認証不正のトヨタ、豊田氏の取締役賛成率が急落

大雨の中での開かれたトヨタ自動車の株主総会。出席者は昨年より約900人多い4656人だった(記者撮影)

「モータースポーツに時間を使いすぎているのではないかと心配している。モータースポーツが会長の道楽になっているのでは、と」

6月18日に愛知県豊田市で開かれたトヨタ自動車の株主総会。質疑応答で最後に指名された男性株主は、トヨタで起きた認証不正問題を「ショックを受けた。トヨタは大丈夫なのかと不安に駆られた。内部統制が利いておらず、ガバナンス不全に陥っているのではないか」と述べたうえで、そう厳しい声を上げた。

名指しされた豊田章男会長は「どう答えたらいいのか」と苦笑いを浮かべた。そして「トヨタおよびトヨタグループの責任者は私だと思っている」と強調。「私の存在や行動は院政とか道楽とか言われてしまう。しかし、院政は後三条天皇が摂関政治からの脱却を図るために始めたことと書かれている。院政は老害のようなイメージはあるが本来なら新しい時代を切り開くイメージの言葉だ」と反論した。

認証不正で問われるガバナンス

トヨタは6月3日、量産に必要な国の型式指定申請で認証試験の不正が発覚した。宮城県などで生産する「ヤリスクロス」など3車種が7月末まで生産停止に追い込まれた。

トヨタグループでは完全子会社のダイハツ工業、トヨタの源流でもある豊田自動織機、商用車を手がける日野自動車で認証不正問題が発生し、いずれも国土交通省から型式指定の取り消しと是正命令という重い処分を受ける事態となった。デンソーやアイシンでは品質問題も確認されており、グループ全体の土台が揺らいでいる。

トヨタは1月30日にグループビジョンの説明会を開催。豊田会長が「現場が自ら考え、動くことができる企業風土を構築したい」と宣言し、先頭に立って建て直しを図る姿勢を示した。その場では豊田会長がグループ17社すべての株主総会に出席する意向を示していたが、総会シーズンに入ると「総会は株主と年に1度の対話の場。自身が出ることで変化が起きることは得策ではない」として、自身が取締役を務めるデンソー以外の各社の株主総会には出席しない方針に転換した。

トヨタグループのガバナンスのあり方に、かつてないほど大きな注目が集まる中で迎えたトヨタの株主総会。取締役選任議案に対して、アメリカの議決権行使助言会社のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)とグラスルイスが「(認証不正問題の)最終的な責任は長年のトップを務めてきた豊田会長にある」と、豊田会長の取締役再任に反対するよう推奨していた。

6月19日に開示された臨時報告書によると、豊田会長の取締役再任への賛成率は71.93%と昨年の84.57%から12ポイント以上、2022年からは23ポイント以上低下した。

一方、佐藤恒治社長は95.44%。他の取締役も早川茂副会長(89.53%)を除けば90%台だった。この結果についてトヨタは「トヨタという法人に対し、主に機関投資家から議決権行使基準に従った率直な指摘をいただいたと受け止めている」とコメントしている。

昨年に続いて欧州の機関投資家から提出された、気候変動関連の報告書作成に関する株主提案は否決された。株主提案への賛成率は15.06%から9.17%に下がった。

懸念する声もあれば、応援の声も

質疑応答では、質問した12人のうち不正に触れたのは4人。「本当にこれまで同様の進め方ができるのか不安に思っている」「少し認識が甘かったのではないか」などと経営に対する懸念の声があった。

一方、トヨタの電動車戦略や5兆円以上の営業利益が出ている中でのステークホルダーへの還元策、ソフトウェア領域の開発への考え方、トヨタが開発している自動運転の実験都市「ウーブンシティ」の進捗など幅広い質問が出た。

トヨタ車を父親の代から10台以上乗り継いできた男性株主など、応援の声や期待する意見もあった。総会全体が極めて厳しい雰囲気だったかというと、そうでもない。

この日、佐藤社長は「株主の皆様、お客様にはご心配、ご迷惑をおかけし大変申し訳ありません」と陳謝した。不正を起こしたトヨタ、ダイハツ、豊田織機、日野の4社で認証業務と開発・生産に関わる一連の工程を改めて点検する研究会を立ち上げ、豊田会長が主導する形で問題点の洗い出しと再発防止策の策定に取り組んでいることも報告した。

認証試験に関する内部調査は6月末の完了を目指して現在も続いており、不正の対象が拡大する可能性も残る。国交省も職員をトヨタ本社に派遣し立ち入り検査を進めており、不正の経緯や原因、悪質性を調べている。結果は6月中に判明する見通しだ。

総会終了後に複数の株主に感想を聞いた。トヨタの株主になって約40年という愛知県在住の70代男性は「トヨタの説明する内容を信じたい。しっかりいい車を造って、売ることが何より重要だ」と注文を付けた。60代の男性株主は「不正が起きていただけに荒れるかと思っていたが、無難に終わってシャンシャン総会という印象だ」と淡々と話した。

相談に乗るのが「院政」なら喜んで

「ダイハツをダメだといっていたが、いまは自分たちがそんなことを言える立場ではないということだ」。トヨタ幹部は危機感を示す。豊田会長も「決めて実行するのは執行メンバー。いつでも相談に乗ることで、メンバーが自らの成長につなげてほしい。それが院政と呼ばれるなら、喜んで院政したい」と強調した。

2024年3月期に5兆円を超える営業利益を叩き出したトヨタ。だが、自動車業界ではEV(電気自動車)、自動運転技術、ソフトウェアなど新たな開発競争が激化している。強みとしてきた安心・安全のブランド力が揺らぐ中、ガバナンス体制の立て直しは急務だ。

(横山 隼也 : 東洋経済 記者)

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