【小森コーポレーション】4年ぶりにM&Aを再開、アフターコロナで反撃の狼煙か?
小森コーポレーションは印刷機専業で国内トップに立つ。国内唯一の紙幣(銀行券)印刷機メーカーとしてのポジションも保持する。昨年、創業100周年の節目を迎えた。紙媒体の電子化などデジタルシフトの加速に伴い、印刷市場が縮小する中、オフセット印刷機を中心とする事業構造からの転換も着実に進めてきた。その同社が4年ぶりとなるM&Aを繰り出した。
米Bernalからダイツール事業を取得
小森コーポレーションは4月下旬、米国Bernal(ベルナル、ミシガン州)からロータリーダイツール事業を取得したと発表した。フランス子会社のコモリ・シャンボン(KCM)が米国に持つ販売会社を通じて傘下に収めた。取得金額は非公表。
ロータリーダイツールはパッケージ印刷などに使われる回転方式の切断工具。ベルナルはこの分野で米国有数のメーカーで、約70年の業歴を持つ。
ロータリーダイツール事業を取得したKCMは小森コーポが1989年にフランスに設立。パッケージ印刷・後加工用の一貫生産ラインを製造し、欧米に供給している。ベルナルが持つ高度なダイツールを活用することで顧客に対して付加価値の高い提案が可能になるとしている。
パッケージ市場は世界的な脱プラスチックの流れの中で、とくに紙器(紙パッケージ)の需要増が見込まれている。今回の事業買収により、成長するパッケージ市場でKCMの競争力強化につなげる。
2000年にドイツ社を買収して以来
実は、小森コーポはコロナ禍の影響が広がった2020年、折機の有力メーカーであるドイツのMBOグループを子会社化したのを最後に、M&Aから遠ざかっていた。
折機は印刷の後工程で使われる加工機械。MBOグループの買収はとくに商業印刷の後工程分野への進出を狙いとした。MBOグループはドイツのほか、ポルトガル工場を持ち、米国や中国など販売・サービス拠点を展開する。
それ以前、2019年に中国の販売代理店「深圳兆迪技術有限公司」(現小森(深圳)印刷技術有限公司)を、18年にインドの販売代理店Insifht(現コモリ・インディア)を子会社化するなど、M&Aにはコンスタントに取り組んでいた。
小森コーポは昨年、「100年企業」の仲間入りを果たした(創業は1923年)。次の100年への新たな一歩を踏み出したタイミングで4年ぶりのM&Aが復活した。
この間、同社はコロナ禍で大幅な売上減を余儀なくされ、2020年3月期から2年連続の赤字を経験した。業績が復調をたどる中、M&Aの再開は反撃の狼煙(のろし)となるのか。
15年ぶりに売上高1000億円の大台
小森コーポレーションが5月14日に発表した2024年3月期業績は売上高6.5%増の1042億円、営業利益14.3%減の48億9800万円、最終利益18.8%減の46億4100万円だった。
高性能の「advance(アドバンス)」モデルの販売促進に取り組んだ結果、オフセット印刷機を中心に受注が好調で売上高の増加につながった。売上高は2009年3月期(1114億円)以来、実に15年ぶりに1000億円の大台に戻した。アフタコロナの到来も追い風となった。
海外売上高比率は67%と7割近い。エリア別では欧州のウエートが最も高く3分の1を占め、これに中華圏、北米、その他地域(東南アジア、インド、オセアニア、中南米など)が続く。
2025年3月期は売上高4.9%増の1094億円、営業利益18.4%増の58億円、最終利益25%増の58億円を見込む。
DPS事業とPE事業に重点投資
足元の2025年3月期を初年度とする中期経営計画(2027年3月期までの3カ年)を目下、策定中。この中で、M&Aを含めた成長投資を増やすことを基本方針に打ち出している。
同社の事業は「オフセット」「証券印刷」「DPS(デジタル印刷)」「PE(プリンテッド・エレクトロニクス)」の4つの領域に分かれる。このうちオフセット、証券印刷を基盤事業、DPSとPEを成長事業と位置付ける。新中計では、DPSとPEの両事業について生産能力拡大に向けた投資やM&Aを積極的に取り組む予定だ。
版を使わずデジタルデータを用紙に直接印刷するのがDPSで、需要が年々膨らんでいる。
一方、印刷技術を応用して電子回路を形成するのがPE。電子部品業界を主な顧客とし、セラミックコンデンサー、半導体パッケージなど製品によって多様な印刷技術、微細配線技術や機械装置が求められる。
印刷産業の市場規模はデジタル社会の到来に伴い、すでに20年以上も縮小傾向が続いている。
こうした中、オフセット印刷機を主軸とする既存事業のブラッシュアップを図りつつ、成長事業を飛躍に導くのかが問われる。業界のリーディングカンパニーとして、どんな二の矢三の矢を準備しているのか、要ウオッチといえそうだ。
◎小森コーポレーションの沿革
年 | 主な出来事 |
1946 | 小森印刷機械製作所を東京都墨田区で設立 |
1958 | 日本初の紙幣印刷機を開発 |
1976 | 小森印刷機械に社名変更 |
1982 | 米国に現地法人コモリ・アメリカ・コーポレーションを設立 |
1983 | 東証2部に上場 |
1984 | 英国に現地法人コモリ・ヨーロッパを設立 |
〃 | 東証1部に上場(2022年4月に東証プライム市場に移行) |
1990 | 小森コーポレーションに社名変更 |
2001 | 東芝機械からオフセット輪転印刷機事業を取得 |
2014 | スクリーン印刷機メーカーの東海ホールディングス(現セリアコーポレーション)を子会社化 |
〃 | シンガポールの販売代理店KM Links(現コモリ・サウスイースト・アジア)を子会社化 |
2016 | インドの販売代理店Insifht(コモリ・インディア)を子会社化 |
2019 | 中国の販売代理店「深圳兆迪技術有限公司」(現小森(深圳)印刷技術有限公司)を子会社化 |
2020 | ドイツの折機メーカー、MBOグループを子会社化 |
2024 | 4月、米国Benalからロータリーダイツール事業を取得 |
文:M&A Online
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05/16 06:30
M&A Online