何光年も離れた「恒星への旅」は実現可能なのか

美しい星空の写真

最も近い恒星でも地球から約4.2光年離れているそうですが、そういった遠い星まで旅できるようになる日は来るのでしょうか?(写真:baruchan/PIXTA)
民間企業による宇宙飛行が実施されるなど、宇宙はかつてないほど身近になっている。しかし、太陽系を離れた恒星への旅についてはどうだろうか? 私たちはいつか、遠い星まで出かけ、そこに住むことも可能になるのだろうか?
今回、NASAのテクノロジストである物理学者が、光子ロケットや静電セイル、反物質駆動、ワープ航法など、太陽系外の恒星への旅の可能性について本気で考察した『人類は宇宙のどこまで旅できるのか:これからの「遠い恒星への旅」の科学とテクノロジー』より、一部抜粋、編集のうえ、お届けする。

太陽系外惑星を探査する日

人類は宇宙のどこまで旅できるのか: これからの「遠い恒星への旅」の科学とテクノロジー

人類は、地球上に出現して以来、夜空の星を見つめては大いなる疑問を問いかけてきた。「私は誰なんだろう?」、「私はどうしてここにいるんだろう?」、「むこうには誰がいるんだろう?」などのように。

人類が宇宙の探査を続け、太陽系外の恒星に向かう最初の一歩を踏み出す準備をしつつある今、これらの疑問のいくつかに答えられる日も近づいている。星は、ただの夜空に輝く美しい点ではない。遠い彼方の星には新しい世界がある。

1990年代の初頭になるまでは、宇宙に存在すると(科学的に)わかっていた惑星は太陽を周回するものだけだったというのは今では信じがたい。

ますます多くの太陽系外惑星が知られるようになり、なかには主星のハビタブルゾーン〔訳注 恒星系で、主星である恒星からの距離が生物にとって適切な領域。生命居住可能領域〕に存在するらしいものも見つかって、人類がそんな系外惑星を訪れて探査する日が来るかもしれないと考える人も増えてきた。

宇宙時代の幕開け直後の1960年代ごろの楽観的な見方とは裏腹に、この目標に向かう人類の進歩は多くの人の予想よりも常に遅かった。その理由は、努力が足りなかったことだけではない。乗り越えるべき課題がどれも非常に困難なのだ。

最も近い恒星、プロキシマ・ケンタウリは、約4.2光年離れている。つまり、秒速約30万キロメートルで進む光が4年以上かけてやっと辿り着く距離にある。だが、こんなふうに距離を説明されても、ほとんどの人はピンとこないだろう。

光の速度を実感できる人などそうはいない。この距離を頭のなかで捉えるのがどんなに難しいかわかっていただくために、もっと近い距離について、それだけ進むのがどれだけ大変かを想像してみよう。

1977年に打ち上げられたボイジャー宇宙船は、これまでに最も遠方まで到達した宇宙船だ。ボイジャー1号は、本書執筆の時点で、約156天文単位(au)の距離――地球と太陽の距離、約1億5000万キロメートルの156倍――にあるが、そこまで行くのに44年以上かかっている。

ボイジャーの位置に関する最新情報は、NASAのウェブサイト、https://voyager.jpl.nasa.gov/mission/status/を確認していただきたい。ボイジャーが正しい方向に進んでいたとしたら、プロキシマ・ケンタウリに辿り着くまでに約7万年かかると推定される。

本当に実施するのなら、星間旅行の期間は、年単位ではなく、千年単位で測れる長さでなければならないだろう。でないと実施可能とは言えまい。

難しい課題が山積みだが

宇宙船の推進手段の選定以外にも、星間旅行を巡る難しい課題はたくさんある。星間旅行をする宇宙船が、そんな途方もない距離を越えて通信するにはどうすればいいだろう? どの恒星からも遠く離れて星間空間を進んでいく宇宙船に、どうやって動力を供給すればいいのだろう?

