不登校児過去最多34万人…支援団体は財源確保に課題、オンラインゲームが切り開く支援の未来とは?
〈オンラインゲーム「マインクラフト」で不登校支援、家族での会話が増えた事例も…家から出られない子どもの居場所をゲーム内に作る取り組みとは〉から続く
不登校の小中学生が過去最多の34.6万人になった。さらに専門機関の支援を受けていない子どもも増加しており、支援体制の拡充は喫緊の課題だ。文部科学省は、不登校の子どもたちに教育を行う場として「学びの多様化学校」を将来的には300校設置することを目指しているが、行政支援には限界があるだろう。そのような状況で、オンラインゲーム「マインクラフト」を活用して独自に居場所づくりを行なっている「ゆるクラ」という団体がある。不登校支援の現状や、ゆるクラが果たす役割を発起人の岡村和樹さんに聞いた。
不登校支援が多様化、学習要素をあえて排除する背景
不登校の原因は教師との相性や友人関係のトラブルから、学校の教育システムそのものになじめないケースまで多岐にわたる。決まった時間に着席して授業を受け、短い休憩をはさんで再び学習するという構造に適応できない子どももいる。
文部科学省が不登校の状況を調査したところ、「やる気が出ない」が32.2%と最も多く、次いで「不安・抑うつ」が23.1%となっているが、単純なアンケートでは捉えきれない複雑な要因があり、不登校の原因を明確にカテゴリ分けすることは困難な現状だ。
このような多様な背景に応じて、さまざまな不登校支援が提供されているという。従来型の支援では、地域の不登校の子どもたちが集まるリアルな場を提供するのが一般的だったが、最近ではオンラインで完結するフリースクールも増えている。
「オンラインのみの支援に疑問を抱く人もいるでしょう。しかし、リアルな場所に行くことに抵抗のある子どもには、在宅でも受けられるオンラインの支援は必要です」(ゆるクラ代表の岡村和樹さん、以下同)
また、支援団体によって「学習」要素と「遊び」要素の比重が異なる。
学習要素の例としては、主要5科目(国語・数学・英語・理科・社会)やプログラミングなどの学習が挙げられる。いっぽう遊び要素としては、料理やゲーム、水族館見学といった課外活動などがある。ゆるクラの場合は、参加のハードルを下げるため、あえて学習要素を排除しているという。
「参加のしやすさを重視して、ゲームそのものを楽しむことを重視しています。ゆるクラは単体ですべての課題解決を目指すのではなく、別の支援機関につなげるのが役割だと思っています。参加するなかで、子どもたちが新しいことに挑戦したいと思ったら、スムーズに他の団体につなげる仕組みを考えています」
保護者の立場からすれば、遊び中心の支援に対して学習の遅れを懸念し、不安を覚えることもあるだろう。ただし、ゆるクラを通じて遊ぶことで、社会とのつながりにポジティブな印象をもつようになり、結果として教育という次のステップへ進むきっかけになる可能性がある。
ゆるクラには多4つの支援団体が参加しており、活動を通じて別のNPO法人から支援を受けるようになったケースも見られる。例えば、ゆるクラでの経験をきっかけに、オンラインの家庭教師型支援へ移行した例もあるという。
さらに、マインクラフトを使ってプログラミングを教える支援団体も存在しており、ゆるクラとの親和性が高く、スムーズな移行が可能だ。
財源確保が支援継続の課題
こうした活動を継続するには、財源の確保が大きな課題だ。不登校支援には人件費、場所代、備品代が必要で、支援環境を維持するには安定した財源が欠かせない。ゆるクラは現在、費用を一切かけない形で運営しているという。
「ゆるクラは、昨年の9月のローンチ後最初の1年をトライアル期間として定めたため、なんとか収益がなくても継続することができました。協力してくれた方々は、会社員、学生、他団体の運営者など、それぞれの立場で時間的制約があるなかで参加してくれました。しかし、現在のように財源を持たないまま継続するのは難しいでしょう」
人手不足のため、新規募集も停止している状態だという。岡村さんによれば、支援に携わるスタッフは本業や学業、アルバイトなどで参加できない日もあるが、ゆるクラが人件費をまかなうことで支援活動により専念できる可能性もあるという。このような財源の課題は、ゆるクラだけでなく他の団体にも共通している。
「フリースクールなどの不登校支援は、運営者の多大な努力の上で成り立っているのが現状だと思います。子どもと接するだけでなく、保護者からの相談対応、学校関係者と連携などやることが多いなかで、財源確保にも動かないといけない。今後この業界にプレイヤーが増えていくか、心配な気持ちもあります。
保護者からの費用で賄うのも一案ですが、子どもが不登校だと離職率や休職率が高くなってしまうため、保護者からの費用で支援を継続するやり方は健全とはいえないでしょう。今後、ゆるクラは助成金の獲得や、法人の寄付や協賛を募る動きをする必要があると考えています」
法人寄付は税制上の優遇措置があるだけでなく、企業が目指す社会像を行動で示すことができるため、寄付自体を行う企業は少なくない。ただし、環境問題や、貧困の問題など、他の分野に比べて不登校支援への投資は一般的といえる状況ではないようだ。
岡村さんによると、「団体の多くは、自ら開拓したつながりで法人寄付をもらっているとよく聞きます」と語る。やはり、法人寄付を獲得するのは容易ではないようだ。
なお、団体には個人寄付をすることも可能だ。寄付の特典はさまざまだが、活動内容や子どもたちの変化を報告者やメールマガジンなどで知ることができる。支援の成果がみえて、社会貢献意識が満たされることがインセンティブになる。
知見の共有で活動の輪を広げる
不登校支援には多くの困難な課題があるなか、岡村さんがゆるクラの活動を通して実現したいことは何か。
「子どもが孤立しないための居場所が、たくさん用意されている社会にしたいという思いがベースにあります。大人の働き方も多様に変化していくように、子どもにもさまざまな選択肢があったほうが、のびのびと成長しやすくなるのではないかと考えています。
そのため、私たちが今できることの一つは知見を共有することです。同じようにゲームなどで不登校支援をしようとする人や団体を見かけますが、ゼロから始めて独自に知見を蓄積するのは大変です。活動をスケールアップするためには、そうした人たちとつながることが大切だと考えています」
ゆるクラの活動を見ていると、不登校支援は専門家以外でもできることがあるように思える。例えば、ゲーム配信者はマインクラフトに深く精通しているため、ゆるクラのような環境では、その参加自体が不登校支援に大きく貢献する可能性がある。
実際、ゆるクラにYouTuberが参加した際、ハンターから参加者が逃げるテレビ番組のようなシステムをマイクラ上で再現したところ、子どもたちは大いに盛り上がったという。
不登校には多様な支援の形があるからこそ、支援したい人それぞれに適した役割があるのかもしれない。
取材・文/福永太郎
11/20 08:00
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