ドラックストア業界、再編加速か?過去10年間のトレンドを見る

ドラッグストア業界首位のウエルシアホールディングス(HD)<3141>を傘下に持つイオン<8267>が、同2位のツルハホールディングス(HD)<3391>株の追加取得に動き出した。業界再編の新たなステージを迎えるのか、注目されている。しかし、同業界の再編は今に始まった話ではない。ここ10年間のドラッグストア業界のM&Aのトレンドを見てみよう。

2021年以降は件数・金額ともにM&Aは低調

2014年以降で上場企業が関与し、経営権の移動を伴うドラッグストア(調剤薬局を含む)のM&Aの推移は、件数はコロナ禍直前の2019年が23件と最多。同年の企業別ではソフィアホールディングス<6942>が9件と圧倒的に多く、ココカラファイン<3098>とウエルシアHD、ツルハHDが2件で続く。この年は業界再編の「台風の目」だったソフィアHDだが、2020年以降は動きがない。

一方、取引金額は2020年の約1101億円がピークだったが、これはキリン堂ホールディングス(取引金額約338億円)と総合メディカルホールディングス(同約763億円)のMBO(経営陣による買収)2件の総額で、業界再編とは関係ない。

ただ、同年はココカラファインが8件、ツルハHDとウエルシアHDが各3件(いずれも取得金額は非公表)と、業界再編の動きが激しい年だった。キリン堂HDは「短期的な業績変動にとらわれず、事業構造改革に向けて機動的かつ柔軟な意思決定を実現するのが狙い」、総合メディカルHDは「中長期的に企業価値を保持・育成するためには、機動的な意思決定を可能にする経営体制の構築が望ましい」をMBOの理由としているが、業界上位による敵対的買収を懸念した可能性もありそうだ。

過去10年間のドラッグストア業界のM&A推移

過去10年間のドラッグストア業界のM&A推移

過去10年間のM&A上位企業は

この10年間でMBOを除く100億円超のM&Aは6件。ただ、大手ドラッグストアによるM&Aの大半は取引金額が非公表のため、全体像は見えない。2020年のツルハHDによるJR九州傘下でドラッグストア・調剤薬局228店舗を展開するJR九州ドラッグイレブン(福岡県大野城市)の子会社化のように、金額非公表案件の中にも大型M&Aがあった可能性も高い。

2014〜2023年のM&A取引金額上位5案件

順位公表日取引金額(億円)案件内容
1 2020年2月5日 763.3 総合メディカルホールディングス<9277>、ポラリスと組んでMBOで非公開化
2 2020年9月10日 338.1 キリン堂ホールディングス<3194>、ベインキャピタルと組んでMBOで非公開化
3 2017年8月7日 231.0 ツルハホールディングス<3391>、調剤薬局運営の杏林堂グループ・ホールディングスを子会社化
4 2014年10月22日 224.2 イオン<8267>、ウエルシアホールディングス<3141>をTOBにより子会社化
5 2022年1月18日 217.3 ウエルシアホールディングス<3141>、ドラッグストアチェーンのコクミンなど2社を子会社化
6 2017年4月18日 145.0 ウエルシアホールディングス<3141>、青森を中心にドラッグストアを運営する丸大サクラヰ薬局を子会社化
7 2016年8月23日 134.2 クオール<3034>、調剤薬局運営の共栄堂を子会社化
8 2016年2月5日 126.4 投資ファンドのJ-STAR、アイセイ薬局<3170>をTOBで子会社化
9 2016年11月24日 81.3 総合メディカル<4775>、みよの台薬局グループ6社を取得
10 2014年12月26日 60.0 アインファーマシーズ<9627>、保険調剤薬局のメディオ薬局を子会社化

この10年間で最も多くのM&Aを実施したのはソフィアHDの17件。次いでウエルシアHDの5件。ツルハHD、国内調剤薬局トップのアインホールディングス(HD)<9627>、関西を地盤にするキリン堂ホールディングス(HD)、メディカルシステムネットワーク<4350>、総合メディカルホールディングス(HD)の各2件が続く。

MBOを除く10年間のM&A取得総額ではウエルシアHDが363億6000万円でトップ、次いでツルハHDの287億6000万円、イオンの224億2000万円の順。件数ではトップだったソフィアHDは個店など小口案件の買収が多く、取得総額は38億4000万円だった。

ドラッグストア業界では日用雑貨や食品の安売りで集客し、粗利率の高い市販薬や化粧品の「ついで買い」で利益を上げるビジネスモデルが主流となっている。しかし、かつては地域独占に近かったドラッグストアチェーンも再編が進み、同じ商圏内に複数のチェーンが出店するのが当たり前になった。

その結果、チェーン間での競争が激化して規模拡大のためのM&Aが繰り広げられているのだ。イオンとしてはツルハHD買収が実現すれば、ウエルシアHDをTOBで子会社化した2014年以来のM&Aとなる。イオンが10年ぶりに業界再編の「台風の目」となるのか、それとも新たな「台風の目」となる企業が登場するのか。今年のドラッグストア業界のM&A件数や金額の推移を含めて目が離せない。

文:M&A Online

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