今年の調剤薬局倒産は過去最高のペース、その理由と回避策は?
今年に入って調剤薬局の倒産が過去最高のペースで進んでいる。しかし、人口の高齢化で医療費の増大は続いており、調剤薬局には追い風のはずだ。なぜ、ここに来て調剤薬局の倒産が多発しているのか?そして、生き残りのための対応策として何が考えられるのか?
過去最大の「調剤薬局倒産」の年に
東京商工リサーチによると、2024年1〜7月に発生した調剤薬局の倒産は累計で22件と、前年同期比266.6%増というハイペースとなった。7月末時点で、過去最多だった2021年1〜7月の20件を上回っている。このペースのまま推移すると年間38件に迫る勢いで、2021年の27件を大きく上回り過去最多記録を更新することになりそうだ。
その背景には大手ドラッグストアの出店強化や、コンビニ大手の新規参入などによる競争激化に、小規模な調剤薬局が対抗できない業界事情がある。ただ、調剤薬局の再編が加速しており、そこそこの規模の調剤薬局でも経営環境が厳しくなっている。
2024年7月、京都市内を中心に調剤薬局「なぎさ薬局」を展開する寛一商店(京都市)と関連8社が会社更生法の適用を申請して倒産、グループ負債総額は約111億5000万円に達した。同社は2012年に創業した新興の調剤薬局で、中小調剤薬局を買収して北海道から九州まで50店舗以上を展開している。大手との競争激化に加えて、コロナ禍に伴う受診控えの動きや薬価引き下げによる利益率の低下が足を引っ張ったという。
異業種からの参入と行政からの圧力
東京商工リサーチは「今年、セブン-イレブン・ジャパンが首都圏1000店舗で処方箋医薬品を受け取れるサービス、アマゾンジャパンが処方箋医薬品のオンライン販売に乗り出すことを相次いで発表した。異業種からの大手参入でさらにシビアな環境となることが予想される」と指摘している。
こうした調剤薬局の苦境の背景には、薬価引き下げ以外にも厚生労働省による薬事行政の影響もある。「医薬分離」の結果、処方薬需要を取り込むためには基幹病院周辺の「門前」立地が必要となった。大手の参入で、こうした「門前薬局」の出店競争が激化し、好立地条件用地の地価や賃貸料が高騰し、調剤薬局のコストアップ要因に。
これを受けての家賃収入への期待と患者の利便性向上から、医療機関側が病院敷地内での「門内(敷地内)薬局」の誘致に乗り出した。これに対して厚労省が2024年6月の調剤報酬改定で、「敷地内薬局」に対して収入のベースとなる「調剤基本料」を引き下げた。地域に根ざして幅広い患者をカバーする「かかりつけ薬局」を掲げる国の方針に反するため。
大手傘下で生き残る
こうした状況下で中小調剤薬局が生き残るためには規模拡大しかない。そのためにはM&Aが必要だ。第1の選択肢としては、業界大手の傘下に入ること。生き残りのための規模拡大は、大手にとっても大きな課題だ。そのため、各社が中小調剤薬局とのM&Aにしのぎを削っている。
2024年1月にファーマライズホールディングス<2796>が東名阪で調剤薬局を運営するGOOD AIDを、同2月にスギホールディングス<7649>が関西を中心に「阪神調剤薬局」を展開するI&H(兵庫県芦屋市)を、それぞれ子会社化すると発表した。
同5月にはクオールホールディングス<3034>が山梨県内で18店舗の調剤薬局を展開するダイナ(甲府市)、東京都、埼玉県、千葉県で6店舗の調剤薬局を運営する行徳ファーマシー(さいたま市)、東京都内で2店舗の調剤薬局を持つボトムハート(東京都豊島区)を矢継ぎ早に買収している。
経営統合による独自サービスで大手に対抗
第2の選択肢としては、中小調剤薬局同士が経営統合して地域密着型の調剤薬局として生き残りを図る方法だ。これは国が推進する「かかりつけ薬局」を目指すもので、行政からの支援や調剤基本料の引き上げなどの優遇を得やすいメリットがある。
しかし、中小同士が経営統合を実現しても、規模拡大は限定的なのも事実。行政からの手厚い支援があっても、資本力のある大手ドラッグストアとの体力差は歴然だ。そこで、経営統合による大手ドラッグストアとの差別化が重要となる。
24時間365日営業の調剤薬局や、インターネットによる薬剤師とのやりとりで服薬管理、健康相談などに対応する「かかりつけネット薬局」といった、大手ドラッグストアが手薄な分野でのサービス拡充がカギとなりそうだ。いずれにせよ、中小調剤薬局が単独で生き残るのが厳しい状況であることだけは間違いない。
文・写真:糸永正行編集委員
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