日本でも台頭「Qコマース」1時間で商品届く仕組み

「タイパ」を重視する若い世代ほどQコマースとの親和性が高いという(写真:すとらいぷ/PIXTA)
「2024年問題」により、近年、何かと注目を集める「物流」。これまで「物流は『コスト』であり、最小化することに尽きる」と考える人が多かったが、現実はそうではないという。物流が「プロフィット=利益」を生むものだと考える会社は、競争に強いだけでなく、大きく成長するポテンシャルがあるーーそう指摘するイー・ロジット取締役会長兼チーフコンサルタントの角井亮一氏が「戦略物流」という考え方について解説します。

※本稿は、角井亮一氏の新著『顧客をつかむ戦略物流 なぜあの企業が選ばれ、利益を上げているのか?』から一部抜粋・再構成しています。

コロナ禍で一気に身近となったQコマース

コロナ禍での行動制限のもと、身近なサービスとして、新たに注目を集めたのが、ECからの注文後、15分から1時間程度で商品を届ける、「Qコマース(Quick Commerce)」です。

大きく分けて、IT系のスタートアップ企業が自前のEC専用の店舗(ダークストア)により運営するものと、フードデリバリーサービスを提供する企業がスーパーマーケットやドラッグストアとの協業により運営するものとがあります。

コロナ初期には、大都市圏を中心にサービスエリアが展開されていましたが、コロナが落ち着きを見せると、日常の買い物が不便な地域でのサービス提供も増えてきました。

一定額以上を購入すれば配送料が無料になるネットスーパーと違い、基本的には買い物金額のほかに配送料がかかるサービスのため、安定的な利用者の獲得には時間がかかる側面があります。

その一方でアマゾンやヨドバシエクストリームよりも早く、スマートフォンから注文してからさほど時間を待たずに商品が届くというメリットが、デジタルへの感度が高く、タイパ重視の若年層に響いているといわれています。

ダークストア型とストア活用型

このQコマースは、在庫の持ち方によっても2種類に分けられます。ひとつが自社在庫によるダークストア型で、もうひとつがストア活用型です。

(出所:『顧客をつかむ戦略物流 なぜあの企業が選ばれ、利益を上げているのか?』)

※外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください

ダークストア型の場合、自社の在庫を用いて、自転車やバイクなどにより30分未満で配達を行います。ストア活用型は他社の在庫を利用して、自転車やバイクで30分未満で配達するというものです。

なかには、在庫管理を含めた運営ノウハウを蓄積するためにダークストア型を運営しながら、そこからの知見を活かした配達サービスをシステムごと提供しているところもあります。

ダークストア型としては、LINEヤフー(Zホールディングス)内のグループ企業で一体的に運営する「Yahoo!マート」があります。

ストア活用型ではフードデリバリーサービスのWoltや出前館、Uber Eatsなどがスーパーマーケットやドラッグストアと提携して(あるいはプラットフォームへの出店により)サービス展開するもの、エリアによって両者を使い分けているところとして日本のベンチャー企業が運営する「OniGO」があります。

「Yahoo!マート」は、ヤフーのECプラットフォーム、出前館のデリバリーサービス、BtoB向けのアスクル、BtoC向けのLOHACOを運営するアスクルが一体となって運営するダークストア型のQコマースで、出前館、専用アプリ、Yahoo!ショッピングから注文できます。

当初の実験段階では「PayPayダイレクト by ASKUL」というサービス名で展開していましたが、本サービスとなる際に、消費者によりなじみのある名称としてYahoo!マートに変更されました。

ダークストアは、東京に21拠点、千葉に1拠点あり、半径4㎞を対象に最短15分〜1時間程度で出前館のスタッフが配達します(送料は200円から)。ダークストアのなかには来店購入可能な店舗(2店舗)もあります(執筆時点)。

「OniGO」はベンチャー企業のOniGOが運営するQコマースです。配送スピードで他を圧倒するサービスにしたいということから、“鬼のように早く”という意味をもたせてOniGOとネーミングしました。

配達エリアを狭めて、とにかく早く配達する

注文から「10分以内で配達」を基本とすることの裏返しとして、1配送拠点当たりのデリバリーエリアは、Yahoo!マートに比べ最大でも4分の1の範囲という半径1〜2㎞圏に限定しています。