さらに、所要時間を短くするために必要な速度で進むあいだに、星間ダストと衝突して船体が損傷するリスクも大きいはずだ。光速にかなり近い猛烈なスピードで進んでいるときには、小さなダストでも衝突すれば大惨事を引き起こしかねない。

ありがたいことに、これまでとは違う新しい物理学を準備しなくても、自然は人類に超高速星間旅行を実行させてくれるようだ。

核融合を使った原子力推進、反物質推進、そしてレーザー推進のいずれの方式に基づいた推進技術も、物理的に可能なようである――とはいえ、必要な規模のシステムの設計は、今の私たちの能力ではとうていできそうにないが。

人類が星間旅行という究極の旅に本当に出発するのなら、まずは太陽系の至るところに人類が居住しなければならない。それが達成できても、星間旅行を実施するにはさらに、新しいさまざまな技術が必要だし、過去の過ちを繰り返さないための探査倫理の枠組みも新たに構築しなければならない。

そして、かつてヨーロッパの大聖堂の建築を可能にした、未来を見通す思考力が必要だ。なにしろ、今始まるプロジェクトには、それが何世代も先まで完了しないことを踏まえた大局的な思考が求められるのだから。

なぜ宇宙を探査するのか?

それに加えて、「なぜ?」という疑問がある。「私たちはなぜ遠くの恒星まで旅しなければならないのか?」だ。さらに言えば、それは「そもそも私たちはなぜ宇宙を探査しなければならないのか?」という疑問でもある。

宇宙時代が始まってから最初の50年と少しが経過した今、地球近傍と地球軌道に沿った宇宙領域の探査と開発に関しては、説得力のある理由がいくつも存在し、それらの理由はほぼ万人に受け入れられている。

気象衛星のおかげで、気象学者たちは数日先、数週間先の天気をかなり正確に予報することができる。さらに、ハリケーンやサイクロンの経路を予測するのにも役立ち、人命を実際に守ってくれている。

通信衛星は世界を結び付け、世界各地で何が起こっているのかを瞬時に伝えてくれる。通信衛星がテレビ放送の電波信号や携帯電話の信号を中継してくれるのに加え、通信衛星を多数つないだ大規模ネットワークによる、地球上の至るところでアクセスできるブロードバンド・インターネットの提供が始まっている。

スパイ衛星によって、世界各国は互いの軍事活動を監視することができ、奇襲攻撃がほとんど不可能になったおかげで、平和が維持されている――核兵器で武装されたこの世界において、これは戦略的安全の重要な一部である。

全地球測位システム(GPS)を構成する衛星は、初めて行く場所でもうまく辿り着かせてくれるし、相互依存的になった世界と世界経済を維持するにはもはや必要不可欠である。今や地球近傍の宇宙は、私たちの日常生活と幸福に不可欠だ。

多くの提唱者たちが、当然の次のステップは、地球と月のあいだの領域、シスルナ空間〔訳注 「cislunar空間」。「こちら側の」を意味するcisと、「月」を意味するlunarisというラテン語から作られた、地球と月の軌道の間の空間を指す言葉〕の開発だと確信している。

米国のNASAをはじめ、他の国々も、近い将来人間を月に送ろうと計画している今、シスルナ空間における新たな製品やサービスが登場するに違いないという期待がある。地球軌道で起こったのと同じように。

だとすると、やがて議論は太陽系全体へ、そして最終的には太陽以外の恒星へと広がっていくだろう。

人間の知識を拡張するため

私は1人の科学者として、このちっぽけな太陽系の外側も含めて、宇宙を探査することには、経済や有形の利益とは無関係な正当な理由があると信じている。遠い宇宙には何があるのか、そして宇宙はどのように成り立ち機能しているのかをもっとよく知るため、というのがそれだ。

21世紀において私たちの生活を成り立たせ続けるために使われているすべての技術は、過去の時代に、さまざまなものに対してこれと同様の根源的な疑問を問いかけた科学者たちから生まれたものである。

彼らが問いかけた当時、そのような疑問に明白な経済的利益や用途は必ずしも存在しなかっただろう。「人間の知識を拡張すること」は、それ以外のどんな理由にも引けを取らない真っ当な理由なのだ。

このような考え方には異論があるし、人間が宇宙に進出し、やがて太陽以外の恒星にまで到達することを考えたときに持ち上がる厄介な疑問もあれこれ存在する。

星間旅行は可能だ――ただ猛烈に困難なだけだ。人類に、この困難を引き受ける覚悟はできているだろうか?

(翻訳:吉田三知世)

(レス・ジョンソン : 物理学者、NASAテクノロジスト)

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