トラックドライバーはむしろ「第二の人生」に最適? 部長職からドライバーに転身「収入減ったが気が楽に」のホンネ、若手確保が無理なら逆転発想しかない

キャリアパスの不透明感

物流トラック(画像:写真AC)

物流トラック(画像:写真AC)

「現役ドライバーの約半数が50代以上で、30代以下は2割強しかいない」

この現実ゆえ、運送業界では若手ドライバーの採用と育成が急務とされている。しかし、若手ドライバーを増やそうにも、なかなか結果が出ない。

・免許制度の壁
・全産業に比べ、収入が低く、労働時間が長い。
・他の人気産業に比べ、就労環境が見劣りする。
・キャリアパスが不透明。

特に最後の課題は悩ましい。

「自動運転とか無人運転って、いずれ実現しますよね。そのとき、僕たちの仕事はどうなってしまうんですか……」

これは先日、20代のドライバーに受けた質問である。誤解している人もいるのだが、自動運転トラック・無人運転トラックが社会実装されたとしても、有人運転トラックが絶滅することはない。そもそも、

「どんな場所でもどんな状況でも走行できる無人運転トラック」

については、社会実装の目標すら掲げられていない(高速道路における自動運転トラックは、2025年度を実現目標に掲げている)。

 とはいえ、20代であれば、人生のどこかで自動運転トラックは実現するだろうし、無人運転トラックも実現する可能性が高い。そうなれば、トラックドライバーという働き方に変化が訪れる(少なくとも今と同じ働き方はありえない)ことは確かだ。

 自動運転トラックが実現し、さらに後年、無人運転トラックが実現した社会における、ドライバーのキャリアパスはあいまいなままだ。わかりやすく、かつ納得感のある若手ドライバーにおけるキャリアパスを示さない限り、若手ドライバーが大幅に増加する見込みはない。

トラックドライバー確保のヒント

物流トラック(画像:写真AC)

物流トラック(画像:写真AC)

 少子高齢化が進む日本社会では、今後急速に人口が減少し、同時に超高齢化社会へと突入していく。

 2020年に1億2600万人だった人口は、2031年には1億2000万人を下回り、2040年には1億1300万人、2050年には1億500万人、2070年には8700万人まで減少する。

 さらに深刻なのは、高齢化の進行である。2020年時点で、全人口のうち、65歳以上が占める割合は28.6%。だが、2030年には30.8%、2040年には34.8%、2050年には37.1%まで増加していく。

 これらのデータを鑑みると、産業の垣根を越えて、若手争奪戦が激化していくのは目に見えている。はっきりいうが、現在若者に不人気のトラックドライバーという職業が、この激戦を勝ち抜くことは限りなく難しい。

 だとしたら、割り切って、

「中高年層にターゲットを絞り」

ドライバーという職業をアピールしてはどうだろうか。将来の人口予測を細かく見ていくと、興味深いことに気づく。50~64歳の人口全体における割合を列記する。

・2020年:25.7%
・2030年:28.3%
・2040年:27.9%
・2050年:25.0%

2040年までは、減るどころか増えている。前述のとおり、現役ドライバーの約半数は50代以上である。

 だとしたら、高齢化が進むドライバーの現状を憂うだけでなく、むしろ

「逆転の発想」

で、中高年を対象に、ドライバーという職業をアピールし、むしろ今よりも中高年ドライバーの割合を増やしてはどうだろうか。

部長がドライバーに転向した理由

物流トラック(画像:写真AC)

物流トラック(画像:写真AC)

 グループ企業を含めると約5000人の正社員がいる、ある大手企業の物流子会社では、過去10年以上、ドライバーの外部採用を行っていないという。理由は簡単だ。グループ会社からのジョブチェンジでドライバーを充足できているからである。

 あくまで一般論ではあるが、これまで会社員は、進化・成長することを求められてきた。平社員から係長、課長、部長へと昇進することを求められ、昇進にともなって職務内容も変わり、また責任も重たくなっていく。

 特に、人事マネジメントについては、負担とストレスを感じる人も少なくない。部下を持てば、部下に対する成長責任が生じるし、部下の査定もしなければならない。

「自分でやれば簡単だし、もっと結果も出るのに……」

と思っても、部下に仕事を託さねばならない。それが組織で生きる会社員の宿命なのだ。こんな考え方がある。

「会社員の自己内利益 = 収入 - ストレス」

 例えば、部長に昇進し、年収が200~300万円上がったとする。部長に昇進した当初は、収入アップに喜び、自己内利益が上昇する。ところが、日々部長としての職務をこなすうちに、