配達可能時間は10時〜22時。比較的所得の高い世帯の、小さな子どものいる主婦がメインターゲットで、生鮮食品、冷凍食品を含む食品から、洗剤や紙おむつなどの日用品までを配達しています。

スーパーマーケットなどとの提携により、首都圏1都3県中心にカバーエリアを面状で拡大しており、対象世帯数は1000万世帯を超えています。

OniGOは、食品を軸とした小売市場は48兆円あり、そのうち2兆円がコマースになると見積もっており、そこでシェア50%を獲得すれば売上1兆円になるという成長モデルにより、ベンチャーキャピタルから10億円を超える資金調達も行っています。

システムは自社開発。日々の自社運営および提携によるQコマースから得られたデータや知見は随時、受注や配送を含む運用システムに反映されていきます。今後はデリバリーサービスのみならず、システムの提供なども行っていく計画です。

Woltは北欧、フィンランド発のデリバリーサービスで2020年3月、新型コロナウイルス感染症の拡大が始まったタイミングで日本国内でのサービスをスタートさせました。

日本進出後、米国で同様のサービスを展開するDoorDashにより買収されましたが、日本ではWoltとして展開しています。

飲食店中心のデリバリーを手始めに、大手スーパーやドラッグストアなどと提携し、エリアを限定し最短30分程度で届けるQコマースのデリバリーサービスを提供しています。

当初はダークストアの運営にも乗り出していましたが、その後、デリバリーサービスに特化しています。

Qコマースは日常の買い物チャネルになれるか?

Qコマースのメリットは、注文後、とにかく早く手元に届けられることにあります。

日常の生活のなかで、果たして、この強みが最大限発揮されるシーンがどれだけあるのか。類似の宅配サービスである、ネットスーパー、生鮮食品のサブスクサービスと比べてみると、次のようになります。

ネットスーパーは、日持ちのする葉物野菜を含め、2〜3日分の食材をまとめて購入するというパターンが多いといわれています。次にサブスクの場合は、週回、定期的に有機野菜のように差別化された商品を購入する傾向があります。

それに対しQコマースは、たとえば料理中など手が離せない状況にあって「こしょうが足りない」「ソースを切らしていた」といった急場をしのぐときには便利に使えそうです。

そうしたQコマースでなければ助けにならないときに「ついでにこれも買っておこうか」と思わせられるような品揃えを用意できるかも、Qコマースの利用機会を高めるためには重要になってくるでしょう。

現状、流通大手はというと、デリバリーサービスとの提携により、一部でQコマースを提供しているほかは、本格的に参入する気配すら感じられません。なぜなのか。

Qコマースはプラットフォーム事業です。アマゾン・ドット・コムをみれば明らかなように、投資を続けて、市場を掘り起こし、そこから数年かけて儲けの出る事業に育っていきます。

現状ではまだ、どのくらいの規模の市場が見込めるかもわからず、見えているのは、当面、先行投資がかさむということだけです。

上場企業の場合、株主への説明が難しく、収益化までの時間が見えにくいものにはなかなか参入が許されません。

それよりも、目先の利益でいえば、商品の調達力では流通大手のほうが圧倒的に実力は上ですから、Qコマースをサービスとして提供するのであれば、デリバリーの部分だけ借りればいい、という考え方に行き着くのは当然です。

若い世代が重視するのは「送料」より「タイパ」

しかしながら今後はわかりません。Qコマース利用のネックになりそうな送料負担について、いまの20代、30代は送料を支払うことに抵抗感がありません。

顧客をつかむ戦略物流 なぜあの企業が選ばれ、利益を上げているのか?

彼らは、それよりも、タイパを優先しますから、Qコマースを利用する機会は増えていくでしょう。

また買い物が不便な地域では、移動販売車での買い物の場合、その利便性こそが重要で、商品ごとに手数料を支払うことにも慣れてきています。

スマートフォンでの操作に不慣れな人がいれば、離れたところに暮らす家族が代わりに発注することも、システム設計上は可能です。

ただし、いまの姿の延長として、複数のサービス事業者が、適正な利益を上げながら、市場シェアを分け合うという構造は、想像しづらいと考えられます。

現在のプレイヤー同士の統廃合が進むか、ある段階で大手が事業を買い取るかといったかたちで、Qコマースのプラットフォームが残っていくという可能性もあるでしょう。

(角井 亮一 : イー・ロジット取締役会長兼チーフコンサルタント)

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