実は仕事ができない「論理的すぎる人」の深刻問題

直感と論理

直感も論理も自由自在に使いこなして成果を上げる「バランスのいい人」になる方法をご紹介します(写真:jessie/PIXTA)
「数字に弱く、論理的に考えられない」
「何が言いたいのかわからないと言われてしまう」
「魅力的なプレゼンができない」
これらすべての悩みを解決し、2万人の「どんな時でも成果を出せるビジネスパーソン」を育てた実績を持つビジネス数学の第一人者、深沢真太郎氏が、生産性・評価・信頼のすべてを最短距離で爆増させる技術を徹底的に解説した、深沢氏の集大成とも言える書籍、『「数学的」な仕事術大全』を上梓した。
今回は「直感と論理」について取り上げ、直感も論理も自由自在に使いこなして成果を上げる「バランスのいい人」になる方法を紹介する。

「論理的思考しかできない人」はもったいない

「数学的」な仕事術大全: 結果を出し続ける人が必ずやっている

仕事柄、企業研修の現場やメディアの取材などでビジネスパーソンの能力やスキルという文脈で話をすることがたくさんあります。そのような場において頻繁に話題になるのが、「論理的思考」についての話です。

論理的思考は、ビジネスにおいて非常に強力なツールです。私自身、ビジネス数学の教育者として、論理的思考を推進する立場です。

しかし、論理的思考を重視しすぎると、「論理的思考しかできない人」になってしまうことがあります。

そのような方の中には、「僕は徹底的にロジカル派です。直感だけで行動するタイプとは仕事をしたくありません」といって、直感を排除してしまう方もいます。

一方で、「私は直感を大切にするタイプです。ロジック云々とかいう人はちょっと距離を取ってしまいます」といって、論理的思考を自ら遠ざけてしまう方もいます。

このような極端な思考に陥ってしまうと、たいていの場合、仕事で成果を出すことが難しくなってしまいます。

そもそも、直感と論理は対極にある、共存できないものではありません。この2つは共存するし、仕事で成果を出したいのであれば共存させなければいけません。

勝手に「直感派or論理派」と分類(分断)してしまうのは少しばかりもったいないと思っています。論理は直感があるから活きるし、そのまた逆も然りです。

仕事で成果を出している人を見ていると、とにかく直感と論理のバランスがいいのです。

私は取材などの場で(ありがたいことに)次のようなフィードバックをいただくことが何度もあります。

「深沢さんは直感と論理のバランスがすごくいい、稀有な存在ですよね」

なんとも恐縮の極みですが、しかし確かに私はこの2つのバランスを取ることに関して強烈に意識して生きてきたことも事実です。

そこで今回は直感と論理のバランスが悪い人の特徴を私なりに整理し、うまくバランスを取っている人が押さえているポイントをご紹介します。

直感と論理は「コラボの関係」

直感と論理のバランスが悪い人が何より残念なのは、直感と論理が補完関係にあることをご存じないことです。具体的に説明しましょう。

★数字や論理をつくるために直感を使う

Amazonのレビューやさまざまなアンケートには、5段階のスコアをつける作法があります。そのスコア(数字)は人間の「良い」「悪い」という主観を極めて直感的に言語化しているものです。

ビジネスパーソンはその数値化されたスコアを用いてさまざまな分析や評価をし、論理的な解釈を構築します。つまり数字や論理をつくるために直感を使うのです。

★直感を説明するために数字や論理を使う

数学などの分野は、まずは直感が思考のスタートになることがあります。「この角度Aと角度Bは同じではないだろうか?」「円周の長さと直径には、一定の比率があるのではないだろうか?」といったものです。そしてその直感を説明し、正しいことを証明するために数字や論理を使っていきます。

ビジネスにおいてもなんとなく直感的に思ったことを検証するために論理を使ったり、自分の直感が正しいと説明するために(後づけで)もっともらしい論理を使うこともあるでしょう。

以上のように、論理の起点に直感があったり、直感を輝かせるために論理が必要になったりするのです。

いわゆる「バランスのいい人」とは、この2つの往来が自由にできる人のことを指します。物事を数値化してロジカルに仕事ができる人も、最古に人類の大発見をした数学者も、直感、あるいは論理だけで成果を出しているわけではないのです。

補完関係とは、いわゆるコラボの関係と私は考えています。たとえば異なる2社がコラボして商品開発したりマーケティング施策を打ったりする事例はたくさんありますが、それが成立するのは両社が補完関係を築くことで単体ではできないことが実現できるからです。

直感と論理はコラボの関係。そう考えると、「直感派or論理派」と分類してしまうことがいかに愚かなことかわかるはずです。

攻めの直感、守りの論理

私は直感と論理を状況で使い分けています。あくまで私個人の価値観であり、あなたに押し付けるものではありません。具体的には次の通りです。

・攻めのときは直感
・守りのときは論理

ビジネスには「攻めるとき」と「守るとき」があります。たとえば会社員を卒業して起業したタイミングは「攻めるとき」でしょう。そんな状況においていつまでも冷静かつ論理的に状況分析し、慎重に正解を探そうと時間を費やすことに意味はありません。まずは直感を信じてどんどん行動し、たくさんの“間違い”を体験することが成功の最低条件です。

逆に経営が苦しい状況は守りのスタンスが必要でしょう。ここで直感だけで闇雲に行動することは傷口を広げることになりかねません。現状を打破するためには、数字をしっかり見て論理的に解決手法を探る仕事が重要です。

ビジネスがうまくいかない人はたいてい、今は攻めるときなのか守るときなのかがわかっていません。直感と論理のバランスが悪いのです。成果を出す人は、絶対にここを間違えません。

唐突ですが、あなたは稲盛和夫氏をご存じでしょうか。若くして創業した京セラを世界的企業に成長させ、第二電電(現KDDI)を設立、破綻の淵にあった日本航空を再生するなど、その多くの功績から「経営の神様」と称えられた人物です。その稲盛氏の言葉に次のようなものがあります。

「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」

個人的にとても好きな言葉です。この言葉をお借りし、私なりの解釈を加えるとこうなります。

「攻めの姿勢で構想し、守りの姿勢で計画し、攻めの姿勢で実行する」

「直感的に構想し、論理的に計画し、直感的に実行する」

構想と行動は直感も頼りにし大胆にすべきですが、計画は論理を頼りにして慎重に。直感と論理のバランスがいいとはどういうことかという問いのひとつの答えになっているように思いますがいかがでしょうか。

(深沢 真太郎 : BMコンサルティング代表取締役、ビジネス数学教育家)

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