・目標達成に対するプレッシャー
・組織マネジメントに対する責任

など、ストレスも増えていく。これまた一般論だが、課長職が担う責任と、部長職が担う責任では、まるでモノが違う。対して、収入アップの喜びは、1~2年もすれば慣れてしまう。収入アップの喜びは減るが、ストレスは年々増加する。結果、会社員の自己内利益は出世するほど減少していく。

 部長職を例に挙げたが、同様のことはもっと上位、あるいは下位の役職でも起こりうる。もちろん、世の中にはストレスを克服し、役員ら経営層を目指す人たちがたくさんいる。だがそういった人のなかにも、意欲はあっても、実力がともなわない人もいる。結果、同期どころか部下にも抜かされていく。

 先の大手企業では、進化・成長を求められ続けることに疲れてしまった人が、ドライバーへのジョブチェンジを希望してくるのだ。

「もちろん、収入は大幅に減りましたよ。でも飲み会やらゴルフやらで出ていくお金も減りましたから、極端に収入が減ったという感じはありません。思い返せば、私はうつになる一歩手前まで追い詰められていたのでしょう。ドライバーとして、黙々と荷物を運ぶ今の仕事のほうが、はるかに気持ちが楽です」

これは実際にジョブチェンジを行った、元部長職だった人の話である。

セカンドキャリアとしてのドライバー

物流トラック(画像:写真AC)

物流トラック(画像:写真AC)

 現役ドライバーの約半数が50代以上という事実は、

「50代の人がドライバーという仕事に向いている」

ということとはまるで違う。ここは履き違えてはならない。そもそも、ドライバー高齢化の最たる理由は、若手ドライバーが増えないまま、10~20代にドライバーになった人が今も現役を続けているからだろう。運送業界内では、「昔はトラックドライバーは稼げる仕事だったんだ」という思い出にすがっている人が、いまだに、しかも少なからず存在する。

 気持ちはわかる。筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)は、大学を中退してドライバーになったが、

「大学を卒業した同級生には負けない」

と思い、必死に働き、実際、同級生を上回る収入を得ていた。ただし、これは30年前の話である。コンプライアンスが厳しく、長時間労働が許されない今、「ガンガン働き、ガンガン稼ぐ」というのは夢物語でしかない。

 ドライバーという働き方であり生き方を、

「淡々と働き、それなりに稼ぐ職業」

であるとアピールするほうが、むしろ現状にあっているし、また出世・成長競争に疲れた中高年には響くのではないだろうか。特に50代以上の、良き時代を経験してしまっている運送会社経営者は再考してほしい。

 もちろん、「出世競争はありません。淡々と働き、それなりに稼ぐ、それがトラックドライバーという仕事です」とアピールするためには、今の運送業界には足りない部分がある。まずは、

「(全産業に比べて)2割収入が低く、2割労働時間が長い」

といわれる状況を改めること。全産業平均よりも高い年収を、運賃値上げと経営改善、業務改善によって実現し、また「物流の2024年問題」が課す残業の上限規制を順守することは、絶対条件だ。

 もちろん、“手積み手卸し”のような身体に負担の大きい仕事は論外。さらに、普通免許から大型免許取得などへの取得制度の充実も必要だし、

・衝突被害軽減ブレーキ
・ドライバー異常時自動検知システム

などの安全支援装置をトラックに装着することは必須だ。

 ちなみに若手ドライバーの確保については、物流2法改正とともににわかに注目を集める最高ロジスティクス管理責任者(CLO)を引き合いに、

「トラックドライバーは、年収ウン千万円を目指す、高度物流人材の登竜門です」

というアピール方法もありだと考えているのだが、これはまた別の機会に考えよう。

 ドライバー不足はもちろん、現在物流業界が抱える課題に対しては、全方位でありとあらゆる対策を尽くさないと解消できない。

「出世競争に疲れた中高年の皆さん、トラックドライバーというセカンドキャリアを選びませんか」

というアピールは、対策案のひとつでしかない。そんなふざけたアピールなんぞ論外だと憤慨する人は、ぜひ対案を出してほしい。今、運送業界に必要なのは、さまざまな立場の人が、知恵を絞り、対策を考えることなのだから。

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