あのトヨタも失敗…川崎重工の車両エンジン流用機は成功するか?

川崎重工業<7012>の大型二輪車「Ninja(ニンジャ)」用エンジンを搭載する小型飛行機のモックアップ(実物大模型)が今年7月の「ファンボロー国際航空ショー2024」で公開された。同社が出資する仏小型機スタートアップのボルトエアロが開発を進めているビジネス機だ。車両用エンジンを搭載した小型機は、かつてトヨタ自動車<7203>が開発を進めたが断念した経緯がある。自動車よりも小型のバイク用エンジンで航空機を安全に飛ばすことはできるのか?

レースバイクのエンジンで小型航空機を飛ばす

今回出展したのは、パイロット1人を含む5人乗りのビジネス機「Cassio 330」。全長8.96m、全幅10m、全高3.23mで、実用化しているホンダ<7267>の「ホンダジェット」(同8人乗り。全長12.99m、全幅12.12m、全高4.54m)よりも一回り小さい。

ファンボロー国際航空ショーで公開された「Cassio 330」とボルトエアロ、川崎重工業の経営幹部たち(VoltAeroホームページより)

プロペラ機ということもあって最大巡航速度は時速333kmと、ホンダジェットの同782kmの半分以下。最大航続距離も1200kmと、2865kmのホンダジェットの半分以下のスペックだ。ただ、同シリーズではより大きい「Cassio 600」(同12人乗り、全長11.1m、全幅12.4m、全高4.40m)が計画されており、最大航続距離こそ1200kmと同じだが、最大巡航速度は同463kmに強化される。

ボルトエアロは欧州航空安全庁(EASA)に型式証明(TC)を申請中で、2025年末までにTCを取得して2026年の発売を目指している。川崎重工業は2023年6月にボルトエアロへ出資(出資額は非公表)した。川崎重工業は旅客機部品や自衛隊機などの航空機事業を手掛けているが、航空機メーカーへの出資は初めて。

同機に搭載するのが、川崎重工業のバイクレース専用車「Ninja H2R」用の総排気量1000ccエンジン。スーパーチャージャー(過給機)を備えており、最大で310馬力(228kw)と二輪車では「モンスターエンジン」だ。Cassio 330と同じ5人乗りの「206H ステーショネア」のエンジンと同じ馬力を発揮する。

問題はエンジンの信頼性だ。バイクや自動車に搭載される陸(車両)用エンジンは突然止まっても、その場で停車するだけだが、飛行機は墜落してしまう。そのため航空機用エンジンには、陸用エンジン以上の高い信頼性が求められる。

トヨタも開発を断念した車両エンジン流用機をどう実現?

事実、トヨタ自動車が1991年に高級乗用車「セルシオ」(現レクサス)用エンジンを搭載した試作機「Lima II」を完成させたものの、開発は断念した。川崎重工業がエンジンを供給するCassioシリーズも失敗に終わってしまうのか?

実はそうでもない。Ninjaのエンジンはプロペラを回す動力源ではないからだ。Cassioシリーズはプロペラをモーターで回転させる電動飛行機で、エンジンはバッテリーに電力を供給する発電機として使われる。日産自動車<7201>の「e-POWER」やマツダ<7261>の「レンジエクステンダー」搭載車と同じ、シリーズ式のハイブリッドシステムを採用した航空機なのだ。

だから、仮にエンジンが停止してもバッテリーの電力で飛行を続け、安全な場所に着陸することができる。エンジンの信頼性は車両用エンジンと同レベルでも問題はない。発電機として見ればレースバイクのエンジンは自動車用よりも小型軽量で高出力なため、軽量が望ましい航空機向きだ。川崎重工業のバイクエンジン搭載機の勝機は十分にある。

一方、航空機事業から一旦は撤退したトヨタも、垂直離着陸可能な「空飛ぶクルマ」を開発する米ジョビー・アビエーションに約4億ドル(約585億円)を出資し、燃料電池搭載の電動機開発に部品提供や量産支援などで関わっている。

ジョビー・アビエーションはファンボロー国際航空ショー2024に「Joby S4」のモックアップを出展した。今年中に米連邦航空局(FAA)からTCを取得し、2025年の実用化を目指す。川崎重工業が開発に関わるCassio 330のライバルになりそうだ。

文:糸永正行編集委員

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