日の丸ジェット、ひっそり幕引き 特別精算としては過去最大の負債額に

三菱重工業<7011>の子会社、MSJ資産管理(旧 三菱航空機、愛知県豊山町)が東京地裁に特別清算を申請し、2024年3月から進めていた清算手続きを完了した。国産初のジェット旅客機の実現を目指した巨大プロジェクトの後始末が終わった格好だ。

製造業では過去2番目となる大型破綻

東京商工リサーチによると、負債額が特別清算としては過去最高の6413億円に達した。経営破綻全体で見ても、製造業では2017年に倒産したタカタ(現 TKJP)の1兆5024億円に次ぐ規模だ。

三菱航空機は三菱重工業が開発を進めていた小型ジェット旅客機「MRJ」(乗客定員69~88人)が、2008年に全日空から受注したのを機に開発製造子会社として設立された。三菱重工業は航空機大手の米ボーイングや欧エアバスとの共同開発や部品開発などの実績があったことから、2014年の完成披露式典(ロールアウト)までに国内外の航空会社から400機を超える受注を獲得している。

ところが米連邦航空局(FAA)の型式認定が難航し、6度にわたって納期が延長。初納入が最初の2013年から最終的には2021年以降にずれこむ。当初は燃費や装備で最先端の機体だったが、ライバル機の新型機投入や機体更新に伴い仕様が陳腐化した。

2019年に機体名を「三菱スペースジェット(Mitsubishi SpaceJet)」と改称して巻き返しを図ったが、航空会社からのキャンセルが相次いだ。すでに事業凍結が囁かれていた2020年に三菱航空機は「スペースジェット」の保守・販売に対応するため、カナダ航空機大手のボンバルディアから小型旅客機の保守・販売サービス事業を買収するなど、強気の姿勢を崩さなかった。

開発費は当初予想の6倍以上に

しかし、同年には「スペースジェット」の開発体制の大幅縮小を発表。当初1500億円と見込まれていた開発費も1兆円に膨らんだ。親会社の三菱重工業は量産化にこぎつけても競争力がなくなったと判断し、2023年4月に開発中止を発表。同月に三菱航空機は社名変更してMSJ資産管理となる。同社は2024年3月に解散し、清算を進めていた。

同時期に開発が始まった中国の「COMAC C919」(同156〜174人)も同様に開発や型式認定でトラブルを抱えていたが、2023年に商用飛行を開始している。これはFAAの型式認定を待たずに、中国民用航空局(CAAC)の型式認定を受けて中国国内線専用機として実用化に踏み切ったため。「スペースジェット」は海外航空会社からの受注もあり、「日本国内専用機」で先行デビューさせるのは難しかったようだ。

頓挫した「スペースジェット」だが、三菱重工業は事業譲渡しなかった。同社は「設計ツールとか、シミュレーションツール、検証ツールを再整備をして色んなところに使えるように準備している。次期戦闘機などにも活用を検討していくことも進めており、作ったものは使えるようにしていく」(泉澤清次三菱重工業社長)方針を示している。

三菱重工業は宇宙航空研究開発機構(JAXA)や川崎重工業、SUBARU、IHIなどと共同で50席クラスの次世代超音速旅客機開発に取り組んでいる。「スペースジェット」の技術やノウハウは生かされるのだろうか。

文:糸永正行編集委員

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