大谷の「ドジャース流起用法」カギ握る監督の采配

現役時代は俊足巧打の外野手として鳴らしたロバーツ監督
昨季まで11年連続でポストシーズン進出中のドジャース。率いるのは沖縄生まれの日系アメリカ人、デーブ・ロバーツ監督だ。スター選手揃いのドジャースでは目立たない監督だが、その手腕はどう評価されているのか?
半世紀以上にわたったMLBを見続けてきた大リーグ評論家・福島良一氏、日本語版公式「MLB.JP」の村田洋輔編集長、MLB中継の実況担当・DJケチャップ氏3人の共著『ドジャース大谷翔平を徹底解剖! MLBを100倍楽しむ本 2024年版』から一部引用・再編集して、ロバーツ監督の戦術と大谷起用法について論じます。

実はあまり権限が大きくないロバーツ監督

DJケチャップ(以下、ケチャップ) ロバーツ監督は投手交代のタイミングについて、僕はあまり上手ではない監督だと見ています。

福島良一(以下、福島) 確かに、そこはメディアから時折、批判されていますね。

村田洋輔(以下、村田) ロバーツ監督が持っている権限は、そもそもそんなに大きくないんです。

今のMLBは、球団側が「全権を差し上げます。采配してください」というクラスの名将を除いて、だいたいが基本的にはフロントの“操り人形”となるケースが多い。

戦術から選手の起用法まで、フロントが全部プランを考えているんです。

ケチャップ 実際に采配している監督は2023年なら、それぞれシーズン後に勇退したガーディアンズのテリー・フランコーナ監督(※1)とか、アストロズのダスティ・ベイカー監督(※2)くらいじゃない?

※1……2004年にレッドソックスを86年ぶりのワールドシリーズへ導き、07年も世界一に。現ガーディアンズを率いた13、16、22年にア・リーグ最優秀監督賞
※2……監督として5球団で26年間指揮。ジャイアンツで最優秀監督賞3度。アストロズ監督としては2021年から3年連続地区優勝、22年はチームを5年ぶり世界一に導いた

村田 ワールドシリーズを制したレンジャーズのブルース・ボウチー監督もそうかもしれない。

だから、数年前のポストシーズンでも、ロバーツ監督は先発投手を決めるのに必要な6~7票のうち、1票分の権限しか持っていない話がニュースになっていました。

あくまでも意思決定者のうちの一人という立場です。

データを上手に活用するのがドジャース流

ケチャップ データで選手を再生させるうまさがあるチームだなという印象があります。

データを重視するから、たとえば6回2死まで来たのに「え? ここで代えるの?」というタイミングで先発投手を代える采配をするのがロバーツ監督というか、ドジャースですね。

村田 フロントが言っているから、従わなければいけないということですよね。極端にいえば、フロントの指示に従った結果、その采配が裏目に出たとしてもチーム全体の責任。

ケチャップ 確かに。監督の責任ではないね。

村田 そう。だけど、球団の方針に逆らって、監督の直感だけで決めた采配で大失敗したら、それはもう監督の責任になってしまうので。

ケチャップ だから、球数もきっちり投げさせると思います。2025年に復活予定の「投手・大谷」(※3)がいいピッチングをしていて、本人が「もう1イニングいきたい」と言ったとしても、おそらく「NO 」と言うのがドジャースだと思います。

※3……昨年9月に右肘のトミー・ジョン手術を受け、今季は打者専念。投手としての復帰は2025年予定

村田 エンゼルス時代のように、100球以上投げての完投、完封はなくなってくるでしょう。フロントが「今日の試合は球数が100球に到達する前に代えなさい」と指示したら、たぶんロバーツ監督はそれに従います。

ロバーツ監督は8年連続でポストシーズン進出を果たしているけれど、ワールドシリーズでは1度しかチャンピオンになっていない。それでもクビにならない理由は、フロントに忠実な監督だからでしょう。

福島 大谷選手は昨年、あの「野球史上最高の日」と言われた7月27日のタイガース戦ダブルヘッダー第1試合に自ら続投志願して初完封したけれど、結果的にそのあとケガをしました(※4)もんね。

※4……昨年8月23日のレッズ戦でダブルヘッダー第1試合に先発も、2回の投球中に緊急降板。右肘負傷で投手としての登板をとりやめ、9月4日には右脇腹を負傷したためシーズン中の復帰を断念

チームの勝利が最優先になる「これからの大谷」

村田 これからの大谷選手は、自分が思うように「打って投げて」をやるというよりは、チームの勝利が最優先になる。全試合出場がなくなる可能性もあり得ます。

たとえば、チームとしてフリーマン、ベッツ、マックス・マンシーを休ませるためにDHで起用したい場合は、週1回は「じゃあ、大谷選手、今日は休みましょう」という可能性は十分にある。

大谷選手は試合に常時出場したいタイプですが、そのこだわりを捨ててでもドジャースを選んだんじゃないですかね。

ケチャップ 日本から渡米して現地でドジャース戦を観戦するなら敵地開催、とくにアリゾナ・ダイヤモンドバックス戦がおすすめです。

試合数も多いし、日本から行きやすい。ほかにナ・リーグ中地区のパイレーツ戦(6月4~6日)も狙ったほうがいいですよ。

もはや入手困難なドジャー・スタジアムのチケット

もう、ドジャー・スタジアムのチケットはなかなか買えない。ナ・リーグ西地区は、パドレスのサンディエゴでも入手は難しいし、ジャイアンツのサンフランシスコも球場のキャパシティーがそれほど大きくないから。

ドジャース大谷翔平を徹底解剖! MLBを100倍楽しむ本 2024年版

福島 ドジャースは10年連続で観客動員数ナンバーワンですから。西地区の試合で入場できるなら、ロッキーズの本拠地コロラド州デンバーなど。

ケチャップ 東地区のニューヨーク・メッツ、ブレーブス、フィラデルフィア・フィリーズ戦は難しい。マーリンズ戦はいいかもしれない……というくらい、なかなか見ることができないほどチケット入手は大変です。

福島 ドジャースのチケットは、現地でチケット専売業者に頼むしかないですよ。高額なんだけどね。1995年にドジャース入りした野茂英雄氏が活躍していた時代(※5)もそうでした。

※5……野茂は1995年5月にメジャーデビューを果たし、13勝6敗、236奪三振で新人王と奪三振王を獲得。オールスターにも出場した。翌96年にはノーヒット・ノーランも達成

ケチャップ 今までならエンゼル・スタジアムに行って、空いている席で安いチケットをパッと買えましたが、もうそういうことはできない。ドジャー・スタジアムはちゃんと予約して行かないと絶対入れないですよ。

福島 可能な限りドジャー・スタジアムで大谷選手を応援してほしいなあ。最高に雰囲気がいい球場なんですよ。というのも、男性が女性をデートに誘いたくなるような球場なんです。だから、毎試合のように超満員になるんですよ。

(福島 良一 : 大リーグ評論家)
(村田 洋輔 : MLB.JP編集長)
(DJケチャップ : スポーツDJ)

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