梅雨入りは"遅め"だが「早々に大雨」で警戒地域も

今年の梅雨入りの傾向を気象予報士がお伝えします(写真:ひとり君/PIXTA)

6月に入り、いよいよ本格的な梅雨の季節の到来。今年の梅雨入りのタイミングや降水量の見通しを解説します。

今年は梅雨入り前から大雨に

まずは先月の天気の振り返りから。

5月末は、低気圧や前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込み、西日本や東日本を中心に大雨となりました(※外部配信先では天気図を閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。

天気図

【5月28日の日降水量】出典:weathermap

5月28日の日降水量は、繁藤(しげとう:高知県)で317.5ミリ、御嶽山(長野県)で304.0ミリを観測。御嶽山を含む全国75地点で、5月としては観測史上最も多い日降水量になりました。この時期としては、記録的な大雨だったといえます。

では、今年の梅雨はどうなるでしょうか。

沖縄の梅雨入りは記録的な遅さだった

沖縄と奄美は5月21日に梅雨入りして、梅雨入り早々に大雨に見舞われました。湿った空気によって、梅雨前線の活動が活発になり、沖縄を中心に発達した雨雲がかかったためです。

天気図

【5月21日の雨雲】出典:weathermap

沖縄の梅雨入りは平年日の5月10日より11日も遅く、1951年に統計を開始してから歴代5番目の遅さです 。

ところで、沖縄の梅雨入りが遅い年は、本州の梅雨入りも遅いのでしょうか?

過去の事例を調べてみると、なんと逆でした。

今年より沖縄の梅雨入りが遅かった4年(1963年、2018年、1976年、2008年)の関東甲信の梅雨入りは、いずれも平年より早かったのです。

沖縄の梅雨入りが統計史上最も遅かったのは1963年の6月4日ですが、同年の関東甲信の梅雨入りは5月6日で、統計史上最も早かったことがわかりました。

興味深い結果ではあるものの、これには明確な理由があるわけではなさそうです。むしろ、今年は本州では梅雨入りが平年より遅いでしょう。

天気図

【6月2日の天気図】出典:weathermap

6月2日の時点で、梅雨前線は沖縄付近に伸びていて、本州からは離れています。

天気図

【6月6日の雨雲の予想】出典:weathermap

6月6日の雨雲の予想です。南の海上に見られるのが梅雨前線に伴う雨雲で、6月6日になっても、まだ梅雨前線は本州から離れている見込みです。

現時点で太平洋高気圧の張り出しは弱め

梅雨前線の動きのカギを握るのは、太平洋高気圧です。太平洋高気圧が張り出すと、前線を北に押し上げるので本州も梅雨入りしますが、今のところは張り出しが弱い状況です。

そのため、梅雨入りの平年日は、九州北部は6月4日、四国は6月5日、中国地方・近畿・東海は6月6日、関東甲信は6月7日ですが、今年は平年より遅くなるでしょう。

すでに、九州南部は平年日の5月30日を過ぎていて、沖縄と同様に平年より10日くらい遅くなりそうです。

そして、梅雨入り早々、西日本を中心に大雨となるおそれがあります。

気象庁の3か月予報は、梅雨時期にあたる6月と7月の降水量は平年より多くなるところがあると見込んでいます。

天気図

【3か月予報(6月の降水量)】

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【3か月予報(7月の降水量)】出典:weathermap

月別で見ると、6月は沖縄・奄美、九州、四国、近畿太平洋側で、平年並みか多いでしょう。7月は九州、四国、中国地方、近畿、東海、関東甲信で、平年並みか多くなりそうです。

降水量が増える原因は太平洋高気圧

7月に先に挙げた地域で降水量が多くなる原因は、日本の南で太平洋高気圧が強まるためです。太平洋高気圧の周辺から暖かく湿った空気が日本に流れ込みやすく、降水量が多くなると予想されています。

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【予想される海洋と大気の特徴】出典:気象庁HP

近年、毎年のように大雨による災害が発生しています。

記録的な大雨のニュースでは、「線状降水帯」という言葉がよく使われ、今では「大雨の原因になる危険なもの」として市民権を得ました。

天気図

【2023年6月の雨雲】出典:weathermap

これは2023年6月、西日本と東日本太平洋側で大雨になったときの雨雲の様子です。四国から紀伊半島に見られる赤い楕円で囲まれている雨雲が、線状降水帯です。6月2日は、高知県、和歌山県、奈良県、三重県、愛知県、静岡県でも線状降水帯が発生しました。

24時間降水量は、鳥羽(三重県)で490.5ミリ、豊橋(愛知県)419.0ミリ、浜松(静岡県)328.5ミリなど、23地点で観測史上1位を更新しました。

線状降水帯予測の発表が詳細に

気象庁は、2022年から線状降水帯の予測を発表していますが、今年から新しくなった点があります。それは予測を発表する単位です。これまでは、関東甲信、近畿、九州南部など「地方予報区単位」での発表でしたが、今年から「府県単位」で発表されています。

より詳しい情報を得られるようになったことで、早めの心構えや避難など、命を守る行動につながるとして期待されています。

本来は5月28日から運用がスタートする予定でしたが、冒頭に挙げた大雨のため、1日前倒しして5月27日から運用されました。

5月27日、府県単位に変更されて最初に線状降水帯の予測が発表されたのは、鹿児島県(奄美地方を除く)と宮崎県でした。その後、奄美地方、徳島県、高知県、岐阜県、愛知県、静岡県にも発表されました。

今回は、結果的に線状降水帯は発生しなかったものの、発達した雨雲はかかったため、5月としては記録的な大雨になりました。

大雨による災害は、土砂災害、浸水、洪水に大別されます。

気象庁HPの「キキクル(危険度分布)」で、それぞれの災害の危険度を見ることができます。5月28日は、今年初めて氾濫危険情報が発表されました。京都府の淀川水系桂川中流・園部川です。

大雨への備えを忘れずに

天気図

【5月28日の洪水キキクル】出典:気象庁HP

黄色は「注意」、赤色は「警戒」、紫色が「危険」です。紫色は、避難情報の「避難指示」にあたります。

そして、黒色は「災害切迫」。すでに災害が発生しているか、いつ災害が発生してもおかしくない状況を指します。避難所に行くのも危ない場合、今いる建物や、すぐ近くの建物の2階以上のできるだけ高いところに逃げる「垂直避難」をしましょう。

ただ、そのような状況になる前に、安全な場所に避難することが望ましいです。

こうした防災情報は、平時から見慣れておくことが大切です。

まもなく梅雨前線や台風によって、大雨になりやすい時期がやってきます。今のうちに、備えておくようにしましょう。

(久保井 朝美 : キャスター、気象予報士、防災士)

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