「面接官や上司選べる」若手人材確保の"驚く手法"

UZUZ 川畑翔太郎

若手確保が上手くいく会社の特徴とは?(写真: y.uemura / PIXTA)

日本は今、戦後史上最大の「人材優位時代」になったと痛感している。

筆者はウズウズカレッジという会社でIT分野リスキリング研修サービスと転職サポートを提供しているが、とにかく人手不足が深刻な状況となっている。

仕事はあるのに人手が集まらない「黒字倒産」が起きる時代。東京商工リサーチによると、2023年度に求人難など「人手不足」関連で倒産した企業数は2013年度の調査開始以降最多だったという。

弊社もそうだが、人がいなければ会社は成り立たない。この現実を踏まえ、日本の中小企業が生き残るために避けては通れない「人に関する問題」について考えを述べたい。

過去ではなく現実を「スタートライン」に

人手不足の話題はメディアで絶えないが、筆者の肌感覚では現状を直視している企業はそう多くはない。「日本はまだ経済大国だし」「外国人労働者を確保すればなんとかなる」といった認識がまだまだ根強いのではないだろうか。

一方で、「数字」は日本が向かっている先をあからさまに突きつけてくる。今春卒業した高校新卒者の求人倍率は2023年7月時点で3.52倍と過去最高。バブル期を超える「売り手市場」で、企業側には若手人材確保のため高校新卒生の採用を増やす動きも出てきている。

バブル期と違って、求人倍率が上がっている背景は当然「好景気」ではない。国際通貨基金(IMF)が2024年4月に発表した「世界経済見通し(World Economic Outlook)」では、GDPランキングで日本はアメリカ、中国、ドイツに次ぐ4位。しかも、上位10カ国のうち「名目GDP成長率」が唯一マイナスという状況だ。5位のインドが成長率10%で僅差まで追い上げている。

そんな中で、出生数の減少スピードが緩まる兆しはなく、2024年に初の70万人割れが起きる可能性さえ指摘されている。要は「人は減って仕事は増えている状態」だから、求人倍率は上がっているし、これから先も下がることはない。つまり、相対的に「人の価値」は上がっているのだ。

「だから外国人労働者を雇ってなんとかする」という方策も赤信号だ。「超円安」という状況で「日本で働きたい」という外国人労働者は減っている。出稼ぎするのにわざわざ給料が目減りする国を選ぶ人はいないのだから、当然の流れだろう。

こうして冷静に状況を俯瞰して見てみると、どこにもポジティブな要素がない。筆者もネガティブな話題をしたいわけではないが、現実を見ず楽観視するのは”死”を意味する。企業はこの現実を「スタートライン」と捉え直すしかない。

相対的に「人の価値」が上がった今、「企業や仕事に人が合わせる」時代は終わったと考えなければならない。「労働力が豊富な時代」に戻ることはもうない。過去を振り返らず、「人に合わせる経営・人事戦略」に舵を切るしかないのだ。

上司選択制を導入している会社

北海道の企業が行っている「上司選択制」を知ったとき、筆者は「確かにこういう動きが出てくるだろうな」と納得した。「上司選択制」とは、上司の性格や得意・不得意をあらかじめ社内に公開し、部下たちはそれを参考に一緒に働きたい上司を選ぶというものだ。

「GOOD ACTION アワード」(リクナビNEXT主催)を受賞した取り組みで、上司とのミスマッチで退職する若者が少なくなかったことが導入のきっかけだったという。結果、離職率減を達成。これが「人に合わせる人事戦略」の好例だ。

「人との相性の問題で異動したいと言えば、他の会社ではワガママだと言われるのかもしれない。でも当社ではそのワガママは許容したい。なぜなら、社員に対して『この上司の下しかダメ』と押し付けるのは不誠実な気がしたから」(同アワードサイトより引用)という同社代表の言葉にあるように、「人が組織に合わせるべき」という従来の社会通念だと発想すら浮かばなかったに違いない。

