【パラマウントベッドHD】総合ヘルスケアカンパニーに向け、本格的なM&Aの“出番”はあるか?

パラマウントベッドホールディングス(HD)は医療・介護用ベッドで国内シェア7割を握り、世界でもアジアを主軸にトップクラスに位置する。医療・介護分野にとどまらず、健常者に快適な睡眠環境を提案する健康事業にも進出し、総合ヘルスケアカンパニーとしての陣容強化にアクセルを踏み込んでいる。そんな同社だが、意外にも本格的なM&Aとは距離を置いてきた。

病院用ベッドから出発

パラマウントベッドは終戦間もない1947(昭和22)年に、病院用ベッドの製造に乗り出したのが始まり。1950年に法人化に伴い木村寝台工業を設立し、「パラマウント」をブランド名とした。

1987年にパラマウントベッドに社名を変更し、ブランド名と統一。2011年に持ち株会社体制に移行し、中核事業会社のパラマウントベッドなどを傘下に置く現在のパラマウントベッドHDを発足させた。

社名のパラマウントは英語で「最高の」「卓越した」などの意味がある。業界のパイオニアとして、数多くの国産第1号の製品を送り出してきた。

その一つが1962年に日本で始めて開発した電動ベッド。患者自身が手元スイッチのボタン操作で背部や脚部の角度を調節できるもので、当時として画期的だった。また、1983年にはインテリア性や組み立てのしやすさに配慮した国産初の在宅介護用電動ベッドを製品化し、その後の業界標準となったとされる。

病院を中心とする医療機関向けに加えて、介護施設や在宅介護にいち早く展開するとともに、ベッドの点検・メンテナンス、福祉用具のレンタルといった周辺領域に業容を拡大。国内トップメーカーとしての地歩を確固とした。

1000億円企業の仲間入り

2024年3月期の業績見通しは売上高6.1%増の1050億円、営業利益4.1%増の140億円、最終利益6.3%増の98億円。売上高は7年連続で過去最高を更新し、初めて1000億円の大台に乗せる運びだ。

部門別売上構成は医療事業37%、介護事業58%、健康事業3.3%、その他事業1.6%。売上比率はまだ5%に満たないが、第3の柱として育成中なのが健康事業だ。

2019年に日本初をうたい文句に「眠りの自動運転」を実現したのが「Active Sleep BED」。センサーを活用し、睡眠状態に合わせてベッドの角度が自動で変化する。熟睡を検知すると、自然な寝返りが打てるようにベッドがフラットになり、起床時には背を上げて心地よい目覚めを促す。テレビCMも積極的に展開し、拡販に力を入れている。

東京・京橋にあるショールーム「パラマウントベッド 眠りのギャラリーTOKYO」

2017年末には東京・京橋にショールーム「パラマウントベッド 眠りのギャラリーTOKYO」をオープンした。家庭用電動ベッドを体験できるほか、各種セミナーの開催を通じて眠りに関する情報を発信している。

パラマウントベッドHDはいよいよ「1000億円企業」の仲間入りを果たす。では、この間、M&Aの取り組みはどうだったのか。

◎パラマウントベッドHDの業績推移(単位は億円)

2021/3期 22/3期 23/3期 24/3期予想
売上高 871 903 990 1050
営業利益 115 123 134 140
最終利益 86 90 92 98

M&Aに頼らず、アジアで独自展開

ひと言でいえば、距離を保ってきたのが実情だ。1993年の東証上場以降に手がけたM&Aは5件ほど。社運を賭けるような大型案件も見当たらない。

そうした中、現時点で同社唯一の海外案件が2006年、フランスの医療・介護用ベッドメーカー、コロナメディカルの買収。コロナメディカルの販路を活用した欧州展開を目的とし、電動用ベッド向けモーターなどを供給してきた。

だが、10年後の2016年にコロナメディカルの全株式を現地社にただ同然で売却。欧州経済の停滞やフランス国内での競争激化で、コロナメディカルは赤字が常態化し、債務超過に陥っていたことから、見切りをつけたのだ。

パラマウントベッドはこれまで医療・介護用ベッドなどで海外110カ国・地域以上に製品を納入してきた。海外売上高比率は10%強で、金額は108億円(2024年3月期見込み)。全体の8割超をインドネシア、中国などアジアが占め、これに中東、中南米が続く。

海外生産拠点は1995年のインドネシアを手始めに、中国(2004年)、インド(2012年)、ベトナム(2024年度、工場稼働予定)の4カ国に置くが、いずれもM&Aに頼らない形の独自展開を貫く。2012年にはシンガポールにアジア統括会社を設けた。

国内では2006年に介護・福祉用具レンタルのサンネットワーク(現パラマウントケアサービス、東京都墨田区)を買収したのが最初。その後は10年以上、M&Aに縁がなかったが、2018年に病院向けテレビシステム事業のCSアメニティサポート(現パラテクノ、東京都文京区)を、2019年に住宅設備・家具資材製造のサダシゲ特殊合板(広島県福山市)を立て続けに傘下に収めた。

そして今年、5年ぶりにM&Aに取り組む。子会社のパラマウントケアサービスを通じて、SMFLレンタル(東京都千代田区)から福祉用具レンタル卸事業を7月1日付で取得する。取得金額は非公表としている。SMFLは三井住友ファイナンス&リースの傘下企業。

CVCファンドを設立、50億円投資へ

ここ数年、事業会社によるスタートアップ投資が盛り上がりを見せているが、パラマウントベッドHDも極めて前向きだ。2022年10月、SBIインベストメント(東京都港区)と共同で、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ファンドを設立した。

ターゲットは医療、介護、健康の各領域に強みを持つ国内外の有望なスタートアップで、新事業の創造に向けた革新的な技術・サービスを取り込むのが狙いだ。2030年3月期までの7年半で50億円規模の投資を行う予定。スタートからほぼ1年後の2023年8月末時点で投資実績は6件という。

パラマウントベッドは2030年までの長期ビジョン(10年間)で、医療・介護から健康までを広範にカバーする総合ヘルスケアカンパニーの実現を掲げる。その過程では他社連携の拡大はもとより、手付かずだった本格的なM&Aに向き合う場面もありそうだ。

◎パラマウントベッドHDの主な沿革とM&A

出来事
1950 木村寝台工業を設立
1987 パラマウントベッドに社名変更
店頭市場に株式登録
1993 東証2部上場(96年に東証1部、2022年東証プライム)
1995 インドネシアに現地法人を設立
2002 ベッド点検・清掃などのパラテクノ(東京都文京区)を設立
2006 フランスの医療・介護用ベッドメーカー、コルボンホールディングス(後のコロナメディカル)を子会社化
2007 介護・福祉用具レンタルのサンネットワーク(現パラマウントケアサービス、東京都墨田区)を子会社化
2011 持ち株会社制に移行
2012 シンガポールにアジア統括会社を設立
2016 フランス子会社のコロナメディカルを現地社に譲渡
2018 パラテクノを通じて、テレビシステム事業のCSアメニティサポートを子会社化(翌年吸収合併)
2019 住宅設備・家具資材製造のサダシゲ特殊合板(広島県福山市)を子会社化
2022 コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ファンドを設立
20247月、福祉用具レンタルのSMFLレンタル(東京都千代田区)を子会社化へ

文:M&A Online

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