初の臨時情報が出た南海トラフ巨大地震の「経済防災」を考える

2024年8月8日、初めての「南海トラフ地震臨時情報」が発表された。政府が設置した中央防災会議の「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」は、南海トラフで想定される最大クラスの巨大地震を「東日本大震災を超え、国難ともいえる巨大災害」と位置づけている。経済界はどう対応すればいいのか?

地域経済団体での「相互補完」が最良の経済震災対策

2021年5月に公表された内閣府の「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン」によると、企業は南海トラフ地震臨時情報の「巨大地震警戒」が発表された場合は、地震発生時の事業継続計画(BCP)に基づき、地震への備えの再確認、後発地震に備えた警戒体制や防災対応を取って、人的・物的被害の軽減を図るよう促している。

今回は「警戒」よりも緊急度が低い「巨大地震注意」だったが、JR東海は東海道新幹線の三島-三河安城間で最高時速を通常の285kmから230kmに落とした結果、10分程度の遅れが発生。さらに臨時情報を理由に旅行を中止した場合は無償での払い戻しに対応するなど、少なからぬ影響が出ている。

では、南海トラフ巨大地震の被害を最小限に抑えるためには、どうすればよいのか?福和伸夫名古屋大学名誉教授は日本記者クラブの記者会見でM&A Onlineの質問に、「基本的にはサプライチェーンが生きていないとダメ。サプライチェーンが機能するためには、コンピューターや発注情報が流れる通信、道路や港湾などの物流インフラが生きている必要がある。同時に全ての工場へ電気・ガス・水が届かないとダメで、これら全部が機能しない限り製造業を維持できない」と指摘した。

具体的な対策としては「1社単独ではなく(地域の経済団体で)各社の具合の悪いことをさらけ出してもらって、『そんな具合の悪いところがあるんだったら、わが社がこれを準備しておくよ』といったやり取りが必要になる。名古屋ではオーナー企業が多いため経営者の在任期間が長く、ロングレンジ(長期間)での対策を立てている」と、企業が地域単位で協働して震災に対応する「名古屋方式」を推奨している。

死者23万人を前提とした震災復興対策は必要か?

地震予知は難しく、2017年には中央防災会議の「南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会」が「現時点において、地震の発生時期や場所・規模を確度高く予測する科学的に確立した手法はない」と報告。現在も国や地震学会は「確度の高い地震予知は不可能」との見方で一致している。

ならば確実ではない「臨時情報」を出すよりも、国が想定する死者23万人、経済被害213兆7000億円を「起こるもの」として捉えるべきなのではないか?被災で想定される労働力不足を穴埋めするための外国人労働者の受け入れや、壊滅した日本企業に代わる海外からの投資呼び込みといった「事後策」を考える方が震災からの復興をスムーズにし、日本経済の長期的なダメージを最小限に抑えることが期待できるからだ。

平田直東京大学名誉教授は日本記者クラブでの会見でM&A Onlineからのこの質問に対して、「日本の技術力を使うことで、巨大地震でも壊れないものを作ることはできると思う。適切な対応をすれば、津波が来ても観光客や住民を安全に避難誘導できる。そうした備えをすぐにでもやることの方が重要だ。日頃から地震への備えをしていても被害が出る可能性がある場合に、(地震予知ではない)南海トラフの情報を出すのだと理解してほしい」と呼びかけた。

文・写真:糸永正行編集委員

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