東武伊勢崎線「埼玉の北端」羽生周辺に何がある?

東武伊勢崎線 羽生駅

羽生駅南側の踏切から駅構内を見る。いちばん左の線路は、秩父鉄道を介する車両輸送で使われる(撮影:鼠入昌史)

東武伊勢崎線の東武動物公園駅までの区間の愛称である東武スカイツリーライン。その電車に乗って直接行くことのできる北限は、だいたいの場合で久喜駅か南栗橋駅である。地下鉄から直通する電車も同じこと。つまり久喜駅や南栗橋駅は、”都心直通電車の北限”のような位置づけなのだ。

その北限を越えて先にゆくと、どんな風景が広がっているのだろうか。久喜駅ではスカイツリーライン方面から来た電車と同じホームで乗り換えることのできる館林行きの電車に乗ってみた。

日中は特急が停まらない区間

終点の館林駅は、いうまでもなく群馬県の都市。もう1ついうと、日中の特急「りょうもう」に乗ると、久喜―館林間はほとんどがノンストップ。この間にどんな駅とどんな町があるのか、あまり意識することがなかった。

そんな反省を込めつつ、久喜駅、そして久喜駅長が管理する鷲宮駅を過ぎると、花崎駅に着く。ごくありふれた相対式ホームを持つ橋上駅。南北には立派なロータリーと住宅地。ただ、これといって大きな特徴があるようにも思えない……。

【画像】東武伊勢崎線の「埼玉県の北限」、花崎から羽生までの各駅に何があるのか(20枚以上)

「花崎駅は、学生さんの駅なんです」

こう出迎えてくれたのは、東武動物公園駅管区羽生駅長の相良紀章さん。久喜以北館林以南のうち、花崎―茂林寺前間の6駅を預かる駅長さんだ。

東武鉄道 相良紀章羽生駅長

東武伊勢崎線の花崎―茂林寺間を管理する相良紀章羽生駅長(撮影:鼠入昌史)

「花崎駅の近くには、花咲徳栄高校や平成国際大学があって、通学時間帯には大変にぎわいます。普段は1人勤務の駅なんですが、まだ通学慣れしていない学生さんの多い4月には、羽生駅から助役が応援に駆けつけて対応しています。だいたい2週間くらいたつと、みなさん慣れてきてくれるのですが」(相良駅長)

東武伊勢崎線 花崎駅ホーム

花崎駅のホーム。相対式でそれほど広くないホームだが、通学時間帯は学生たちであふれかえるとか(撮影:鼠入昌史)

平日の真っ昼間に訪れたからか、花崎駅には学生の姿はなかった。ただ、駅の周りには自転車預かり所や駐輪場がいくつも設けられている。このあたりは、いかにも学生の町ならではといっていい。ちなみに、花咲徳栄高校は2017年の夏の甲子園で優勝したこともある埼玉県内屈指の野球強豪校。1500人を超える生徒を抱えている。

「こいのぼりの町」の玄関口

花崎駅を後にすると、ほとんど一直線に北西に向かう。方向を少し北へと転換するあたりに置かれている駅が、加須駅だ。人口約11万人の加須市の玄関口である。だから、駅の設えも花崎駅などと比べるといくらかデカい。立派な橋上駅舎のコンコースに出ると、そこにあしらわれているのはこいのぼり。加須の町は、こいのぼりで有名なのだとか。

「毎年5月、加須では世界一大きなこいのぼりを揚げるんです。これがちょっとした名物になっていましてね。最近では近くに大きな病院もできまして、通院で使うお客さまも増えています」(相良駅長)

東武伊勢崎線 加須駅構内

赤や青、緑に彩られた加須駅構内。世界一のこいのぼりの町だ(撮影:鼠入昌史)

加須の中心市街地は駅の北側だ。北口には東武ストアの入る駅ビル「かぞマイン」が併設されていて、ロータリーを抱える駅前広場。その周囲には住宅地が広がっている。駅長こそ置かれていない駅ではあるが、利用者数でみれば駅長のいる羽生駅ともほとんど変わらないという。そんなロータリーの一角でも、こいのぼりがはためいていた。

東武伊勢崎線 加須駅北口

加須の中心市街地は加須駅北口側に。駅ビルも入った立派なターミナルだ(撮影:鼠入昌史)

加須駅を出ると、またまた引き続いて東武の電車は直線で駆け抜ける。関東平野を直線で、というのは東武の路線の大きな特徴だ。これはつまり、開業当時の東武沿線はほとんど町という町もない田園地帯だったということだろう。いま、東武沿線に広がるベッドタウンは、まさに東武あってこそ生まれた市街地ということでもある。

