【12月M&Aサマリー】前年比38件増の122件、日本製鉄の2兆円買収を筆頭に大型案件が目白押し

2023年12月のM&A件数(適時開示ベース)は122件と前年を38件上回る大幅増となった。国内、海外案件がそろって勢いを増した。年間累計は前年比119件増の1068件で、2007年(1169件)以来16年ぶりに1000件の大台に乗せた。

一方、12月の取引金額(公表分を集計)は4兆1226億円。日本製鉄が2兆円超で米鉄鋼大手のUSスチールを買収するのを筆頭に数千億円規模の大型案件が続出し、ひと月だけで年間金額の3分の1を占めた。

海外案件は最多の月間32件

上場企業に義務付けられた適時開示情報のうち経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Onlineが集計した。

月ごとのM&A件数が100件を超えるのは3月(105件)、11月(114件)に続いて年間3度目。12月の総件数122件の内訳は買収109件、売却13件(買収側と売却側の双方が発表したケースは買収側でカウント)。このうち海外案件は32件と1年を通じて最多で、日本企業が買い手のアウトバウンド取引24件、外国企業が買い手のインバウンド取引8件だった。

海外案件は年間累計で216件(アウトバウンド147件、インバウント69件)。前年156件(アウトバウンド91件、インバウント65件)を60件上回り、2016年(207件=アウトバウンド158件、インバウンド49件)以来7年ぶりに年間200件を超えた。

前年春以降の記録的な円安の逆風下にもかかわらず、日本企業が買い手のアウトバウンドの復調ぶりが際立つ一方、インバウンドは高止まりしている。

適時開示ベース、M&A Onlineが集計

日本製鉄のUSスチール買収、年間首位に

12月は年間の金額ランキングのトップ10に入る大型案件が目白押しで、日本製鉄をはじめ、その数は5件に上った(一覧表を参照)。

なかでも年間を通じて首位に立つのが日本製鉄。141億ドル(約2兆75億円)を投じて、米鉄鋼3位のUSスチールの全株式を取得する。鉄鋼業界は国内市場が縮小に向かう一方、中国勢の台頭で世界的に再編が進んでおり、日米をまたぐ大型再編を仕掛けた格好だ。

日本製鉄として過去最大のM&Aで、買収完了は2024年中頃を見込む。買収によって日本製鉄の粗鋼生産能力は6600万トンから8600万トンに拡大。現在の世界4位から3位に浮上し、目標とする「1億トン体制」に大きく前進する。

日本製鉄は2019年にインドのエッサールスチールを欧州鉄鋼大手のアルセロール・ミタルと共同買収し、2022年にはタイのGスチール、GJスチールを傘下に収めた。これに続き、先進国の米国にも鉄源一貫製鉄所を持つことになる。

USスチールは1901年に設立し、1950年代まで世界トップの生産量を誇った名門企業。全米鉄鋼労働組合(USW)は外国企業への売却に反対する方針を表明した。今後、議会筋に反発が広がる恐れもある。

政府系投資ファンドの産業革新投資機構(JIC)によるTOB(株式公開買い付け)などを通じて株式を非公開化するのは、半導体パッケージ大手の新光電気工業。富士通の上場子会社売却の一環で、総額は約6850億円。TOB成立後に新光電気が富士通所有分(50.2%)について自己株取得を行う。非公開化で潜在的成長力を最大限に引き出し、半導体分野の国際競争力の強化につなげる。

東京ガスは、シェールガス開発の米国ロッククリフ・エナジーを約27億ドル(約4050億円)で買収することを決めた。東ガスとして過去最大のM&Aで、シェールガス事業の米国子会社TGナチュラル・リソーシズ(TGNR)を通じて全株式を取得。TGNRが保有する天然ガス・天然ガス液の生産量は約4倍に増える。

東京ガスは2030年に利益水準を約2000億円とすることを経営ビジョンに掲げており、その牽引役として海外事業を位置付けている。


ベネワン争奪戦に発展か?

