日本の線香「7割生産」の淡路島、万博で世界にPRしようと意気込んで調べたら…半世紀前から多くて半分

 線香が特産品の兵庫県・淡路島で、長年使われてきたうたい文句が消える。「国内生産量の7割」。県線香協同組合(淡路市)が2025年大阪・関西万博でPRするため、起源を調べてみると、50年以上前から2~5割だった。(洲本支局 大田魁人)

「国内生産の7割」をPRする兵庫県線香協同組合の冊子

 「日本のお線香の70%を生産する淡路島」

 島の線香の歴史や職人を紹介する組合の冊子「あわじ島の香司」には、「70」を大きな文字で強調して一大産地であることをアピールする言葉が並ぶ。

 組合によると、淡路島の線香づくりは江戸後期の1850年、堺から熟練の職人が移り住んで始まったとされる。線香は香原料や水などを混ぜ、練り上げて乾燥させる。播磨灘に面し、冬の季節風が線香の乾燥に適しており、戦後は大手企業が工場を建設し、一大産地となった。

根拠わからず

 「7割」が登場する最も古い資料は、線香の生産が盛んな旧一宮町(現・淡路市)の教育委員会が1985年に発行した冊子「淡路いちのみやの香り」。郷土史家の女性が「現在では全国生産高の約7割」と記している。以降、このフレーズが定着し、組合のほか、県や淡路市もホームページ(HP)で「全国の6~7割を占め第1位」などと紹介してきた。

 ところが、2019年頃、組合が大阪・関西万博で特産品としてPRしようと、線香の生産量を調べたところ、疑問が浮上した。「本当に7割なのか?」

 組合事務局長の谷口太郎さん(56)が中心となり、調査を開始。郷土史家の女性はすでに亡くなっており、地元の業者や年配の職人らを訪ね歩いたが、説明できる人が見つからない。淡路市の協力を得て古い資料も当たったが、根拠となる一次資料は見つからなかった。

順次差し替え

 一方、国の工業統計調査などでは、1967年以降、全国の「線香類」の生産量を集計しているが、兵庫県のシェア(占有率)は2022年まで全国の2~5割。7割に達した年はなく、22年は2668トンで5割弱だった。兵庫県での生産は淡路島がほとんどという。

 根拠がわからないため、組合は「7割」を使わないことを決めた。HPや冊子は順次差し替えていくという。現在、新たなうたい文句を考案するため、線香の歴史や統計を調べている。

 谷口さんは「7割にはおそらく地域の『肌感覚』が含まれていたのでは」と推測。全国有数の特産地であることに変わりはなく、「歴史に裏付けられた効果的なキャッチフレーズを編み出したい」と話す。

 地域づくりに詳しい静岡文化芸術大の上野征洋名誉教授(社会情報学)は「古い資料の数字は根拠が乏しく、前面に打ち出すのは危険」と指摘。「特産品のアピールには、売り上げや全国シェアといった『量』ではなく、技術の高さなど『質』の視点が重要だ。特産品の歴史や生産者の誇りもPR材料になる」と語る。

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