章)

ドアノブは電動格納式で、ノブにあるリクエストスイッチ操作でポップアップするが、電費性能向上にとってはそれほど効果がないようだ。欧州プレミアムブランドも採用する電動格納式ながら、いわゆる先進感の演出手法なのだろう。

さっそく、乗り込む。シールの第一印象は非常によかった。シックな色使いで上質なタッチを随所に感じさせたからだ。これまでATTO 3やドルフィンに試乗する機会を得ていたが、明らかに演出過剰。これが遊び心なんだと理解はできるものの、ポップすぎる色合いやHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース:人間と機械の間で情報をやり取りする部分やシステムの総称)特性を度外視したかのようなスイッチの配置、さらにはギターの弦を模したドアの加飾はやりすぎた感があった。

シールのインテリア

シールのインテリア(写真:三木宏章)

一転、シールのインテリアには欧州プレミアムブランドとは異なるBYDならではの独自色が見いだせた。ダッシュパネルやドアパネルにはバックスキン調の生地をあしらいながら、立体的な面構成と横方向に伸びる複数のラインを組み合わせ、広さと奥行きを無理なく演出している。

センタートンネルの凹凸がなく、フラットで広い足もとが特徴的な後席

センタートンネルの凹凸がなく、フラットで広い足もとが特徴的な後席(写真:三木宏章)

天井にはパノラミックガラスルーフが標準で装備されるが、このガラス面積がとても広くて開放感にあふれる。試しに後席に座ってみると、景色が頭上のすぐ上を流れていく。SUVやミニバンにもこうしたガラスルーフは見受けられるが、天井が低めでガラスとの距離が近いセダンボディでの体験はとても新鮮。そのパノラミックガラスルーフには全面を覆うソフトタイプで軽量の遮光ネットが備わり、使わない際にはトランクルーム(前50L、後400L)に折りたたんで収納できる。

予想どおりの過激な加速力、サスセッティングも秀逸

水平基調のコンビネーションランプと、ブラックアウトされたディフューザーで、落ち着きとスポーティさ表現したリヤセクション

水平基調のコンビネーションランプと、ブラックアウトされたディフューザーで、落ち着きとスポーティさ表現したリヤセクション(写真:三木宏章)

走行パフォーマンスこそシール最大の強みだ。BEVだから速い、もはやこれは当たり前。ツインモーター仕様の0→100㎞/h加速3.8秒(シングルモーター仕様は5.9秒)と立派だ。シールではそうした数値で図られる性能はもとより、独特の走行感覚がしっかり造り込まれている。

それは市街地をゆっくり走らせているだけでも感じられ、カーブの連続する山道になると一層、強い個性として認識できた。具体的には、40~50㎞/h程度で走らせている際の振動の収束がものすごく早く、鉛直方向の振幅などは瞬間的に収まる。これは初めての感覚だ。

試乗車のタイヤ&ホイール

試乗車のタイヤ&ホイール(写真:三木宏章)

カーブでは少ないロールこそ感じるが、車体はステアリングをきった方向へとすぐに向き替えを開始する。これにはダブル(デュアル)ピニオンギヤ式の電動パワーステアリング効果が含まれるものの、終始スッと動き、サラリとした身のこなしは気持ちが良い。ちなみに装着タイヤは静粛性能を重視した「コンチネンタルEcoContact6 Q」で、サイズは235/45 R19、直径は694.6mmだ。

ツインモーター仕様は、メカニカル式の油圧可変ダンパーシステムを搭載する。いわゆるダンパー内部のオリフィスを動かして減衰力を連続的に調整する機構だ。昔から、どの自動車メーカーでも使われている方式ながら、シールでは車体剛性が高いこと、サスペンションの取り付け剛性が高いことなどが加わり、足もとがいつでもスッと動く。しかも、動くだけじゃなくてしっかり止まる。

クーペのようなシルエットが印象的なシールのサイドビュー

クーペのようなシルエットが印象的なシールのサイドビュー(写真:三木宏章)

こうした味のある走行性能はクルマの基本構造変革から得られた。ATTO 3やドルフィンでは「CTP」(Cell To Pack)と呼ぶ「ブレードセル+バッテリーパック+車体」の構造様式を採用してきたが、シールではこれを「CTB」(Cell To Body)に変更。「ブレードセル+車体」に改め、同時にバッテリートップカバーをボディフロア一体型にした。

さらに、「ねじり剛性」(ボディの強さ指標のひとつ)を40000 Nm/degと最新のスポーツモデル並に高めたボディを新規に開発。ここにCTBを組み合わせ、さらに前出の油圧可変ダンパーシステムをドッキングすることで、シール特有の世界観を走行性能の上から演出したのだ。

シングルモーター仕様の走りは?

