【2023年人材サービス業界のM&A】 アウトソーシングが2200億円MBOで非公開化へ、M&A件数は過去10年で最多の33件

2023年のM&A戦線は終盤、MBO(経営陣による買収)ラッシュの様相を呈した。しかも数千億円の巨額案件が連続した。その一つが人材サービス業界から飛び出した。

アウトソーシング、米ベインと組みMBO

年の瀬を控えた12月上旬、製造系・技術系派遣の最大手、アウトソーシングがMBOで株式を非公開化すると発表したのだ。総額は2211億円。創業者の土井春彦会長兼社長が米投資ファンドのベインキャピタルと組んでTOB(株式公開買い付け)を行い、全株式の取得を目指す。海外を含めた積極的なM&Aでグループ事業が急拡大する中、効率的な内部統制・ガバナンス(組織統治)体制の構築などの経営課題に対処するには、いったん非公開化することが必要と判断した。TOBは2024年1月下旬にも始まる。

アウトソーシングの2023年12月期売上高見込みは11.5%増の7700億円。国内トップの製造系・技術系派遣をはじめ、官公庁やコールセンター、物流などサービス系も幅広く手がけ、近年は海外展開も活発化しており、連結子会社は国内外で230社を超える。土井氏は所有する12%超の株式をTOBに応募し、非公開化後に5%を上限に再出資する予定。新経営体制の下で土井氏は会長職に専念する。

上場企業同士の合併もあった。ゲーム、エンターテインメント業界向け人材派遣のコンフィデンスと製造・IT業界向け人材紹介のインターワークスが8月1日に合併し、「コンフィデンス・インターワークス」が発足した。主力領域が異なり、相互補完による業容拡大を目指す。

M&A件数、過去10年で最多の33件

アウトソーシングのMBO案件を筆頭に、人材サービス業界を対象とする2023年のM&A件数は前年を6件上回る33件(適時開示ベース、12月27日時点)と、過去10年で2018年(30件)を上回る最多となった。

2019年は16件に半減したが、コロナ禍の影響が広がった2020年から3年続けて27件を数えた。DX(デジタル変革)をめぐる旺盛な需要を背景に、IT関連を中心に人手不足が深刻化するエンジニア人材の確保が急務となっていることが件数を押し上げたとみられる。

なかでも年間3件の買収を手がけたのがTWOSTONE&Sons(旧Branding Engineer、6月に社名変更)。傘下に収めたジンアース(東京都新宿区)、UPTORY(仙台市)、TSR(東京都港区)はいずれもITエンジニアと企業のマッチングサービスを手がける同業で、取得金額は順に2億1300万円、1億2500万円、4億3700万円。 フリーランスのエンジニア人材を獲得し、マッチングサービス事業の拡大につなげる狙いだ。

◆2023年:人材サービス業を対象とする主なM&A

1月ハイブリッドテクノロジーズ、IT人材派遣のキャスレーコンサルティング(東京都港区)を子会社化
3月英国SHLグループ、日本エス・エイチ・エルをTOBで子会社化
SHIFT、EQIQ(東京都渋谷区)からバイリンガル人材紹介事業を取得
クラウドワークス、副業人材マッチングサービスのシューマツワーカー(東京都渋谷区)を子会社化
5月平山ホールディングス、ブリヂストン傘下で構内請負のブリヂストングリーンランドスケープ(福岡県朝倉市)を子会社化
6月
TWOSTONE&Sons、エンジニアマッチングサービスのTSR(東京都港区)を子会社化

ココナラ、ポート傘下でITフリーランスエンジニア支援事業のポートエンジニアリング(東京都新宿区)を子会社化
8月
東京建物、介護士派遣子会社の東京建物スタッフィング(東京都中央区)を桜十字(熊本市)に譲渡
9月
キャリアインデックス、人材紹介サービスのホワイトキャリア(東京都品川区)を子会社化
11月
UTグループ、オープンアップグループ傘下で製造派遣のビーネックスパートナーズ(東京都港区)を子会社化

オープンアップグループ、UTグループ傘下で技術者派遣のUTコンストラクション(東京都品川区)など2社を子会社化
12月
アウトソーシング、米投資ファンドのベインキャピタルと組んでMBOで株式を非公開化

UTとオープンアップ、事業を相互移管

製造系・技術系派遣をめぐっては、UTグループとオープンアップグループの大手2社が相互に事業移管する動きがあった。UTはオープンアップから製造系派遣子会社を約32億円で取得する一方、オープンアップはUTから技術系派遣の子会社など2社を約73億円で傘下に収めることで合意。事業ポートフォリオ(構成)最適化の一環として、それぞれの中核事業に経営資源を集中させるもので、実施予定日は2024年4月1日。

また、UTグループは日立製作所傘下で設計・製造請負の日立茨城テクニカルサービス(茨城県日立市)を2024年3月に子会社化することを決めた。

ハイブリッドテクノロジーズは3億2700万円を投じてIT関連人材派遣のキャスレーコンサルティング(東京都渋谷区)を子会社化した。システム開発のプロジェクトマネジャー、コンサルティング人材を取り込むのが主眼。網屋は、サイバーセキュリティーエンジニア派遣事業を立ち上げるため、IT技術者派遣のグローブテック・ジャパン(東京都千代田区)を傘下に迎えた。取得価額は9200万円。

採用・人事評価など人材アセスメント事業を展開する日本エス・エイチ・エルは、英国SHLグループの傘下に入った。SHLが総額148億円を投じてTOBを行い、約70%の株式を取得した。日本エス・エイチ・エルは元々、SHLなどが出資して1987年に設立。SHLとのライセンス契約に基づき事業展開しているが、2008年に資本関係を解消していた。SHLにとっては日本事業の抜本的な仕切り直しとなった。

TOBに伴い、7月に上場廃止となった日本エス・エイチ・エルの本社(東京・中野)

文:M&A Online

関連記事はこちら
【2023年製造業界のM&A】件数が過去10年間で最多に、金額は前年の3倍に
【2023年小売業界のM&A】セブン&アイ、今年も主役の座を譲らず 豪コンビニ運営会社を1672億円で買収

ジャンルで探す