一躍注目を集めることになったのが福利厚生代行のベネフィット・ワンをめぐるTOBだ。ベネワンに対してはエムスリーが11月半ばからTOBを実施しているが、その最中の12月初め、第一生命ホールディングスが突如、“参戦”の意向を表明。第一生命はエムスリー側を3割以上上回る買付価格を提示し、年明け1月中旬をめどに対抗TOBを始める構えだ。エムスリーは買付期間を1月中旬まで延長した。

2020年秋から暮れにかけ、家具・ホームセンターの島忠をめぐり、ホームセンター大手のDCMホームセンターと家具大手のニトリホールディングスが繰り広げた「争奪戦」の再来となるのか、その行方が関心を呼んでいる。

第一生命ホールディングスの本社(東京・有楽町)

11月に続き、アウトソーシングで大型MBO

製造系・技術系派遣の最大手、アウトソーシングはMBO(経営陣による買収)で株式を非公開化する。創業者の土井春彦会長兼社長が米投資ファンドのベインキャピタルと組んでTOBを行い、全株式を取得する。買付代金は最大2211億円で、年間金額ランキングでも9位に入る。

MBOについては11月に、大正製薬ホールディングスが7000億円規模、ベネッセホールディングスが2000億円規模での実施を発表しており、ここへきて大型化が際立つ。

前田建設工業を傘下に置くインフロニア・ホールディングスは、風力発電大手の日本風力開発(東京都千代田区)を買収する。取得金額は2031億円。脱炭素化の流れの中、再生可能エネルギーの核として拡大が見込まれる風力発電市場でナンバーワンの企業グループを目指すとしている。

日本風力開発は1999年設立で、風力発電の独立系事業者として国内トップクラスの実績を持つ。ただ、同社は洋上風力発電をめぐる汚職事件で、前社長が贈賄罪で在宅起訴された。内部統制やガバナンス(組織統治)体制の再構築が急務になっており、これを主導する役割もインフロニアには求められる。

任天堂創業家、東洋建設への買収提案を撤回

東洋建設に対する任天堂創業家の資産管理会社「ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス」(YFO)による買収提案は年末に撤回され、2年越しの攻防戦がひとまず収束した。YFOは数度の延期を経て12月下旬をめどにTOBを始める予定だったが、最終的に東洋建設側の同意が得られなかった。

東洋建設をめぐっては2022年、インフロニア・HDが子会社化を目的に東洋建設にTOBを実施したが、YFOがTOBに参加する意向を示したことなどから、不成立に終わった経緯がある。YFOは今後新たな提案を行うかどうかや、所有する約28%の東洋建設株式の処分方針について確定していないとしている。

◎12月M&A:金額上位(※HDはホールディングスの略)

1 日本製鉄 米鉄鋼大手のUSスチールを子会社化 2兆75億円
2 新光電気工業 産業革新投資機構のTOBなどを受け入れて株式を非公開化 6848億円
3 東京ガス シェールガス開発・生産の米国ロッククリフ・エナジーを子会社化 4050億円
4 第一生命HD ベネフィット・ワンをTOBなどで子会社化(対抗TOBの予定を発表) 2856億円
5 アウトソーシング 米ベインキャピタルと組んでMBOで株式を非公開化 2211億円
6 インフロニア・HD ベインキャピタル傘下の日本風力開発(東京都千代田区)を子会社化 2031億円
7 資生堂 スキンケア化粧品の米国DDGスキンケアホールディングスを子会社化 640億円
8 大塚HD 女性向け健康食品製造の米国ボナファイドヘルスを子会社化 627億円
9 グローリー 小売業向けソフト開発の英国フルイドを子会社化 274億円
10 サムティ 不動産開発のベトナムS‐VIN2を子会社化 233億円
11 東宝 東京楽天地をTOBで子会社化 232億円
12 積水樹脂 ドイツの道路保安用品メーカー、WEMASグループを子会社化 163億円
13 JMDC 予防医療サービスのキャンサースキャン(東京都品川区)を子会社化 142億円
14 阪急阪神HD 東宝が筆頭株主のオーエスをTOBで子会社化 123億円
15 シーユーシー 足病クリニック運営の米国Albaron Podiatry Holdingsを子会社化 100億円
16 NISSHA 医療機器向け精密部品製造の米国Isometric Intermediateを子会社化 93.5億円
17 ダイドーグループHD ポーランドの清涼飲料メーカーWosanaを子会社化 72.6億円
18 理想科学工業 東芝テックグループからインクジェットヘッド事業を取得 71.2億円
19 SHIFT LINE販促サービスのクラブネッツ(東京都渋谷区)を子会社化 57.5億円
20 マネックスグループ 暗号資産運用のカナダ3iQを子会社化へ 56.6億円

文:M&A Online

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