二階元幹事長の「後継争い」で和歌山が大混乱

二階俊博氏(写真:時事)

巨額裏金事件で自民党の「一強態勢」が大きく揺らぐ中、その中心人物でもあった二階俊博元幹事長(85)の政界引退宣言を受け、地元・和歌山での「後継争い」が「何でもありの混乱状態」(自民選対)に陥っている。

「衆院10増10減」で小選挙区が3から2に減る和歌山では、事前の予想通り、二階氏の強固な地盤だった衆院和歌山新2区を巡る二階氏の長男・俊樹氏(59)と3男・伸康氏(46)による「後継争い」が激化。加えて、二階氏の“天敵”とも呼ばれる世耕弘成前参院幹事長(61)も鞍替え出馬を窺っているため、「今後の展開次第では、収拾不能になりかねない」(地元県連)からだ。

先の「4・28トリプル補選」の自民“全敗”で、政権維持に苦闘する岸田文雄首相(党総裁)は、裏金事件の“主役”の1人とされた二階氏について、次期衆院選不出馬表明を理由に「無罪放免」とする一方、後継争いについては、「当面様子見の構え」(自民幹部)とみられている。

これに対し、二階氏自身は「議員は引退しても、和歌山のドンの立場は変わらない」として、2人の息子を和歌山の国会議員とすることで「院政を敷きたい考え」(側近)だとされる。ただ、ここにきて、「体調不良で緊急入院した」との噂が飛び交う一方、後継争いを巡る“権謀術数”も顕在化し、関係者の間では疑心暗鬼が広がるばかりだ。

地元・町村会が3男に出馬要請

もともと、有力国会議員の後継争いは、「政界の風物詩」(政治ジャーナルスト)ではある。ただ、今回の二階氏後継を巡る「醜い身内の争い」(同)は異例。かねて二階氏は、「政治家と言っても、『家』をつけていいほどの器の人は数えるほどしかいない」が口癖だったが、その「二階家」が大揺れというのは皮肉でもある。

今回、身内の後継争いが表面化したのは、地元・和歌山県町村会が二階氏の公設秘書を務める3男・伸康氏に新2区へ出馬要請したのがきっかけ。同区については、旧3区選出の二階氏が出馬を予定していたが、裏金事件関与の責任を取る形で不出馬を表明し、後継については「地元の判断に委ねる」としていた。 

これに対し、同町村会は「二階(俊博)さんが和歌山県のため、国のためにやってきたことを秘書として全部見ているので、県のため、国のために即戦力として頑張っていただけると期待している」(岡本章会長=九度山町長=)と出馬要請の理由を説明した。

その背景には、かねて同町村会で「長男は『俺は二階の息子だ』とふんぞり返って嫌われており、2016年に地元の御坊市長選に出馬したが現職候補に惨敗している。これに対し、3男は物腰が柔らかくて、人あたりもいい」(町村会幹部)との意見が大勢だったことがあるとされる。

ただ、これに、地元事務所を取り仕切る長男・俊樹氏が反発したことで、一気に兄弟や関係者を巻き込んでの後継争いが本格化。関係者の間では「長男は簡単に引き下がるはずがない」(二階派幹部)との見方が支配的で、裁定役となるべき自民党本部は「うっかり手を出すと火傷する」と事態の推移を見守る構えのため、地元県連を舞台とした後継争いは「当面、収まる気配がない」(県連幹部)とみられている。

「世耕氏鞍替えで長男は参院」との“策略”も

この新2区を巡っては、さらに混乱に拍車をかけかねない要因がある。巨額裏金事件での「旧安倍派責任者」の1人として自民党から離党勧告を受け、無所属になった世耕氏が「虎視眈々と同区出馬による衆院鞍替えを狙っている」(自民幹部)とされるからだ。同氏周辺も「かねて衆院への”鞍替え”を公言し、それを阻止すべく圧力をかけ続けた二階さんが引退宣言したので、次期衆院選は2区出馬の最後のチャンスと考えているはず」(同)と指摘する。

そこで3男支持派が不安視するのが、世耕氏と長男の共闘だ。「2人は昨年の衆院和歌山1区の補選で自民候補を担いで共闘した。敗北はしたものの、それ以来、世耕さんと長男の関係は深まっている」(二階氏後援会幹部)とみられているからだ。そこで取り沙汰されているのが「世耕氏が長男・俊樹氏に参院の議席を譲り、その見返りとして俊樹氏が世耕氏の新2区出馬を支援する」(同)という両氏の“策略”だ。

これに関連して、次期衆院選で和歌山新1区からの鞍替え出馬を予定していた鶴保庸介参院議員(57)=和歌山選挙区=が、4月28日に地元和歌山市で記者会見し、鞍替え出馬断念を表明した。二階氏の引退表明や世耕氏の離党を受け、同党の県議有志や、県町村会の岡本章会長が鶴保氏に対し、参院議員にとどまるよう要請していたことを受けたものだ。

鶴保氏は会見の中で「声が中央に届きづらくなるのではないかと危惧されていた。県南部をはじめとする多くの地域の声を無視できない」としたうえで、「衆院選から撤退することのご批判は甘んじて受けなければならないが、引き続き、参院議員のまま和歌山県のみならず、国のために粉骨砕身努力をしたい」と強調した。ただ、関係者からは「世耕氏への当てつけのように聞こえる」(自民県連幹部)との声も出る。

二階氏の「関与」を否定する町村会会長

そもそも、二階氏自身は引退会見で「後継者は地元に一任」と明言した。しかも、4月21日の和歌山県連の会合を欠席したことで「心臓の疾患で都内の大学病院に入院中」という噂が広がる。その中で、今回の後継選びを主導する町村会・岡本会長も「町村会の出馬要請が二階氏と関係しているような報道もあるが、二階氏からも伸康氏でなんて話は一切ない」と二階氏の関与を否定する。

そうした状況も踏まえ、自民党和歌山県連は連休中の5月4日、和歌山市内で石田真敏衆院議員や鶴保氏、県議らが参加した「代表役員会」を開き、新1区と新2区の候補予定者を「原則、公募する」と決定。ただ、県連内で推薦があれば、同月中に開く「拡大役員会」に諮る方針も確認した。

役員会後、県連幹事長の山下直也県議は「公募方法や日程は今後詰める」としたうえで、伸康氏については「本人から県連に(出馬の意向の申し出を)頂いていない。(県連)内部の関係者が立候補することになった場合、拡大役員会に諮ることになる」と説明した。

そうした中、自民党内には「岸田首相は、引退表明した二階氏を裏金事件では無罪放免とすることで、自らの政治資金疑惑も棚上げするという“裏取引”をした。それだけに、後継選びも二階氏の意向を優先する」(選対幹部)とみる向きが多い。このため「世耕氏が鞍替え出馬して二階氏の息子と対決すれば、反党行為として自民党除名処分とすると脅しをかけるはず」(同)との声も漏れてくる。

トリプル補選の自民全敗を受けて多くの世論調査では「会期末解散はなくなった」との声が広がっていたが、5月に入って各種世論調査で内閣支持率が回復し始め、「岸田首相自身も会期末解散断行への様々な手を打っている」(官邸筋)とされる。このため、二階氏後継問題も早期決着を迫られるが、「二階家、地元、党本部の思惑が複雑に交錯するだけに、現時点では全く見通しが立たない」(自民選対)のが実態だ。

(泉 宏 : 政治ジャーナリスト)

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