制度のバックボーンに「望む仕事や技術の習得に集中できる会社にしたい」という意図があったことも重要だ。社員たちは目指すキャリアに合わせて上司を選んだり、上司の苦手部分を補う立ち回りをするようになったり、自律的な社風になったという。

大学生が面接官を選べる制度も

また別の事例では、就活中の大学生が1次面接の面接官を選べるようにした企業の取り組みも話題になっている。こうした「人に合わせる」戦略は、若手人材の確保に頭を抱えている中小企業やベンチャー企業の間で広がっていくだろう。

ここでクギを刺しておきたい。「人に合わせる経営・人事戦略」は「ちょっとやってみて、うまくいかなかったらやめたらいい」レベルで考えてはいけない。これから日本は「人が採りたくても採れなくなる」時代に突入していく。そのような状況を考えると、人材が「ここであれば成長できる」「この会社ならとどまろう」と思えるような仕組みを整えていくことは、これから企業が生き残っていくためには対応必須の課題だと言える。

「働く側に迎合しすぎじゃない?」「そんなに甘やかした若手社員が仕事するの?」と思う人もいるだろうが、働いている社員、求職者にそっぽを向かれてからでは遅い。私も1人の経営者として、残された道は人材が成長や居場所感を感じられるように、「うまくいくまでやる」一択だと肝に銘じている。

とはいえ、注意すべきこともある。それは、「社員をお客様扱いするな」ということだ。離職を防ごうとして、負荷がかかる業務はさせない、残業はさせないなど「一見すると働きやすい職場」にしたものの、逆にそれが原因で若手が辞めてしまう事態も起きている。

リクルートワークス研究所が2022年に行った調査によると、大手企業の入社1〜3年目までの社員のうち、「現在の職場を『ゆるい』と感じるか」という質問に約36%が「あてはまる」「どちらかと言えばあてはまる」と回答。さらに興味深いことに、職場が「ゆるい」と感じている人ほど、働いている会社で働き続けたい意向が弱い結果となっていた。

なぜか。若手の離職者からよく聞かれるのは、「このままここにいても成長できないのではないかと感じた」という理由だ。それはそうだろう。「無理しなくていいよ」「楽しくやればいいよ」というだけの環境は、部活でいえば「勝ち負けではなく、楽しくやれればいいよ」状態。「楽でいいや」と思う人材は残るが、向上心がある人材は離職していくことになる。そうなると、企業も成長しない。成長しない企業は市場から淘汰されてしまう。

離職や不満を恐れて若手人材に対して腫れ物に触るような扱いをしていると、優秀な人材が残らず、仕事の成果も上がらず、会社自体が”市場競争”で撃沈することになる。上司は接客業ではない。「人に合わせる」ということは、その人が力を発揮して結果が出せるように環境を整えることであり、成長の機会を与えないことではないと認識しておくことが重要だ。

「人材のSDGs戦略」に本気で取り組もう

今にして思えば高度経済成長期の日本は人材資源が豊富で、言い方は悪いが「人材を使い捨てるような経営」をしていても企業は成長できた。ただ、そのような状況はとっくにゲームチェンジしている。

人口減少の勢いがとどまるところを知らない状況では、企業のほうが若手人材に選別され、「使い捨てられる」時代が始まっている。「人に合わせる経営・人事戦略」と「結果を出せる戦力を育てる経営・人事戦略」。日本の企業が生き残るには、どちらか一方を選択するのではなく、両立することが求められている。

「勤勉でよく働く」と言われた日本は、すでに過去の遺物。急成長中のアジア諸国は、今の日本の2倍から3倍働いている。しかも、ITスキルや語学力でも日本は完全に後れをとっているので、仕事の「質」の面でも勝算はない。それがリアルな現状だ。

このスタートラインから這い上がっていくには、人に合わせながらも戦力として育てる、持続可能な「人材のSDGs戦略」に本気で取り組み始めるしかない。

「そのうちなんとかなるのでは」という楽観的な考えは持っていても状況は何も変わらない。冷静に現状は把握しつつ、悲観せずに行動を起こすことが大切だ。

(川畑 翔太郎 : UZUZ COLLEGE(ウズウズカレッジ) 代表取締役)

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