国産3社連合の夢破れた「VAIO」、ノジマ傘下で再スタートへ
ソニーを源流とする国産パソコンメーカーのVAIO(長野県安曇野市)が家電量販店大手のノジマ<7419>に買収されることになった。企業再生ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)傘下で経営再建を進めてきたが、ノジマ傘下に入ることで国産メーカーのポジションは維持される格好だ。「VAIO」シリーズは「ウインドウズ95」の登場でパソコンブームが起こったのを受けて、ソニーが1997年に国内投入した。
デザインでアップルに負けないブランド力を構築
タワー型のデスクトップパソコンや大画面ノートパソコンも発売したが、シリーズで人気を博したのが薄型のB5サイズモバイルノートの初代「VAIO NOTE 505」だった。ソニーの出井伸之社長(当時)は「普通のパソコンではソニーが作る意味がない」とデザインにこだわり、筐体(きょうたい)を銀色と薄紫色の二色で塗り分けるなど、当時としては大胆な発想で消費者から支持を受けた。
デザインによるブランド化に成功した「VAIO」は、国内はもとより海外でも人気機種となった。出荷台数は1999年度に約140万台、2004年度に約330万台、2009年度に約680万台、2010年度は約870万台に達する。しかし、米アップルが2006年に「MacBook」で低価格のポリカーボネート筐体モデルを追加し、2008年に薄型軽量モデルの「MacBook Air」を投入すると、「VAIO」のデザイン優位性が揺らぐ。
販売台数もピーク時ですら、中国のレノボや米ヒューレット・パッカードなど海外大手の6分の1程度に過ぎなかった。デザインや薄型といった優位性を「MacBook」に奪われた「VAIO」の販売を立て直すため、2009年にはインターネット閲覧に特化した低価格のネットブック市場に進出。従来の「個性的なパソコンを高価格で売る」ブランド戦略から、「低価格のパソコンで販売台数を増やす」薄利多売戦略に切り替えた。
東芝・富士通との3社連合に挫折、ノジマ傘下に
これが裏目に出て、従来の「VAIO」ファンも離れる。当時すでに寡占状態だったパソコン市場では「VAIO」の増産体制も「焼け石に水」で、国内ですらシェアを巻き返すことはできなかった。そして2014年にソニーがパソコン事業からの撤退を決め、同事業を日本産業パートナーズ (JIP) に譲渡。「VAIO株式会社」として再スタートを切った。
JIPは東芝と富士通のパソコン事業をVAIOと経営統合し、国内シェアトップのパソコンメーカーを誕生させる構想だったが、交渉は決裂。東芝はシャープに、富士通はレノボに、それぞれパソコン事業を譲渡し、VAIOは単独で生き残るしかなくなった。幸いリストラによるコスト改善効果で、2016年5月期以降は2022年5月を除いては営業黒字が続いている。
JIPが当初想定したメーカーによる「川中」での経営統合は叶わなかったが、家電量販店という「川下」企業とのM&AでVAIOは「国産メーカー」として生き残ることが決まった。ノジマは2025年1月6日にVAIO株を保有するVJホールディングス3の株式を取得し、約93%の株式を111億円で取得する。ノジマは「純国産PCメーカーとしてのVAIOの魅力を国内外に届けるとともに、ノジマグループの企業価値のさらなる向上を目指す」方針だ。
コンシューマーと向き合う家電量販店の傘下となることで、「VAIO」の製品戦略やブランド構築が、どう変わるのか。一時はアップルに匹敵するブランド力を持った「VAIO」の復活こそが、買い手のノジマにとって買収成功のカギとなる。
文:糸永正行編集委員
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