「誹謗中傷に関する法律」で追加された"規制"

誹謗中傷

ネットやSNSが広く普及し、誰もが発信することができる時代。誹謗中傷をしているつもりがなくても加害者になっているかもしれません(写真:kapinon/PIXTA)

ネットの誹謗中傷に関する法律「プロバイダ責任制限法」が、5月17日に改正され、1年以内に適用される見込みです。具体的には、法律名称が、「情報流通プラットフォーム対処法」(略称)と変わり、大規模プラットフォーム事業者に対する新たな規制が追加されることになります。

ネットやSNSが広く普及し、誰もが発信することができる時代。誹謗中傷をしているつもりがなくても加害者になっているかもしれません。ある日突然、被害者となることもあり得ます。この法律の位置付けと、今回の改正により何が変わったのかを解説します。

元々の法律はどういう内容?

元の、プロバイダ責任制限法(以下「プロ責法」といいます)とは、①プロバイダ等の損害賠償責任の制限(第2章)、②発信者情報の開示請求権(第3章)、③発信者情報開示命令事件に関する裁判手続(第4章)について定めた法律です。

上記の①は、プロバイダ等(これは、皆さんがネット利用契約を結んでいる各種プロバイダや、SNSサービス運営者等も含みます)が、投稿者からは「勝手に投稿を消すのは表現の自由の侵害なので損害賠償請求をする!」と主張され、投稿により権利侵害された人からは「権利侵害の投稿を削除しないので損害賠償請求をする!」と主張され得るいわば板挟み状態のため、プロバイダ等がプロ責法で定める要件を満たす対応をした場合には、投稿者や投稿により権利侵害された人に対して民事上の損賠償責任を負わないようにする、というものです。

これは、プロバイダ等だけを保護するためのものではなく、プロバイダ等が取るべき対応を法律で定めることで、プロバイダ等が権利侵害投稿の削除に応じやすくなり、またプロバイダ等による不要な投稿削除を防げるようになる、という意味で、私たちにとっても有益なものといえます。

②は、ネット上で権利侵害の情報が広がった場合に加害者を特定して損害賠償請求等を行うためには、第三者であるプロバイダ等に対して必票な情報の開示を請求することができる権利が必要であるため、その権利を新たに作った、というものです。

③は、発信者情報開示請求権に基づき裁判の審理を簡易迅速に行うことができるようにするため2021年の改正で創設された、新たな裁判手続(非訟手続)です。

今回の改正で何が変わる?

では今回の改正で何が変わるのでしょうか。

ネットの誹謗中傷は、匿名掲示板、SNS等の大規模なプラットフォームを中心に行われています。ネットの誹謗中傷を防止するために、今回の改正で、匿名掲示板、SNS等の大規模プラットフォーム事業者に対する規制が追加されることになりました。

大規模プラットフォーム事業者に課されることになった規制は複数あるのですが、ネットの誹謗中傷をされたときに直接影響してくる規制を抜粋して、概要を説明します。

①被侵害者からの申し出を受け付ける方法の公表
②侵害情報に関する調査の実施
③送信防止措置(≒削除)の申出者に対する通知
④送信防止措置の実施に関する基準等の公表

現状、誹謗中傷をされた人がその情報削除を求めようとしても、削除対応窓口がサイト上のどこにあるかよくわからない、というケースが多いですが、①により、削除対応窓口がわかりやすくなることが期待できます。

また、現状、誹謗中傷された人が削除対応窓口を見つけて削除依頼をしても、調査結果通知が来ない(または時間がかかる)というケースは、②および③により、自分の削除依頼につき調査がされ、その結果が通知されることが期待できます。もし削除されない場合であっても、削除しないという通知が早くに来れば、弁護士に相談する等、次のアクションを早く取ることができます。

そして、大規模プラットフォーム事業者が送信防止措置(≒削除)を取ることができるのは、原則として、事前に公表している削除基準等に従う場合となりますが、④により削除基準があらかじめ公表されることによって、問題とする投稿が削除基準に該当するか、判断をしやすくなることが期待できます。

5月22日に暴露系インフルエンサーの滝沢ガレソ氏がXで男性歌手に関する投稿をし、この投稿が短時間のうちに広く拡散され、その数時間後、アミューズが、滝沢ガレソ氏の投稿に関連して同社所属の星野源さんの名前を挙げての臆測が拡散されていることにつき声明を発表する、ということがありました。

影響力の大きいインフルエンサーの投稿や話題になっている投稿は、それらを閲覧したユーザーが引用して投稿することが多く、その結果加速度的に投稿内容が拡散していきます。

投稿の対象となるのは、著名人や芸能人だけではなく一般の方であることも多いですが、投稿対象となった方自身が同じ土俵(SNS等)で反論すると、より投稿内容が拡散する(炎上する)結果となる可能性があります。最初に行うべき対応として、「大規模プラットフォーム事業者への削除申出」を頭の片隅にとめておきましょう。

(宮川 舞 : 銀座数寄屋通り法律事務所 弁護士)

ジャンルで探す