【弁護士ドットコム】 AI活用した「リーガルテック構想」の実現へ、データ取得のM&Aを加速
法律相談サイト「弁護士ドットコム」や契約プラットフォーム「クラウドサイン」などを運営する弁護士ドットコム。近年、AIとリーガルデータを活用して新たなサービスを展開する「リーガルブレイン構想」、さまざまなリーガルプロダクトをワンストップで提供する「LaaS」(Legal as a Service)を戦略に、積極的にM&Aを行っている。同社の成り立ちからこの先のM&A戦略を追う。
弁護士ドットコムの成り立ち
弁護士ドットコムは2005年に設立されたオーセンスグループを前身とする。同年、法律相談サイト「弁護士ドットコム」を開設し、サイト内で弁護士検索や有料で法律相談ができるサービスを提供した。
2006年に税理士版のポータルサイト「税理士ドットコム」の運営を開始。2007年は弁護士ドットコム内で法律関連の質問ができ、それに弁護士が回答する無料の法律相談サービス「みんなの法律相談」を追加した。
2013年に現社名に商号を変更し、2014年には東証マザーズに上場した。2000年代以降のインターネット化に伴い、同社の業績も拡大した。
そして2015年、クラウド契約サービス「クラウドサイン」をリリース。契約書の締結や保管を電子化するサービスで、納品書や請求書、領収書などの書類にも対応する。
近年、加速するペーパーレス化に伴いクラウドサインの利用者は増加し、弁護士ドットコムに並ぶ主力事業となった。2023年3月期の全社売上高87.1億円のうち、「弁護士ドットコム」「税理士ドットコム」などを運営するメディア事業は40.8億円、「クラウドサイン」を手がけるIT・ソリューション事業は46.3億円となっている。
2020年には法律書籍・雑誌の定額閲覧サービス「Business Lawyers Library」をリリース、2023年10月には判例やその解説、記事検索ができる「判例秘書」を提供するエル・アイ・シーを子会社化した。
年 | 弁護士ドットコムの沿革 | ||||||
2005 | オーセンスグループを設立 | ||||||
2005 | 「弁護士ドットコム」を運営開始 | ||||||
2006 | 「税理士ドットコム」をリリース | ||||||
2007 | 「弁護士ドットコム」内で「みんなの法律相談」をリリース | ||||||
2011 | 「弁護士ドットコム」のスマホ向けサイトを運営開始 | ||||||
2013 | 弁護士ドットコムに商号変更 | ||||||
2014 | 東証マザーズ上場 | ||||||
2015 | 契約書の締結や保管を電子化するサービス「クラウドサイン」をリリース | ||||||
2023年10月 | 判例やその解説、記事検索ができる「判例秘書」を提供するエル・アイ・シーを子会社化 | ||||||
2024年4月 | 事件記録の参照や管理、書類探しを行うための文書管理ツール「弁護革命」提供の弁護革命を子会社化 |
リーガルブレインとLaaS
業容を拡大してきた弁護士ドットコムは、この先を見据えた2つの戦略を掲げている。
ひとつがリーガルブレイン構想。AI(人工知能)とリーガル情報を融合させ、新たなサービス提供を図ろうという戦略だ。
弁護士ドットコムは2023年3月期末までに125万件にのぼる法律相談のQ&A、そして2万人以上の登録弁護士のデータベースほか、クラウドサインを通じて得られた累計1,500万件の契約データベースを保有。リーガルブレイン構想では、これらのデータを学習させた大規模言語モデル(LLM)を作りたいとしている。他にも法律書籍のデータベースや、裁判官に関する口コミデータベースも学習データになりうるという。
利用対象となるのは、弁護士、一般ユーザー、企業。弁護士には訴状のたたき台をつくる補助AIや、文献調査に使えるAIといった、弁護士の実務を補助する「Copilot for lawyers」のサービス提供を模索している。一般ユーザーにはチャットでAIに質問できるサービスを挙げており、2023年5月に「弁護士ドットコムチャット法律相談(α版)」としてすでにサービスをリリースしている。このほか、企業の法務部や、ベンチャー、中小企業経営者向けのサービスも想定している。
もうひとつの戦略がLaaS(Legal as a Service)。3.5万にのぼる企業・弁護士などの有料ユーザーに、あらゆる法律サービスをワンストップで提供してARPU(ユーザー平均単価)を上げていくという戦略だ。弁護士ドットコム、クラウドサインほか、リーガルブレイン構想で誕生するサービスなど、プロダクト・サービスの強化を図りながら、ユーザーの利用を促進することで、業績拡大を目指していく。
判例秘書と弁護革命のM&A
近年ではこれらの戦略に従ったM&Aが行われている。リーガルテック構想の実現に向けて、2023年10月に「判例秘書」を提供するエル・アイ・シー(東京都港区)の子会社化を発表。1900年代から現在に至るまでの判例データを持ち、判例やその解説、記事などを検索できるサービスで、判例データはリーガルテック実現に向けた最重要データのひとつと位置付けている。
2024年4月には、事件記録の参照や管理、書類探しを行うための文書管理ツール「弁護革命」を提供する弁護革命(京都市)の子会社化も発表された。弁護士兼ソフトウェア開発者の山本了宣氏が2021年に提供を開始したサービスで、約2000人の弁護士に利用されているという。2026年度から始まる民事裁判手続きのIT化を見据え、利用者の拡大を見込む。
今後もリーガルブレイン構想の実現に向けたM&A、Lassを構成する周辺プロダクトの増加を目的にしたM&Aを進めると発表している。エル・アイ・シー、弁護革命に引き続き、様々なリーガルデータを持つ企業、法律関連のITサービスを提供する企業を対象にしたM&Aが加速することだろう。
文:ライター山口伸
上場企業のM&A戦略を分析
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05/23 06:30
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