KFC、資さんうどん、Subway…外食企業の買収が急増する理由

外食・フードサービス業界での企業買収が急増している。2024年は10月30日時点において、2020年からの過去5年間で件数、取引金額ともに最高となった。件数は前年の24件から26件に増え、取引総額も前年の約8倍となる1兆8800億円を突破した。その背景には同業界に吹き荒れる激しい逆風がある。

今年最大の買収は米投資ファンドのカーライル・グループによる日本KFCホールディングス<9873>のTOBで、取引総額は約1兆3400億円。次いで、すかいらーくホールディングス<3197>が北九州発祥のうどん店をチェーン展開する「資さん」を買収した約2400億円、サンマルクホールディングス<3395>が牛カツ定食店を中心に飲食店運営のジーホールディングスを買収した約1120億円と、1000億円超の超大型案件が3件もあった。

2020年から2023年までの4年間で1000億円を超える買収は1件もなく、今年は突出していることが分かる。このほか金額は非公表ながら、ワタミ<7522>が米国発サンドイッチチェーン「Subway」を国内で展開する日本サブウェイを買収した案件もあった。なぜ、外食・フードサービス業界でM&Aが活発になっているのか?

*2024年は10月30日まで

リクルートグループのホットペッパー グルメ外食総研が2024年10月に発表した同8月度の東京・名古屋・大阪圏を対象にした外食市場調査によると、市場規模は前年同月比8.3%増の3019億円。それでもコロナ禍前の2019年同月比では13.1%減と、厳しい状況は続いている。食材や光熱費、人件費などのコスト高に伴う値上げで売上高の増加は見られるものの、その反動で外食頻度が減少する傾向があり、回復がもたついている状況だ。

東京商工リサーチの「飲食業の倒産動向」調査によると、2024年上半期(1-6月)の飲食業倒産(負債総額1000万円以上)は前年同期比16.2%増の493件と、2年連続で過去最多を更新した。現在のペースで推移すると、年間で初の1000件超えとなる可能性もある。「新型コロナウイルス」関連倒産は同15.2%減の244件で、飲食業倒産全体に占める割合は49.4%と3年ぶりに5割を割った。一方、食材やエネルギー価格上昇などによる物価高倒産は同45.4%増の32件、人手不足関連倒産は同33.3%増の28件と、いずれも集計開始以来の最多を更新したという。

こうした厳しい状況で生き残るため、外食・フードサービス業界でのM&Aが加速している。市場の縮小で競争が激化し、原材料購入などの価格交渉力を高める必要がある。さらに深刻な人手不足への対応や顧客ニーズを的確につかむためのDX(デジタルトランスフォーメーション)投資も重なり、スケールメリット(規模の経済)を追求する必要に迫られているのだ。

規模拡大だけではない。コロナ禍を通じて消費者の外食の機会が減少し、テイクアウトやデリバリーなどの中食需要が増加している。ワタミが10月25日に米国発のサンドイッチチェーン「Subway(サブウェイ)」の日本法人である日本サブウェイを完全子会社化したのも、消費者の食行動の変化に対応したものだ。このような業態拡大に向けた買収も加速するだろう。「量」と「業種」の拡大で生き残りをかけたM&Aは、今後もより活発になりそうだ。

2024年の外食・フードサービス業界でのM&A取引総額ベスト10(10月29日時点)


文・写真:糸永正行編集委員

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