空前の円安でも苦戦、電子部品"反転"の次なる本命

電子部品の大手3社のうち、村田製作所と太陽誘電は連続減益に沈んだ(撮影:今井康一)

記録的な円安の追い風を受けても、低空飛行に終わった。スマートフォンなどの電子機器に幅広く使われる積層セラミックコンデンサー(MLCC)の大手メーカーが、2023年度決算では軒並み苦戦を強いられた。

最大手・村田製作所の本業のもうけとなる営業利益は、2024年3月期が前期比27.8%減の2154億円、同じく大手の太陽誘電は同71.6%減の90億円に沈んだ。一方のTDKは同2.4%増の1728億円と増益ペースを守ったが、円安効果による押し上げ効果250億円の要因を除けば、実質減益だった。

電子部品は自動車関連の出荷は好調だったものの、スマホやパソコンなどの民生品向け、データセンターなどの設備投資用が伸び悩んだのが原因だ。最大の需要地である中国経済の不振も痛かった。

「当社業績への影響が大きいEV(電気自動車)や環境対応車の生産は、引き続き拡大している」。TDKの齋藤昇社長は4月26日の決算説明会で、そう強調した。同社は2025年3月期の世界自動車生産台数を91万台(前期比2%増)、このうちEVやHV(ハイブリッド車)などが26.4万台(同21%増)を占めると予測する。

自動車向けMLCCで圧倒的

足元では、テスラが2024年1~3月の販売台数を減少させるなど、EVシフト失速の懸念が伝えられる。ただ電子部品メーカー各社のIR担当者は「車の電装化が進む要因はEVだけではない」と口をそろえる。

先進運転支援システム(ADAS)などの普及は確実に進んでおり、エンジン車やHVでも1台当たりの電子部品搭載数は増加しているからだ。車載向けMLCCの世界シェアは村田製作所が1位、TDKが2位で、両社で8割以上を占めるとみられる。

スマホ向けのMLCCと比べると、車載向けはより高信頼性が要求される。サイズも大きく、高単価だ。自動車全体の生産台数は横ばいにとどまり、EVの勢いが鈍化したとしても、村田製作所やTDKにとっては業績の牽引役。村田製作所は2024年度のモビリティ関連の売上高が、前年度から約10%上昇すると予想する。

AI(人工知能)サーバー向けも期待を集めている。計算量が増える生成AIの利用が拡大すると、消費電力が増えるため、これまでより大容量のコンデンサーが必要となる。低迷していた従来型のデータセンター需要も、回復基調にある。

こうした背景もあり、2025年3月期は好調を見込む。村田製作所は営業利益3000億円(前期比39.2%増)、太陽誘電は200億円(同120.3%増)、TDKは1800億円(同4.1%増)の会社計画を掲げる。

民生向けは厳しさ脱せず

懸念されるのは家電など民生品の動向だ。村田製作所は電動工具向けリチウムイオン二次電池事業で在庫調整が長引き、前期に495億円の減損を計上。今期も数十億円の減損を見込む。

中国市場の動向も焦点となる。設備投資需要が伸び悩み、産業機器向け部品の需要が低迷している。太陽誘電は2024年度下期から回復すると見通すが、TDKの齋藤社長は「産業機器市場におけるFA機器全般の生産台数は回復の兆しが見えず、年間を通して弱含むと見込んでいる」と語る。

TDKは売上高の約50%を小型品を中心とした二次電池が占め、世界シェアトップだ。バッテリーとして使われるため、価格帯を問わずスマホには必須の部品となっている。民需の弱さから高級機種が売れにくくなり、先端品のコンデンサーなどが悪影響を受ける中でも、比較的堅調に推移した。

またTDKのコンデンサーは、自動車向けの高性能・高単価品が中心。顧客は安全性への配慮から簡単には廉価品へ切り替えられない。中国のEV関連部品で価格競争が激化し、モーター世界大手のニデックが駆動部品で部門赤字となる中でも、TDKは健闘している。

主戦場だったスマートフォン向けも低迷が続く。村田製作所によると2024年度の世界スマホ販売台数(部品取り込みベース)は、前年度比3%増の11.8億台が見込まれる。ピークだった2016年度の15.6億台には遠く及ばず、かつて電子部品業界の成長を牽引した勢いはない。

近年はiPhoneをはじめとするハイエンド品の価格が上昇傾向にあり、消費者の買い替えサイクルが長期化したのが原因だ。カメラなどの局所的な性能はモデルチェンジごとに良化しているものの、日常的な使用には旧式でも十分な機能を備えていることが、この傾向を後押しする。

さらにアメリカが半導体関連の輸出規制を強化した2020年、中国市場で隆盛していたスマホ大手ファーウェイが失速。ほかの地元メーカーが空いたシェアを奪おうと増産体制を整えたが、結局はAppleやサムスン電子に敗北し、大量の在庫を抱える羽目になった。

長い調整局面は2023年度後半に底を打ち、中国のスマホ市場は上向きつつある。ただ、台数が増加しているのは新興国向けの低価格帯機種が中心だ。太陽誘電の担当者は前期の大幅減益について、「値段が下がりやすい中華スマホ関連部品の割合が増えたため」と説明している。

生成AI搭載スマホはこれから

明るい話題もある。サムスン電子は4月、生成AIを搭載した「Galaxy S24」「Galaxy S24 Ultra」の2機種を日本で発売。ほかの競合セットメーカーも追従する流れで、買い替え需要の喚起が期待される。

ただ現状はソフトを載せているだけで基本的な設計は変わらず、部品の搭載点数が増えるわけではない。電子部品メーカー各社への好影響はまだ限定的との見方が強い。村田製作所の中島規巨社長は「AIチップを搭載したスマホの登場は、来年以降になってくると思う」と述べた。

中国需要の失速やスマホ需要一巡などの厳しい事業環境に直面した電子部品業界だが、ようやく長いトンネルを抜けつつある。自動車やAI関連を軸に反転し、新たな成長曲線を描けるか正念場だ。

(石川 陽一 : 東洋経済 記者)

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