「この辺りまで来ると、駅と駅の間は田園地帯が目立つようになってきます。都心から北関東に向けての助走区間といったところでしょうか。だから、のどかさもあって、それでいて利便性もそこそこで。住みやすいところだと思いますよ」(相良駅長)

ホームの不思議な「キロポスト」

南羽生駅もそうした駅の1つだ。直線区間の真ん中にあって、駅の構造は相対式2面2線。改札口は南側にあるだけで、上下のホームは跨線橋で結ばれている。実にシンプルなこの構造は、北関東の小駅でもよくお見かけするパターン。いよいよ群馬近し、を実感させてくれる駅ということか。

南羽生駅ホーム 56kmキロポスト

南羽生駅ホームには56kmのキロポスト。なぜホームの上にあるのかはナゾ(撮影:鼠入昌史)

そんな南羽生駅の下り線ホームの真ん中には、56kmのキロポストが立っている。ホームの上のキロポストというのはめずらしい。相良駅長に聞いてみると……。

「めずらしいですよね。なんでホームの上にあるのかは……不思議ですよね(笑)。ホームの壁がもっと線路側にあったとか、駅が移動した結果、ちょうどホームの上になってしまったとか、いろいろな話がありますが正確なところはわかりません」(相良駅長)

駅の周りは小さな住宅地。ただ、南側に向けて徒歩で30分ほどのところには、イオンモール羽生が鎮座している。

イオンの駐車場がゆるキャラの祭典・キャラクターさみっとの舞台になったこともあり、昨年はイベントにあわせて南羽生駅利用者には羽生市からグッズがプレゼントされたという。相良駅長は「私たち駅としても一緒になにか盛り上げたい」と話してくれた。

そう、羽生はゆるキャラの聖地だ。コロナ禍の一時期を除いて2010年から毎年開催されており、2023年秋の第12回世界キャラクターさみっとでは、国内外から155体のゆるキャラが集まったとか。なかなかのビッグイベントといっていい。

羽生駅 ゆるキャラ

羽生駅の自由通路には、羽生で生まれたゆるキャラが(撮影:鼠入昌史)

羽生市のターミナルである羽生駅でも、橋上駅舎の自由通路にはそうした旨の一角があって、ゆるキャラの聖地であることを教えてくれる。毎年秋のキャラクターさみっとは、羽生の町にとっての一大イベントなのだろう。

車両の輸送の拠点

そんな羽生の町も、普段の姿はごく普通の住宅地。藍染めが名産品で、自由通路ではゆるキャラと並んでこちらのアピールにも余念がない。また、羽生駅には秩父鉄道も乗り入れている。車両の検査などで東武東上線の車両が輸送されてくるときには、この駅で秩父鉄道から伊勢崎線に引き渡されるのだとか。

東武伊勢崎線 羽生駅

羽生駅自由通路から北を見る。右手が東武伊勢崎線。左手が秩父鉄道の線路だ(撮影:鼠入昌史)

東武伊勢崎線 羽生駅東口

羽生駅東口の広場。小さなロータリーの脇には、カラオケ店や居酒屋の入った商業ビルも(筆者撮影)

「加須駅と羽生駅は、朝夕には特急『りょうもう』も停まるんです。特急に乗れば、北千住まで1時間もかかりません。それに、高速道路のインターチェンジもありますし、イオンもある。だから、最近も結構新しい住宅ができたりして、新たに住みだした人も少なくないんですよ」(相良駅長)

東武伊勢崎線 羽生駅

羽生駅の西口。秩父鉄道のホームは西側にある(撮影:鼠入昌史)

そして、自由通路の一角には、「りくはしメモリアルボード」なるものが。りくはしとは陸橋、つまり駅を跨ぐ跨線橋のことだ。いまの自由通路や橋上駅舎ができるよりもはるか前、駅の東西を線路の上を跨いで移動する人もいて、事故もたびたびあったという。

駅に眠る小さなドラマ

当地の実業家・金子専一さんが、事故の悲劇を見て「りくはしがあったなら」と涙した妻の思いに応え、私財を投じて跨線橋を設けたのだという。1963年のことだ。

羽生駅西口 りくはし記念碑

羽生駅西口には、かつてあった「りくはし」の記念碑が建つ(撮影:鼠入昌史)

いまの羽生駅は、駅舎改装によって自由通路が設けられており、その当時の“りくはし”は消えている。しかし、当時の金子夫妻の思いはいまも受け継がれているといったところだろうか。東武伊勢崎線で埼玉県最北の駅、羽生。ここにも、小さなドラマが眠っているのであった。

(鼠入 昌史 : ライター)

ジャンルで探す