シングルモーター仕様の試乗シーン

シングルモーター仕様の試乗シーン(写真:三木宏章)

続いて試乗したシングルモーター仕様も、ツインモーター仕様と同じボディ構造でCTBを採用するが油圧可変ダンパーシステムではなく、減衰力固定式の油圧ダンパーになる。そのため、スカイフック的なツインモーターの走り味はないが、それでもスッと動き、さらりとした身のこなしは感じられる。

走りに死角なしのように思えるが、個人的には以下の2点が気になった。ひとつ目が「乗り心地」だ。ツイン/シングルモーター仕様ともに、スポーツ色をうたうだけあって終始、足まわりの硬さを感じる。とくに後席に乗った場合、段差での突き上げが大きめで、個人差があるもののクルマ酔いを誘発しやすい。

トランク内のほか、ボンネット内にもラゲージスペースを備える

トランク内のほか、ボンネット内にもラゲージスペースを備える(写真:三木宏章)

ふたつ目が「電動駆動モーター制御」だ。加速方向はとても滑らかで、ツインモーター仕様はタイヤの回転角度にして0.022度(従来のBYD各BEVは7.5度)のスリップを検知して駆動コントロールを行っている。

反面、アクセルをオフにした(=ペダルから足を放した)際の駆動トルクの残りは若干大きい。ドライバーとしてはアクセルをオフにしているのだから、それに応じた減速度がすぐさま発生するものと身構えるものの、そこには100ミリ秒単位ながら加速感が残ってしまう。とくにアクセルを深く踏み込みサッと戻した際に強く、長くなる傾向で、リズミカルに走るぶん、山道では気になった。

BEVで気になる充電性能は?

大海原を自由に回遊する海洋生物をイメージした流麗なフロントフェイス

大海原を自由に回遊する海洋生物をイメージした流麗なフロントフェイス(写真:三木宏章)

充電は6kWhのAC普通充電と、最大105kWhのDC急速充電に対応する。BYD Auto Japanによると、SOC30%(外気温15度)からの急速充電(充電器出力90kWタイプ)では30分間で42kWhとほぼスペックどおりの充電量が得られたという。

これは約300~325㎞走行ぶんに相当する充電量だが、ここにはLFPバッテリーの特徴である充電時の少ない発熱量(充電開始時のバッテリー温度は約16度で30分間の充電後が約34度)も貢献している。

BEVながら現実的な価格設定も魅力的

車両価格は、シングルモーター仕様が528万円、ツインモーター仕様が605万円だが、1000台限定の導入記念キャンペーンとして、販売台数が上限に達するまでの期間はシングルモーター仕様が495万円、ツインモーター仕様が572万円となる。さらに8月31までのエントリー期間限定で、ETC/ドライブレコーダー/メンテナンスプログラム(eパスポート)/充電器と工事費を最大10万円までのサポートなどの初期購入特典も設定されている

車両価格は、シングルモーター仕様が528万円、ツインモーター仕様が605万円だが、1000台限定の導入記念キャンペーンとして、販売台数が上限に達するまでの期間はシングルモーター仕様が495万円、ツインモーター仕様が572万円となる。さらに8月31日までのエントリー期間限定で、ETC/ドライブレコーダー/メンテナンスプログラム(eパスポート)/充電器と工事費を最大10万円までのサポートなどの初期購入特典も設定されている(写真:三木宏章)

車両価格は、シングルモーター仕様528万円(CEV補助金を含む実質価格は493万円)、ツインモーター仕様605万円(同570万円)。さらに導入記念として1000台限定の特別価格として、シングルモーター仕様495万円(同460万円)、ツインモーター仕様572万円(同537万円)での用意がある。

【シール価格設定】
●シングルモーター仕様(BYD SEAL) 希望小売価格528万円 導入記念キャンペーン価格495万円
●ツインモーター仕様(BYD SEAL AWD) 希望小売価格605万円 導入記念キャンペーン価格572万円

※導入記念キャンペーンは、先行1000台限定のキャンペーン特別価格

BYDは日本市場において2023年の1月から2024年5月までの間で2,277台の販売実績を残した。6月6日現在の販売拠点は開業準備室を含めて全国で55、ショールームを完備する店舗数は30を数える。BYD Auto Japanでは、この数字を2025年末までには全国100へと引き上げる計画があるという。

(西村 直人 : 交通コメンテーター)

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