米ファンド強気、金利高でも国内不動産は「買い」

ブラックストーン看板

ブラックストーンはホテルや物流施設など、国内の不動産を積極的に物色する(撮影:尾形文繁)
不動産にとって金利上昇は逆風だ。アメリカでは急速な利上げで銀行の融資姿勢が厳格化し、借り入れ金利も急騰。不動産価格は大きく下落した。日本でも3月にマイナス金利が解除され、市場は年内の追加利上げの観測を強めている。だが、「日本はアメリカとは異なる」と、不動産ファンドは強気の姿勢を崩さない。不動産市況の見通しについて、ブラックストーン・グループ不動産部門日本代表の橘田大輔氏に聞いた。

日本の銀行は融資に前向き

――日本では年内の追加利上げの観測が強まっています。国内の不動産市場への影響は。

国内金利は上がったとはいえ、足元の短期金利は20ベーシスポイント(0.2%)程度。影響はゼロではないが、それ以上にキャッシュフローが伸びている。仮に金利が1.5%まで上昇したとしても、キャップレートが3%ならスプレッドはまだ取れる。流動性に影響はないだろう。

日本の銀行も不動産向け融資に積極的だ。本来であれば、金利に先高観がある時は、それを織り込んだ融資条件になるはず。それが現状では変わっていない。来年に竣工する物件についても、足元の金利水準で融資のコミットメントを得ている。インフレによる賃料の上昇を織り込んでいるからか、アメリカのような貸し渋りは起きていない。

唯一、銀行が慎重なのは、長期契約のマスターリースだろう。10年や15年間賃料が変わらなければ、(借入金利が上昇した場合に)イールドギャップが潰れていく。とはいえ、そうした物件は一部だ。

――資産バブルの懸念はないのでしょうか。

リーマンショックと異なるのは、ファンドが借り入れによるレバレッジを抑えていることだ。当時は物件価格の8割以上を借り入れで賄うファンドが目立ったが、今は7~8割でもそういない。長期保有目的のファンドも増えており、彼らの借入比率は5~6割。われわれも、借りようと思えばもっと借りられるが一定水準に抑えている。レバレッジが低ければリターンも減るが、その分は物件の価値を向上させてキャッシュフローを改善させる。

懸念材料があるとすれば、私募ファンドや私募REITの乱立だ。あちこちで組成された結果、投資家の資金が枯渇しつつある。資金が集められなければ、彼らへの売却を念頭に物件を保有していたファンドやリース会社が処分に困る。物件の目詰まりが起きれば、流動性に悪影響が及ぶかもしれない。

ホテルは価格帯で明暗

――2021年に、近鉄グループホールディングスから「都ホテル 京都八条」を含むホテル8棟計2294室を取得しました。その後の進捗は。

京都八条は2023年8月に全面改装を終えた。宿泊単価は好調で、宴会やレストランの需要は非常に強くなってきた。主要顧客である日本人の団体旅行が戻れば稼働率がさらに上昇し、コロナ禍前よりも高いパフォーマンスになるだろう。

インタビューに答える橘田代表

橘田大輔(きった・だいすけ)/ブラックストーン・グループ・ジャパンの代表取締役、シニアマネージングディレクターで日本の不動産部門代表。コーネル大学ホテル経営学部卒業後、ドイツ銀行で日本の不動産取引の組成・執行を担当。2008年にブラックストーンに入社し、国内における不動産投資案件の取得と管理運用に携わる(撮影:今井康一)

日本のホテルは「インバウンドで盛り上がっているだけだ」とよくいわれるが、すべての施設が同じというわけではない。京都のホテルはラグジュアリーの価格帯が絶好調で、ゴールデンウィーク期間は宿泊単価が40万円に達した部屋もあった。

反面、中~低価格帯は課題に直面している。1室あたり2名利用でも2万円に届かない。特に低価格帯は供給過多で、ようやくコロナ禍前の水準を超えた程度だ。大阪でも低価格帯はやや軟調だ。一方で、東京はホテルの供給が多いにもかかわらず、観光客の人数も多いため需給が緩む事態にはなっていない。キャッシュフローに改善余地のあるホテルは、今後も取得していきたい。

――ホテル以外で着目している案件は。

CRE(事業会社が保有する不動産)だ。これまでは資金繰りの観点から売却せざるを得なかった案件が多かったが、今後は資産効率を重視した戦略的な売却が増えてくるだろう。

アクティビスト(モノ言う株主)は日本企業に対して、企業価値向上を目的に不動産などの資産の売却を促している。この場合は通常の物件売買とは異なり、売却スキームの構築が重要だ。持ち分の一部を引き続き保有してもらったり、売却で得た現金を特別配当ではなく成長投資に回したりする方法も一緒に提案している。不動産の受け皿になるだけでなく、事業会社に価値向上につながる方策を一緒に提案する機会が増えている。

米国市場は底を打った

――他方で、ブラックストーンが運用するアメリカのREITは、一時は換金制限がかかるほど、投資家からの解約請求があると報じられました。

現地メディアはフローばかりを取り上げているが、最終的に重要なのはパフォーマンスだ。われわれのアメリカのプライベート不動産戦略は、2017年の導入以来、上場REITの2倍の年率リターンを実現している。REITの買い戻し請求についても完済した。投資家への長期的な価値を最大化しながら最大限の流動性をもたらすという目的を、立ち上げの当初から意図していた通りに果たしている。

CREに関してネガティブな報道もあるが、2022年以降200億ドル(約3兆円)を超える物件の売却も行えるなど、われわれのポートフォリオには強みがある。マーケットが軟調な中でも、この売却から40億ドル(約6000億円)を超える利益を出すことができた。

不動産価格は底を打ったと思われるが、何より重要なのはどこに投資するかだ。4月に訪れたサンフランシスコではオフィスに人が戻り始め、売買事例も少しずつ出てきている。もちろん、回復度合いは物件ごとに濃淡がある。ニューヨークの場合、多くの金融機関が集まる42~50番街のオフィスなら、空室率は10%前後。スタートアップやIT企業が集積する数字の小さい街区は、20%程度といった具合だ。学生寮やデータセンターなど、ポテンシャルのある物件にも投資していく。

(一井 純 : 東洋経済 記者)

ジャンルで探す