ナイジェリア「ブルーライン」で超加速経済を体感

ナイジェリアの新鉄道(LRMT)、通称「ブルーライン」

ナイジェリアの新鉄道(LRMT)、通称「ブルーライン」(写真:AAIC)
ナイジェリアの最大都市ラゴスのビジネス街であるラゴス島から西部の住宅街を結ぶラゴス鉄道大量輸送機関(LRMT)、通称「ブルーライン」が2023年9月に開通しました。交通渋滞を解消するための市民の移動手段ですが、観光客にもお薦めです。ほぼ高架のため、ラゴスの街が一望できるからです。近代的なラゴス島の都市中心部から、ごみの中間集積所、郊外の住宅街など、30分程度で普段は見ることができない街並みまで見ることができます。

駅入口に「自動小銃」を抱えるセキュリティーガード

出発駅はラゴス島のマリーナ駅。ナイジェリア南西部にあるこの島はラゴスの中心地です。ラゴス島は元白人居住地で、ラゴスの中では、その下のビクトリアアイランド(VI)とならんで最も高級なエリア。マリーナ駅の周辺は旧市街地で、海沿いはコンテナヤード、陸沿いはビジネスセンター街として多くのビルが建っています。広場などもありますが、露店もたくさんでており、アフリカ特有の活気とカオスが入り混じっています。

ブルーラインは、朝6時から夜21時まで15分間隔なので1時間4本、1日片道36本、往復72本を運行しています(2024年1月時点)。朝夕は、会社員や学生、昼間は若者や女性、カップルが利用しています。まだ、全線が開通していませんが、朝夕はたくさんの乗客がいます。

マリーナ駅(写真:AAIC)

駅の入り口から入ると、まずはセキュリティーチェックを受けます。簡易的な金属探知機の下を通るだけなのですが、近くには自動小銃を抱えるセキュリティーガードが立っています。

日本人の感覚だと、鉄道なのに、なぜ、セキュリティーチェックを受ける必要があるのかと思うかもしれません。ラゴスは、アフリカの中でも治安が悪いことで有名です。この駅のあるエリアはラゴスの中では安全なほうではあるのですが、セキュリティーチェックは必須です。テロリスト・暴漢・怪しい人を牽制し、乗車を防止するためです。

マリーナ駅のセキュリティーチェック

マリーナ駅のセキュリティーチェック(写真:AAIC)

運賃はキャッシュレス決済のみ

駅の構内は、田舎の私鉄のようです。まだ、小さなお店が2軒と自販機が2つ、トイレもちゃんとあります。プラットフォームに降りると中国の鉄道モデルで、キオスクや自販機のようなものはいっさいありません。上の構内で飲物などは買っておく必要があります。

運賃は完全にキャッシュレス決済で、現金での乗車はできません。交通系ICカードの「Cowry」を500ナイラ(約0.5ドル/約75円、2024年1月時点)で購入し、タッチして改札を通過します。運賃は往復1500ナイラ(約1.5ドル/約220円/2024年1月時点)です。

Cowryカードは中国製、仕組みはフェリカの仕組みのようです(フェリカは技術を開放しているため、中国でも広く使われている)。

Cowryカード

Cowryカード(写真:AAIC)

定刻発車、車内飲食・喫煙禁止

ナイジェリアのバスなどでは遅延の印象が強い「アフリカ時間」が一般的で、予定の出発時刻が決まっていてもお客が埋まるまで出発しません。でも、「ブルーライン」は定刻発車をウリにしているため警備員が「No African Time!」と叫ぶ声がよく聞こえます。

駅ホーム

定刻発車がウリ(写真:AAIC)

飲食禁止により車内はきれいな状態が保たれていました。いままでは交通手段はバスしかなく、こちらのほうはカオスでした。飲食、喫煙……おかまいなしのなんでもありです。ブルーラインは高水準のサービスにより既存の交通手段との差異化を図っている印象でした。

禁止マーク

車内飲食・喫煙は禁止(写真:AAIC)

ブルーラインは27kmの鉄道路線で、現在、マリーナ、ナショナル・シアター、インガム、アラバ、マイル2の5つの駅を含む第1フェーズ(13km)まで完成しています。建設したのは中国土木建設総公司です。第1フェーズは1日25万人を輸送可能で、第2フェーズで27kmに拡張し、完成すると、1日50万人を見込んでいます。

車窓から見えるカオスな街並み

ラゴス島のマリーナ駅を発車すると、しばらくは進行方向左手に海が見えます。ナイジェリア最大のラゴス港があり、コンテナ船などの大型船をたくさん見ることができます。ラゴスはラグーンのため、船でトラックや自動車を運ぶことも多いです。

自動車を運ぶフェリー

トラックを運ぶフェリー(写真:AAIC)

しばらくすると、悪名の高い、新興国によくある、ゴミの中間集積所が見えてきます。ここにゴミをいったん集めて仕分けします。ペットボトル・金属類・紙などを分類してリサイクルするのです。他の新興国(インドやフィリピンでも悪名高い)でもそうですが、ここでの児童労働や環境問題、劣悪な作業環境などが、課題となっております。そのような現場を見ることができます。

まだ、日本の昭和50年代と同様にゴミの分別が、家庭でなされておらず、いったんこのような中間集積場に集めてから、分類しています。

ラゴスはアフリカ最大都市の1つで、推計2100万人の人口です。毎日排出されるゴミは1万トン(年360万トン以上)を超えており、ラゴス廃棄物管理庁(LAWMA)の管理能力を超えていると指摘されています(ちなみに東京23区内の家庭や事業所などから出される一般廃棄物は年間約254万トン)。

ゴミの中間集積所

ゴミの中間集積所(写真:AAIC)

港を越えるとこのような風景もみえてきます。小さな商店街が連なっている場所です。港湾労働者や運転手などに、食事やモノを売る場所かと思われます。港が近いため、大きなトラックの駐車場所やコンテナ、貨車の置き場になっています。液体燃料運搬用の貨車もみえます。

港近くの商店街

港近くの商店街(写真:AAIC)

巨大な人口が生み出す躍動

終点のマイル2駅に近づくと、巨大な住宅街が広がっています。2100万の都市ですので、一応、高速道路もあります。ただ、道路が圧倒的に不足しており、通勤時は大渋滞しています。前述の通り、ブルーラインが現在運行しているのは、13kmで5駅ですが、今後、第2フェーズが完成すると総延長27km、設置数11駅になる予定です。ビジネスが集積するラゴス島と沿線住民のアクセスが向上し、渋滞緩和などが期待されます。

郊外の住宅街

郊外の住宅街(写真:AAIC)

ナイジェリアの「ブルーライン」は30分だけですが、高層ビルが建ち並ぶビジネス街のラゴス島だけではわからない、巨大な人口が生み出す躍動や経済成長期にみられる課題を感じることができます。

2024年1月には、ラゴス島のオインボから出発し、北に向かってアグバドまで8つの駅を結ぶ「レッドライン」も部分運行をスタートしました。ビジネスチャンスを求めての視察など、ラゴスを訪れる機会があれば、この2つの路線に乗ってみてください。

(椿 進 : AAIC代表パートナー)

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